「遠くの声に耳を澄ませて」宮下奈都著(新潮社)を読みました。
くすんでいた毎日が少し色づいて回りはじめる。
錆びついた缶の中に、おじいちゃんの宝物を見つけた。
幼馴染の結婚式の日、泥だらけの道を走った。
大好きなただひとりの人と別れた。
看護婦、OL、大学生、母親。普通の人たちがひっそりと語りだす。
雑誌「旅」に連載されていた連作短篇集です。
どれも「旅」がモチーフになっており、登場人物たちがさりげなくリンクしています。
北海道の朱鞠内湖に旅行した女性の話。
「その名前の響きの美しさに吸い寄せられた。しゅまりないこ。そう発音した途端に唇からこぼれる小さな踊り子たちがお辞儀をするような感じ。」
相変わらず宮下さんの比喩の卓抜なこと。
一番よかった作品は冒頭の「アンデスの声」です。
田舎の単調な暮らしと思っていた祖父母の生活に聞こえていたアンデスの声。
キトからの風が吹いてくるかのようです。
この本で惜しむらくは、ほぼどの作品も「誰かとの会話+主人公女性の内省」が続く文章で、しかもどの女性も職業は違えど内省の「声」のトーンが似ていることです。 ひとつひとつの作品はよいのですが、続けて読むとちょっと単調に感じられます。全体的に「じわんとくる」ラストばかりでバラエティに欠けるというか。
『白い足袋』など「走れメロス」のパロディ的でもっと軽やかな書き方が合う気がするし、宮下さんの既作を読んでいて、コミカルな話を書いたらきっと上手いだろうなーと思うのですが。宮下さんのはっとさせられるような比喩は大好きなのですが、まさに登場人物のみのりのように
「細くてトビウオみたいな子だった。この子はいつか跳ねるだろう。その予感にどきどきしたのかもしれない。」という感じです。
宮下さんもいつか跳ぶ!と私には予感させられているだけに、早く「注目の新人」の段階をトビウオのように跳び越してほしい。
宮下さんの作品が「女性一人称の日常を丁寧にすくいとった話」がすばらしいのはもちろんとして、そこだけにとどまらず、「宮下さんの繊細な筆遣いを生かしたまま物語は骨太」というような、そんな話が読みたい!
・・・一読者としての願望です。
新刊「よろこびの歌」も、これから読みます。楽しみです。
くすんでいた毎日が少し色づいて回りはじめる。
錆びついた缶の中に、おじいちゃんの宝物を見つけた。
幼馴染の結婚式の日、泥だらけの道を走った。
大好きなただひとりの人と別れた。
看護婦、OL、大学生、母親。普通の人たちがひっそりと語りだす。
雑誌「旅」に連載されていた連作短篇集です。
どれも「旅」がモチーフになっており、登場人物たちがさりげなくリンクしています。
北海道の朱鞠内湖に旅行した女性の話。
「その名前の響きの美しさに吸い寄せられた。しゅまりないこ。そう発音した途端に唇からこぼれる小さな踊り子たちがお辞儀をするような感じ。」
相変わらず宮下さんの比喩の卓抜なこと。
一番よかった作品は冒頭の「アンデスの声」です。
田舎の単調な暮らしと思っていた祖父母の生活に聞こえていたアンデスの声。
キトからの風が吹いてくるかのようです。
この本で惜しむらくは、ほぼどの作品も「誰かとの会話+主人公女性の内省」が続く文章で、しかもどの女性も職業は違えど内省の「声」のトーンが似ていることです。 ひとつひとつの作品はよいのですが、続けて読むとちょっと単調に感じられます。全体的に「じわんとくる」ラストばかりでバラエティに欠けるというか。
『白い足袋』など「走れメロス」のパロディ的でもっと軽やかな書き方が合う気がするし、宮下さんの既作を読んでいて、コミカルな話を書いたらきっと上手いだろうなーと思うのですが。宮下さんのはっとさせられるような比喩は大好きなのですが、まさに登場人物のみのりのように
「細くてトビウオみたいな子だった。この子はいつか跳ねるだろう。その予感にどきどきしたのかもしれない。」という感じです。
宮下さんもいつか跳ぶ!と私には予感させられているだけに、早く「注目の新人」の段階をトビウオのように跳び越してほしい。
宮下さんの作品が「女性一人称の日常を丁寧にすくいとった話」がすばらしいのはもちろんとして、そこだけにとどまらず、「宮下さんの繊細な筆遣いを生かしたまま物語は骨太」というような、そんな話が読みたい!
・・・一読者としての願望です。
新刊「よろこびの歌」も、これから読みます。楽しみです。