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Boarding Vouchers

2018-08-07 00:33:29 | 旅行記
「整理券」について。
考えてみれば、整理券とは不思議な言葉。

日本語には「○○券」という名前の券はいくつもある。
仮に、日本語の語彙は標準的だけど、「○○券」の存在を知らない人がいたとする。
そういう人が「割引券」「福引券」「診察券」「入場券」などを初めて見聞きしたとしても、どういうことをする券なのか、想像はつくだろう。
これらは「割引してもらえる券」「入場するための券」などと、「○○するための券」というネーミングなので、その券を使ってもたらされる結果が明確だから。

一方、「商品券」や「ギフト券」は、その結果がややあいまいで、分かりづらいかもしれない(正確に言うなら、商品引換券とか贈答用商品引換券といったところ)。
さらに分かりづらいのが整理券。券を使うと「整理される」結果になるのか? 整理券を知っている者でも、そう考えると分からない。


しかも、整理券といっても大きく2種類がある。
1つは、ワンマン運転される乗り合い交通機関(バスや鉄道)で、それぞれの乗客が乗車した地点(駅や停留所)を示すもの。
もう1つは、人数・数量制限があったり、サービスを受ける順番や時間帯を区分するために、並んでいる時など事前に配って、その権利があることを示すもの。
まったくと言っていいほど違う目的を持つ、2つの整理券がある。また、交通機関でも、着席定員がある列車における「乗車整理券」など、後者の意味の整理券を販売する場合もある。
以下、前者の整理券について。※以前、秋田市営バスの整理券を取り上げた。

ワンマン運転の列車になじみがない人、首都圏中心部のバスのような均一運賃で整理券がないバスしか乗らない人には、整理券を知らないか知っていても意識できないだろう。
そういう人が地方へ来て整理券方式のバスに乗っても、整理券を取らないでしまったり、名前を知らず「回数券を取らなきゃ」と言ってしまったり、あるいは取っても下車時に運賃箱へ入れるのを忘れてしまったりすることがある。

秋田市中心市街地循環バス・ぐるる(秋田市が秋田中央交通に運行を委託)では、100円均一運賃なのに、整理券を発券している。無意味に思えるかもしれないし、実際に整理券の存在に気づいているのに、わざと取らない乗客もたまにいる。でも、(ぐるる以外も含めて)整理券が出ている以上は取るべきだと思う。理由は2つ。
まずは、上記の原則どおり乗車したバス停の証明。ぐるるは、厳密には「1周を越えるまで100円均一」という運賃設定。だから、乗ったバス停が分からないといけない。

もう1点は、乗客側でなく運行する側のため。簡潔に言えば「利用実態の調査」。
単純に運賃箱に回収された整理券の枚数を数えれば、総乗客数が分かるし、運行ごとに運賃箱を回収して券番号も調べればどこで乗る客がどのくらいいるのかも分かる(秋田市営バスでは時々実施していた?)。
それだけでなく、現在の感熱紙に日付が印字される、電子式(?)整理券では、「何時何分始発の便で、何番目のバス停で何枚発券したか」を集計したデータを印字できる機能があるそうで、理論上は各運行ごとかつ各バス停ごとの乗車客数が把握できる。中央交通のいちばん安い発行機でもできるらしい。
ぐるるの場合、赤字分が秋田市から補填されることもあり、乗車人数の把握には、整理券をカウントして正確を期しているのかもしれない。(ただし、フリー乗車券利用分や無料の子どもが取ってしまった分もあって、整理券だけではどうしても誤差は生じるだろう。)
バス会社によっては始発点では整理券を出さないところもあるが、出ているのならば、乗車実態把握に協力して、定期券やフリー乗車券を使う場合でも、誰もが必ず整理券を取るべきである。
※バスカード類を導入している所では、カードに整理券の情報が書きこまれるので、原則取る必要はない。鉄道では、きっぷ類を持っていない人だけ取るように案内している会社・地域もあるが、まれに全員必ず取れとする会社もある。いずれにしても、取ったほうがいい場合が多い(特にバス)ものの、ケースバイケースなので、表示や放送に従いましょう。


以前、ぐるるの車内でこんな場面に遭遇した。
乗ってきたグループ客が、整理券を取らない。
マジメな運転士さんは「整理券をお取りください」と案内するも、通じない。どうもアジア系外国人のようだ。
どうするか? あきらめるか? と思っていると、すかさず発券機のほうを指差しながら「ナンバーチケットプリーズ」とか言うと、見事に通じた。

これが、冒頭の整理券という言葉の意味を悩むきっかけになった。
そもそも海外の乗り物に整理券(と同じ役目の券)があるのか知らないけれど、「整理券」を英語でどう言うのだろう。
「整理する」意味の英単語はいろいろあるらしいが、そのどれか+ticketだと、おそらくどれも通じなそう。日本語としても整理券がちょっと意味が分からないのと同じように。

ナンバーチケットだと「数字が書いてある券」ということだろうか。直感的には伝わりそうだけど、本質は伝わらなさそう。正確な訳語ではないようだ。
じゃあ、整理券を意味する英語は?

今回の宮城旅行で分かった。
JR東日本仙台支社のキハ110系気動車。
正面「整理券」の横に!
「Boarding Vouchers」だそう。
「Vouchers」は「バウチャー(バウチャー券)」として、パック旅行を申しこんだ時、「提示の必要はありませんが、旅行終了までなくさずにお持ちください」といって渡される券の名前で知っていた。この場合は旅行契約の証明書みたいなものか。旅行業界では、ほかにもこれと似ているようで微妙に違う使い方をすることもあるようだ。
「Boarding Vouchers」だと、「乗車証明書」というニュアンスになりそう。なるほど。整理券の本来の目的である乗車駅の証明という本質を突いた名称だ。


となると、JR東日本盛岡支社が整理券の呼称を使わなくなり「乗車駅証明書」としたのも、とても正しいことのようにも思える。
(再掲)盛岡支社の乗車駅証明書発行機。英語はなし
ただやっぱり、乗客には「整理券」が浸透しているし、駅舎にある証明書とまぎらわしいし、盛岡支社だけが単独で変更した必要性は疑問。


ここで、整理券を発行する機械について。
上の2枚、仙台支社と盛岡支社は、券の名前の表示は違っても、機器は同型だと思われる。
仙台支社のものは銘版が見え、レシップ製の「整理券発行機」「LTM02」「MADE IN JAPAN」であった。
レシップ 整理券発行機LTM02
オレンジ色のボディで、天面に取っ手があり、発券口の上の矢印の部分がひさしのように出っ張っている発券機は、全国的によく見かける。特にJRグループを含む鉄道ではシェアが高い(色違いだったり、出っ張ったひさしがないものもある)。
このようなワンマン機器は、バスと鉄道で共通の製品なのが一般的だが、レシップでは、鉄道向けに特化した製品を積極的に製造(対面で接客する運賃箱など)していて、鉄道会社に好まれているのかもしれない。

バス会社でもそれなりに使われている。秋田市営バスが1990年代中頃に試験的に導入していた、バーコードが印字される発行機とそれに対応した運賃箱が同社(前身の三陽電機製作所)製だった。【発券機について後述あり】
ちなみに中央交通は、別の小田原機器製のもので、「整理券機」と呼称する製品。

仙台支社と盛岡支社の発行機は、どちらも新しそう。盛岡は2013年から券の名称が変わったので、少なくともそれ以降の製造ということになる。
鉄道の整理券発行機は、乗客が立つスペースに置かれていることが多い。
701系の整理券発行機はドアの真ん前(写真は秋田支社の車両)
乗降時に荷物がぶつかったり、混雑時に立ち客にもたれかかられたり、バスよりも過酷な環境に置かれているとも言える。ある程度の年数が経つと、塗装がはげることが多いようで、JRさんはお金持ちなこともあるのか、定期的に新品に交換していると思われる。
廃車から取り外して、別の車で使い回すバス会社とは対照的。ちなみに、小田原の感熱紙式整理券機は、正面の「整理券」と表示された板が、経年で劣化して茶色く汚れる傾向があるようだが、レシップでは見たことがない。

レシップの発行機で特徴的なのが、天面の取っ手。小田原など他社の発行機にはないし、使いみちが不明。
中を開けて用紙補充やメンテナンスをする時に使うのだろうか。あるいはとても頑丈そうな取っ手だから、10キロ弱あるという発行機全体を持ち運ぶ時にも使えそうだけど、そもそも持ち運ぶものではない。
メーカーのホームページには、LTM01という、色は違うがよく似た発行機が掲載されていて「取手はオプションです」とのこと。そんなに必要なものなんでしょうか。

また、LTM01には「音声案内(整理券をお取りください)ができます。(オプション)」そうだ。
仙台や盛岡のはしゃべらないようだけど、よく見れば、正面上部左側(整や乗の上のオレンジ色部分)に小さい穴が空いている。そこにスピーカーや音声ユニットを組みこめそう。

JR東日本秋田支社の整理券発行機は、
すっかりおなじみ
これもきれいだから、最近交換されたのだろうか。でも、側面の「整理券をおとり下さい」は薄れている。
仙台や盛岡とよく似ているが、違うのは、正面から天面にかけての上部が、面取りされたように角度がついていること。おそらく音声ユニットは内蔵できないタイプということになろう。
秋田では701系導入時から、外観はこれと同じ発行機が使われ続けている。他の鉄道会社でも見かけ、レシップの整理券発行機といえば、これというイメージ。今はモデルチェンジして販売されていないのかもしれない。【7日追記】秋田市営バスのバーコード付き整理券も、ボディはこれと同一の形・色だったはず。導入時期も一致する。発券口上の出っ張りはなく、平面に同じ矢印が描かれていたかな?
【10月7日追記】秋田車両センターの男鹿線用のキハ40系ワンマン対応車に設置されたレシップ製の整理券発行機の中には、ドアが開閉できるようになる時とできなくなる時(=運転士がドアスイッチを操作した時)に、「ビー」とブザーのようなけっこう大きい音を出すものがある。有人駅の時は鳴らない。
701系のものと外観は同一だが、中にブザーユニットが内蔵されているようだ。
ドアチャイムが鳴らない車なので、その代わりを兼ねているのかもしれない。

【2019年4月22日追記】秋田地区でも、仙台と同型の「Boarding Vouchers」タイプが設置された車両があった。2018年頃に3両編成から2両に短縮・ワンマン対応されたN12編成で確認。将来的にはこれが主流になっていきそう。(以上追記)

JR東日本秋田支社管内の無人駅にある乗車証明書発行機も、これとよく似た色と形だが、メーカーは未確認。
駅の乗車証明書は、ボタンを押した時にその都度印字(たしか片面だけ)して、カットされて受け口に落ちるので、整理券発行機とは完全に同一の機構ではないけれど、共通部分は多そう。


整理券の由来は、「乗客を整理する」ということなんだろうか。
だとすれば、運行側の視点による命名。
それに、「整理券」はどこか軽い印象がして、取らなくてもいいように感じてしまうかもしれない。「Boarding Vouchers」すなわち「乗車証明書」だと、重要度が増す気もする。
だけど、整理券の名は乗客にも広まって定着してしまっているから、今さら「整理券改名運動」などしようとしても、どうしようもない。
整理券方式の交通機関であっても、ICカード普及により、整理券そのものを使う機会は減っていく(カード内に整理券情報が記録されるから)だろう。でも、整理券の名前は永遠に残るかもしれない。

あと、外国人旅行客が増える時代、各事業者(特に地方のバス会社)には、車内外の表示や乗務員の接客マニュアルにおいて、「Boarding Vouchers」を使っていくべきであろう。っていうか「Boarding Vouchers」でホントに通じるのかな? とまだ半信半疑。

翌2019年、東北地方などJR東日本の一部無人駅で稼働開始した乗車駅証明書発行機には、「BOARDING TICKET」と英訳が表記された。「搭乗券」の意味があるそうだが…
※公益社団法人 日本バス協会が2017年に示したガイドラインでも、整理券を「boarding ticket」としている。

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6 コメント

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機械の場所 (りお)
2018-08-09 22:40:26
無人駅からワンマン列車に乗ることがありますが、乗り口の反対側のドアの方に機械があって、ほとんどの人が整理券を取っていない、ということがあります。
両側に付けてくれれば取りやすいのに、と思っています。
Suicaに対応してくれれば、もっと楽なのですけどね。駅に自動改札を作るのは大変だと思うのですが、バスのように車体に機械を付けることはできないんでしょうかね。
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片側だけに設置 (taic02)
2018-08-10 00:47:52
たしかに片側設置だと、立ち客に隠れてしまうこともあります。オレンジ色だとしても、不慣れな人は気付かないでしょうし。
発行機の値段が分かりませんが、鉄道会社によっては両側に1台ずつ設置したり、少し角度を付けて設置して反対側から乗っても気づきやすくしているところもあります。
秋田地区の場合、既にきっぷ類を所持していたり、駅で証明書を取ったりしている時は、車内で整理券を取る必要はないらしいので、さほど重要視していないのかもしれません。

Suicaについては、バスと同じ形になるわけで、車内にリーダーを設置するのは難しくないはずです。ワンマンでなく乗降客が多い時間帯は、列車の遅延につながる可能性もありそうですが。
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整理券の英語 (バニラアイス)
2019-06-06 17:51:13
いくつか考えてみました。いつも勉強になります。

乗車場所の証明という観点なら
・Numbered ticket (issued) at the boading point
・Numbered ticket at boading

最終的に運賃の支払いに使うという観点なら
・Numbered ticket for fare adjustment

日本的なものの説明って難しいですね!
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どれがいいのか (taic02)
2019-06-06 23:05:13
こちらこそ勉強になります。英語は苦手なので。

ご指摘のうち、どれがベストなのかは判断できかねますが、「乗車場所の証明」が整理券の本質でしょうから、そのほうがいいのでしょうかね。ちょっと長くなってしまうのは、やむを得ないのでしょうか。
日本語の「整理券」は簡潔でいいですが、いつ誰が考えた言葉なのか気になります。

ラーメン屋や社員食堂のような、自動券売機で食券を買う方式は、外国人は戸惑うそうですし、一方でその合理性に感心する人もいるらしいです。
整理券はどうなんでしょう。
返信する
バニラアイス (答えは分からずですが・・)
2019-06-07 15:35:27
日本国語大辞典で「整理券」を引いてみましたが、いつから使われている言葉なのかなどの詳細はありませんでした。
wikipediaの「乗車整理券」の解説ページには詳しく書かれていましたが、情報の出所について記載がないようで、全て本当かも分からなかったのでこちらへの引用は控えたいと思います。

「Boarding Vouchers」で通じるなら短く言いやすくていいと思いますが、実際通じるもんでしょうかね。
「通じないかも」と思って説明を加えてしまうとどうしても長めになってしまいます・・。
「運賃支払いに必要な乗車場所の証明」ということをあまり長くなく包括的に言えないかなと思い、「Fare zone number ticket」というのも考えてみました。

この間仙台市内のバスに外国人観光客が乗っていて、整理券の仕組み分かるのかな?と見ていましたが、2日間乗り降り自由のフリーエリアパスを持っていました。
地方に興味を持って来るような外国の方は、あらかじめお得で楽に動ける方法を調べて来るのでしょうね。
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統一した案内を (taic02)
2019-06-09 21:17:28
「Fare zone」運賃区分・運賃境界を意識したネーミングですね。バスの場合は「バス停ごと」でなく「運賃区分ごと」に数字が変わることが多いので、よりふさわしい感じがしなくもありません。
日本語の「整理券」だって、意味としては伝わりづらいですから、外国語・外国人には難しそうです。

日本人でも同じですが、今や興味があって調べられれば、たいていのことは分かります。
そうでない人もいるので、やはり分かりやすいネーミングや表示は必要です。
オリンピック前年、インバウンド増加の中、国交省なり観光庁なりバス協会なりで、統一した案内をするべきだと思っているのですが。
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