むぎわら日記

日記兼用ブログです。
野山や街かどで見つけたもの、読書記録、模型のことなどを載せております。

『冷たい夏、熱い夏』吉村昭(新潮文庫)

2019年07月09日 | 読書
 毎日芸術賞受賞作。
肺ガンで50歳の若さで亡くなった弟の闘病をドキュメンタリータッチの私小説として残した作品です。
私(吉村氏)は、弟に極悪性のガン(余命1年以内)と診断されたことを最後まで隠し通す覚悟をします。親戚一同、医療関係者に至るまで協力させることでその信念を貫き通せます。
淡々とした文章で綴られているので、私小説なのにドキュメンタリータッチという吉村昭の持ち味となっています。
お涙頂戴的な描写が無く、その分、冷静に死を見つめられ、真の暖かさが感じられました。
末期がん患者の姿もあますことなく描かれており、理解が深まったと思います。

昔、お世話になった農家のおじさんが、ガンで亡くなる直前に、「今、モミ洗いが終わったところです」と電話をかけてきたことを思い出しました。私は、その方がもう今年は農業をしないということを知っていたので、末期がん治療で夢と現実の区別がつかなくなっているのだろうと思って「そうですか、今年は良い作になりそうですね」と話を合わせて対応しました。
この小説を読んで、ガン患者の末期の幻影が、長くリアルなものであるということを実感できました。
ガンで親しい人を亡くす可能性はかなり高いと思うので、読んでおくと、その人の苦しみや、より親しい人たちの悲しみを少しでも理解できるようになりそうです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする