Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「ダブル/ダブル」マイケル・リチャードソン編(柴田元幸/菅原克也 共訳)白水社

2006-03-12 | 柴田元幸
「ダブル/ダブル」マイケル・リチャードソン編(柴田元幸/菅原克也 共訳)白水社を読みました。
双子や分身、鏡の像や影…分身をテーマにしたアンソロジー。
収録作家はジョン・バースやポール・ボウルズなど。
私が面白いと思ったのは冒頭のアンデルセンの「影」。
権力欲が強く、老獪な「影」。それにくらべてのんきにも見え、影のいわれるがままに行動してしまう「哲学者」。
ふたりが入れ替わってしまうラストは、寓話のように感じました。
それからルース・レンデルの「分身」も印象的でした。
主人公の婚約者のリーザ。そしてリーザによく似た、でもリーザより13歳も年上のゾーイ。
主人公がゾーイに「僕はあなたに、もしこう言ってよければ、より好ましい別のリーザ、彼女の人生にもうひとつの道が開けていたならそうなっていただろう13年先のリーザを見ているのです。」というセリフが考えさせられました。
「自分と似た人」というと私は自分と年も背格好も似ている人を想像しますが、目をこらせば「そうなったかもしれない自分」「そうなるであろう自分」と、世の中にはたくさんの「自分」があふれているのですね。
両方の女性を失った主人公の破滅、現実と幻想をたくみに織り込んだ作品だと思いました。