はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

雨の匂い

2008-10-09 16:56:43 | 小説
雨の匂い (中公文庫 ひ 21-4)
樋口 有介
中央公論新社

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「雨の匂い」樋口有介

 末期癌で入院中の父と家で寝たきりの祖父を持つ柊一は、大学に馴染めず、介護とアダルト専門のビデオショップでのアルバイトで暗い青春の日々を送っていた。そんな柊一に、ある日豪邸の塀塗りの仕事が舞い込む。
 塗装工だった祖父筋からの依頼を、持ち前の実直さと勤勉さでそつなくこなす柊一の前に、2人の少女が現れた。豪邸の娘・彩夏と暗色系の服に身を包んだ李沙。謎めいた少女たちがみせる奇妙な振る舞いと、同時期に発生した放火事件の関係は? 移ろいゆく季節の温もりと雨の匂いに彩られた悲劇の行方は? 青春ミステリの旗手・樋口有介真骨頂の切ないミステリ。

 樋口十八番の青春物ということで、もちろん出来は上々。シニカルな主人公がかわいいヒロインたちと甘酸っぱい時を過ごします。
 見所は主人公・柊一のキャラ。実直で勤勉で、あらゆることに手が抜けない、とても現代の若者とは思えない彼の塗装仕事と介護ぶりが面白い……というのとはちょっと違うか。思考錯誤しながらの一挙一動が綺麗。普通に考えたら大変なことを、なんの力みもなく淡々とこなしていく姿が本当に素敵で、思わず見入ってしまう。
 それだけに、結末は恐ろしかった。起こってほしくない最悪のケースの到来の気配が、作品全体をびしっと引き締めている。オチに関しては賛否両論あるだろうけど、柊一の下した決断を許せぬ人もいるだろうけど、「善意の人」でない僕には、とても合点のいくラストだった。