犬も食わぬ

　犬も食わぬと言えば夫婦喧嘩、しかし近頃の犬はドッグフードしか食べぬらしい。昔々の我が家の犬は残飯が主食だった。残飯と言えども、冷えたご飯に、味噌汁の残りをかけたこの地方では『シシご飯』だった。多分、汁ご飯がなまったものだと思う。
　
　犬も食わぬのが今週の初め、南の一戸建で勃発。南の一戸建て、オージー（オーストラリアの背が高い人）のご主人と、日本人の奥さん。子供は女の子の二人、近頃の奥さんは元気がなく、動作が緩慢、きっと子育てで疲れているのだろうと思っていた。
　
　彼女の実家はこのマンション。目と眉毛の距離。彼女の母親はオイラも見知っている人だ。当日、勝手口の外で娘と話していた。丁度聞こえるくらいの大きさの声で、とても長く話していた。洗濯物を干していた妻が「聞いているみたいに思われるから後で干す」と室内へ戻った。
　
　しばらく後、奥さんの大声が続いた。激昂しているような怒りの声だった。それ以来、子供さんの声が聞こえない日が数日続いている。二階の窓が開いていても夜は閉まる。彼が一人でいるのだろうか。それとも母親が風を通しているのだろうか。お互い日本人でも心の内までは伝えられないものだ。まして母国が違えばなおさらだろう。犬も食わぬからそろそろ帰っておいで。