Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「ユニコーン・ソナタ」ピーター・S・ビーグル著(井辻朱美訳)早川書房

2009-08-20 | 外国の作家
「ユニコーン・ソナタ」ピーター・S・ビーグル著(井辻朱美訳)早川書房を読みました。
ロサンゼルスに暮らす13歳の少女ジョーイは音楽好き。毎日、学校帰りにパパス楽器店に立ち寄り、ギリシア人のパパスさんと音楽についておしゃべりしている。
そんなある日、食事に出かけるパパスさんにジョーイは店番を頼まれます。
そこへひとりの見慣れぬ少年が訪れ、角笛を売りたいと言います。
30センチくらいの長さの、巻き貝のようにねじられた銀青色の角笛から流れるのはこの世のものとは思えない妙なる調べ。
じつはこの少年は、人間に姿を変えたユニコーンでした。
やがて角笛の音に導かれ、ジョーイはユニコーンの住む幻想郷「シェイラ」へと赴きます。

美しい・・・お話でした。
ユニコーンは出てきますが、「最後のユニコーン」の続編ではありません。
インディゴに出会い、その角笛の音楽に魅了され、音をたどってアメリカの郊外の街角から突然「境」を越えてシェイラにたどりついたジョーイ。

「ここはいったいなんて場所なの。なんでもこわくて死にそうになるか、美しすぎて胸がつぶれそうになるか、どっちかしかない。いったい、ここは、どういう場所なの?」

見上げた天空の深みに落ちて行きそうな真っ青な空。
草からも土からも石からも絶え間なく聞こえる美しい音楽。
フォーン、ドラゴン、川に住むイタズラ者のジャラ。
そして色とりどりの美しいユニコーンたち・・・。

本のカバーにスピルバーグ監督のドリームワークスでアニメ化と書かれていましたが、もう実現したのでしょうか?この美しいシェイラがどのように表現されているのか見てみたいです。そしてインディゴがアメリカのハイウェイを駆け抜ける場面は、読んでいていかにも映画ばえする場面だろうなと思いました。著者がシナリオライターをしていることもあるのかも。

そして一番の核であるシェイラの音楽。
これを誰がどのような曲に仕上げるのか、とても興味があります。
私のイメージではバッハの教会音楽。でもそうすると「今まで誰も聞いたことがない」という描写と相反してしまいますが。

境を越えられる、あるいは夢の世界でシェイラと接する人間がいる。
境を越えて私たちの世界で貧しい暮らしを営んでいるユニコーンもいる。
でももちろんそれが見えない、聞こえない人が大半。
シェイラとは夢、芸術、美しさ、それが感じられるほんの一握りの人の見える世界を体現したものなのでしょうか。

著者は飛びぬけた早熟な才能で「心地よく秘密めいたところ」「最後のユニコーン」で注目を浴びて以来目立った小説の発表がなかったので、どうされているのかと思っていました。(脚光を浴びすぎて書けなくなった?なんて想像していました)
でも訳者あとがきを見るとノンフィクションやシナリオライターとしてコンスタントにお仕事されていたのですね。知らなかったです。
御年70歳、まだまだがんばっていただきたい小説家です!