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いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

バーチャルで実学。

2022-01-19 06:36:31 | Weblog
 先日、日本経済新聞がデジタルビジネスでの活用が期待される仮想空間技術「メタバース」について、アバター風で仕立てたキャラ対談でわかりやすく解説していた。(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD1758M0X11C21A2000000/)

 メタバースとは、「メタ(超越・高次の)」と「ユニバース(宇宙)」を組み合わせた造語で、オンライン上に構築された3Dのバーチャル空間、またはそのサービスを指す。自分自身だけでなく、離れた場所にいる他者とも空間を共有できるので、交流したり何かの作業を一緒に行ったりすることも可能になる。

 アバターも対話していたが、バーチャル空間でいろんな体験が可能なると、SNSに次ぐムーブメントのになる予感がする。では、具体的にどう利用するのか。多くは、「ヘッドマウントディスプレー(HMD)」という装置を頭に着け、アバターで空間に入り込む。そこでいろんなバーチャル体験、アパレルの場合なら仮想ショッピングが可能だ。



 バーチャル店舗ではリアルショップの感覚で入店から商品探し、詳細チェック、スタッフの応対までを体験できる。アバターを操作するのはお客である自分、接客にあたるスタッフ。離れたところにいる友人の参加も可能なので、買い物に付き合ってもらえる。商品はCGで再現され正面、背面はもとより、側面や斜面からもデザインやフォルムを確認できる。商品が気に入れば、そのままオンラインショップに移行して商品を購入することができる。

 従来のECではお客が一方向でサイトを閲覧し、商品やスペック、概要を確認して購入するかしないかを判断した。メタバースではバーチャルとは言えスタッフが接客に参加する。ECでは待ちの姿勢だった販売側が、積極的に売りに関わることができる点は画期的だ。

 また、遠隔地に住んでいるお客も、わざわざ実店舗まで出かけずに接客を受けることができる。ECでは購入に至らなくても、接客を受ければお客の気持ちが変わることもあるだろう。メタバースではオンラインショップにおけるコンバージョンレート(サイトへのアクセス数に対する買い上げ率)をアップさせ、カゴ落ちを少なくすることができるかもしれない。


どこまでストレスフリーな買い物、接客ができるか
 
 ここで気になるのが、どこまでリアリティが追求されるか、である。例えば、お客である自分の意思が完全にアバターに伝わり、日によって異なる気分が表情や仕草に再現されるのか。人間には喜怒哀楽、艱難辛苦がある。ストレスが溜まった時、仕事で落ち込んだ時など、好きな服を購入することで気分が変わることは往々にしてある。

 逆にベテランの販売スタッフはお客の表情や言葉遣いなどから、心の状態を察して応対に生かす術を持つ。経験に裏打ちされた優れたコミュニケーション能力をもつからだ。それが得手して販売力にも繋がる。つまり、お客の表情や気分などメンタルな部分、それに対する販売スタッフの対応力がどこまでアバターで再現されるのか。それが可能になってはじめて、メタバースはリアルな接客と何ら遜色ないということになる。

 そのレベルによって、オンラインショップに移行させた後のアイサスというか、アイシーズのフローが変わり、商品購入を決定づける「クロージング」にも結びつけられると思う。お客にしても、販売スタッフにしても、どこまでストレスフリーな買い物、接客が実現できるかがメタバースの課題だと思う。



 そして、もう一つ気になるのがコンピュータグラフィック(CG)で再現される商品のレベルだ。ECの場合は二次元の写真のみだが、CGではデザインやフォルム、素材感までが3Dでよりリアルになる。ただ、お客にとってはその先の「触感」までわかるのかどうかである。アパレルの場合、糸の種類、織り方、生地の組織で、着た時の感触が大きく異なる。実店舗を訪れるお客はまずそれを目で見て、次に手で触って、試着して着心地を確かめようとする。

 だから、触感が売れ行きのカギを握ると言ってもいいだろう。それがメタバースでも可能になるのかである。日経新聞の対談にも書かれているが、おそらくHMDに加え、お客自身が本当にメタバースで生きているような没入感を得るには、五感をリアルに再現するウェアラブル
の機器が必須だろう。手ではグローブ、足ではブーツ、体全体ではボディスーツである。

 現状ではそうした機器は高価なようだし、複雑なメカで重量もあり、長くは着けていられないようだ。かつてのゾゾスーツもタイツのようなニット素材にゴムをコーティングし、身体の各部位にドットをプリントした。それを専用アプリをダウンロードしたスマホカメラで撮影すれば、体型サイズが計測できるようしたが、データに誤差が生じて限界があった。結局、ゾゾスーツ事業自体が終了。やはり、簡素化するにはまだまだ技術が追いついていないのだ。

 つまり、ウェアラブルの機器が眼鏡のような形に進化して軽量化され、グローブやブーツ、ボディスーツも身体への負担を軽減しないと、メタバースは広く普及はしないだろう。これからウェアラブルな機器が開発され、進化していくだろうから、それ次第と思われる。


バイヤー教育の教材にできないか

 ここからはあくまで筆者の考えと提案である。メタバースがバーチャル店舗の運営を可能するのだから、商品の「模擬バイイング」や「仮想編集」もできなくはないと思う。オンライン上でバーチャル展示会を催し、そこでバイヤーが仕入れ、買い付けた商品をバーチャル店舗で編集し、入店したお客のアバターが購入するというフロー。それをバイヤー育成・バイイング能力向上の教材に応用できないかと思う。

 セレクトショップでは、こうしたメタバース教材を導入して指導教育を行う。スタッフがバイヤーとお客でそれぞれ交互に参加すればいい。ヒットしたアイテム、売れ残り、全く売れなかった商品を分析できるし、全体的な消化率を点数計算してバイヤーのスキルを磨く。また、ファッション専門学校向けの教材にすることも考えられる。



 専門学校におけるビジネスの授業は、講義による座学が中心だ。あとは学生にリアルショップを運営させる程度で、バイイングのノウハウを学ぶ実践教育が行われているとは言い難い。メタバースなら模擬バイイングというか、仕入れのシミュレーションも可能になる。バーチャルとは言え、学生に売上予算から粗利の見極め、交差比率などを考えさせた上で、自分で仕入れをしてみれば、適中率アップや不振商品を出さない法などが学べる。

 お客が仕入れた商品をどれほど購入してくれるのかを体験することで、ヒット率の向上やロスの低減、編集力の理屈も理解できる。また、編集の仕方で売れる、売れないがわかれば、そこも気づきや学びになる。学生なら何よりゲーム感覚でできる点がいいし、バイヤー、お客を交互に務めることで競争意識を育んだり、志望職種の適性を判断することもできる。

 ファッション専門学校の学生募集は、すでに頭打ちになっている。学生の側も「求人が販売職しなかないないのなら、進学してもどうなのか」と、冷めた目で見ている。だから、まずは学校側が教育内容を進化させ、学生の自己実現を支援していくべきだ。

 すでに採用マーケットは「ジョブ型」に移っている。採用企業側が「まずは販売からスタート」なんて言っているようでは、優秀な人材は集まらない。学生が「バイヤーになりたい」という目標を掲げるなら、学校はそのための実践教育を行うことが大前提だ。

 デザイナー志望の学生もデジタル時代だからこそ、CGによる商品制作も学んでいいのではないか。色替えやデザインの修正も短時間で可能だから、バイヤー志望の学生とバーチャル展示会でやりとりできる。「別注でこの色も欲しい」などの要望を受け入れた時、バーチャル店舗で実際にそれが売れれば、デザイナー志望の学生にとっても「こんな色が売れるのか」という学びになる。

 筆者は模擬バイイングについて過去にアナログレベルでプランを考え、紙上で教材を作成したことがある。いつかデジタルでやってみたと思っていたが、ついにその時代が到来した。業界はもちろん、学校もデジタルを利用するとはどういうことか。もっと突っ込んでいくべきではないかと思う。





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