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むぎわら日記

自然、読書、模型のことなど

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『山の音』川端 康成(新潮文庫・角川文庫)

2025年04月23日 | 読書
戦争が終わって、復興の兆しが見え始めた日本。そこで暮す中産階級の家族の中にも、癒されることがない戦争の傷痕がうずくのです。
主人公の真吾は還暦を過ぎ鎌倉から東京の会社に通っているのですが、彼は戦争に行く年齢でもなく、特に戦争の直接の被害を被っていない人間です。彼の妻も同様ですが、息子の修一は帰還兵のため、やや冷めた心を持っています。親子であるにせよ心がどこかよそよそしく理解し合えない状態なのでした。
修一の嫁の菊子は、美人で真吾にもなついていますが、彼女は戦争では被害を被らなかった部類の人間です。そして、彼女も、修一とは一緒に暮らしながら心が通じ合っていない状況のようでした。
また、修一の浮気相手の女とその同居の女性は、戦争未亡人であり、彼女の友達で真吾の会社の事務員の英子も恋人を戦争で無くしています。彼女たちとのやり取りもぎこちなくしてしまう真吾。
なぜかと言えば、日本古来から続く家族を取り巻く常識が、帰還兵の男の傷ついた心理や、夫や恋人を失った女性には通用しないのです。そのことによって、戦争の被害を大きく受けなかった主人公は、戸惑うばかりなのでした。
そして、古い日本の象徴として思い出されるのが、若くして亡くなった妻の姉の美しい姿なのです。
戦争が残した人間同士の間にある傷痕が、戦争が終わっても元に戻れない日本の家族のつらさを描いた物語なのです。
一般的な解釈とは違う角度から作品を分析してみましたが、どうだったでしょうか。


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