アパレル業界ではSDGsが叫ばれているが、小売りではリテールアウトレットやオフプラスストア、サブスクリプション、リユースといった二次流通が軸になると言われる。ただ、すでにいろんな業態が出揃い、ビジネス狙いなら通常店舗以上に群雄割拠の時代に突入していくのではないか。各企業の取り組むが期待される。
二次流通はSDGsが叫ばれるはるか以前から存在した。欧米では、日本のように若者が新品のファッションに投資しないため、セカンドハンド(欧米ではユーズドという名称はあまり見かけない)、いわゆる「古着店」がメーンの御用達とされてきた。一方で、格差社会でもあることから中産階級がブランド品を手に入れる上で、リテールアウトレットやオフプライスストアが重宝されてきた。
もっとも、アウトレットやオフプライスストアは、売れ残りの在庫があることが前提となる。好景気で新品がプロパーで消化され、売れ残りが出回らなければ二次流通も成り立たない。仕入れを伴うオフプライスストアは経営面で不安定さは否めない。つまり、こうした業態は一次流通の商品量が大量にあってこそなのだ。
だから、SDGsに取り組むには生産されてからではなく、商品生産そのものに目を向ける。そして、コストの安い発展途上国に生産を集中させることで生じる児童就労や過酷な労働環境を是正する。さらに価格を下げるための過剰生産、大量に売れ残った在庫の焼却や第三国での処分、さらに廃棄そのものを改めていくことである。
とは言っても、アパレルは生地や副資材の製造に始まり、工場の生産態勢から卸までがシステマチックに連携し、製品の一定量を小売店が仕入れることで商品が消費者に渡っていく。SDGsを突き詰めていくには、こうしたサプライチェーンの要素一つ一つにメスを入れ、産業構造全体を変革していなかなければならないのである。
まずは市場でどれだけの商品が売れるのかの需要予測を行い、それに基づいた生地や資材も生産していく。また、生産現場の労働環境はどうなっているのかを可視化したり、履歴をブロックチェーンで暗号化して取引の正確性を期すことも必要だ。無駄にトラックを走らせていないかなど物流を効率化することも重要だろう。それらをデジタル技術で結んで、各企業が情報を共有していくことが最終目標になる。
自動車産業ではメーカー、部品工場、ディーラーが同じ系列で結ばれ、サプライチェーンが出来上がっているから、デジタル整備はそれほど困難ではない。しかし、アパレル業界はそれぞれの業者が個々で事業を進めているし、立場や性格も異なり微妙に利害が絡み合うので、いくらSDGsの理念で意識統一しようとしても、なかなかスムーズにはいかないだろう。
まして小売業になると、そもそも在庫がなければ商売にならないのだから、どうしても売れ残りは出てしまう。仮にメーカー側が生産を抑えると、小売側は商品が手に入らなくなり、あるいは限られた在庫の取り合いで優勝劣敗となり、淘汰されるところが出てくる。小売店舗が多いから商品を過剰に生産しなければならないという意味で考えれば、逆に小売店が減れば商品の生産量も減らすことができる理屈になるが、実際のところはそうはなりそうもない。
小売市場にはオンライン、いわゆるECもあり、実店舗がなくても商品はこうしたルートに流れていくからだ。産業構造を変革するとはメーカー生産、店舗小売り、顧客所有というフローや価値を抜本的に変えていくこと。購入して消費するまでもないものは、レンタルで済ます。タンス在庫のまま着る機会がない不要品や倉庫に眠る不良在庫は、どんどん吐き出し付加価値をつけるなどして二次、三次流通で循環させていくなどである。
高くても納得いく商品を購入する消費
サブスクリプション、リユース&リメイクへの転換もある。経済学では、生産から消費までをリニアエコノミー(直線型経済)、レンタルやリユースで済ますのをサーキュラーエコノミー(循環型経済)と呼ぶのだとか。Z世代(1997年以降の生まれ)を中心にメルカリなどで不用品を売買する動きが高まっているのを見ると、新品購入-所有-消費という豊かだけど無駄を生んできた従来の価値観に変化が生じているとも言える。
ブランドファッションの価値が最も高いのは新品の時だ。しかし、衣服に袖を通して着始めると、すぐに価値は下がっていく。これは「減価償却型経済」と言われる。Z世代の若者の間ではすぐに価値が下がるのだから、高いお金を出して買う必要もなく、ユーズドやレンタルで十分という意識に変わっている。なおさら、価値低下は使い捨てを生み、廃棄となるのだから、SDGsに逆行すると考え始めている。
また、過去20年もの間、所得が増えていない現状やコロナ禍による収入減や失業で生活に窮する若者もいる。企業側はSDGsやDXを消費復活のキーワードに掲げているが、そのためにはどこに資本投下するかが問われるのだ。岸田総理が経済3団体の新年祝賀会で、「次世代を担う子育て、若者世代の世帯所得に焦点を絞って倍増を可能とするような制度改革にも取り組んで参ります」と意欲を示したが、政府として具体的にどんな政策をとるかである。
もちろん、新製品がゼロになることはありえない。低価格品の過剰な生産に歯止めをかける一方、どんな商品を企画製造し、売っていくかである。まずは素材や縫製のクオリティを上げ、匠の技を持つ国内工場での商品作りが挙げられる。小回りの効くメーカーならそれも可能だろう。小売店はそんな商品をセレクトして編集し、お客に提案していく。
ブランドの休止、店舗や社員のリストラに明け暮れる大手アパレルはどうか。前出のような商品作りが必要とされるのを考えると、硬直化した組織をドラスティックに解体し、商品企画のみのプロジェクトチーム単位に再編してもいいのではないか。スタッフに予算と権限と責任を与え、ダメなら解散も辞さない覚悟で立ち向かわないと、構造改革にはならない。
大手メーカー側がそうしたスタンスにシフトすれば、中小はさらに商品作りに磨きをかけるだろうし、百貨店をはじめとして店頭の変わっていくと思う。昔風に言えば専門店向けアパレル、今風に言えばD2Cアパレルだろうか。
小売りではバイヤーの意識改革も必要だ。売上げを追うためにどうしても仕入れを増やしたくなる。それが売れ残りを生んでいる点をいかに改めるか。売り減らしより、買い足し。顧客の好みを熟知し仕入れに活かせてこと、消化率は上がる。ただ、この手法では多店舗化には向かない。コントロールできるのはぜいぜい5店舗程度だ。規模を追求しないため、小規模なところが市場をリードしていける。これこそ、真の専門店だ。
D2Cアパレルは、専門店向けの卸とECが主販路になる。そこで少しずつ売り上げを伸ばし、タッチポイントというか、顧客とリアルなコミュニケーションをとり、ウォンツを知る拠点として実店舗を出店すればいい。常設ではなくて、期間限定でもいいと思う。
SDGsは別の見方をすれば、消費者が商品に対して今まで以上に厳しい見方をするという意味。単に安いだけ、すぐに飽きるトレンド、どこにでもあるような商品、着る機会が少ないアイテム等々の新品購入、新品消費は減退していく。単なる売れ残り在庫を集めたリテールアウトレットやオフプライスストアも、消費者の厳しい目に晒されると存続は難しいだろう。
すでに余剰在庫をECで再販するプラットフォーム事業者がいるが、B2Bで売れ残り在庫を捌くより、マッチングサイトを運営する方が儲かるという発想なら、それは不動産業と何ら変わらない。テナントが抱える商品に魅力がなくなれば、じきに会員、アクセス数は頭打ちになるだろう。
要は新品であろうと、中古品であろうと、商品本体の価値をいかに上げられるか。どこまで打ち出し、どこまでリニューアルできるか。そして、できるだけ長く着続けられるか。でないと、SDGsが求める「持続性」にもつながらない。フランスでは昨年、百貨店がセカンドハンドに参入したが、回収された古着は建築用のレンガやオブジェに再生されている。また、高級ブランド企業が自ら商品を回収して、手直しをしたりと付加価値を加えて再販する。つまり、「一捻り」が必要なのである。
それを生み出すにはデザイナーのクリエイションや匠の修復テクニックが必須になる。でないと消費者の心にも響かない。以前の商品が高級&高感度なブランドであったり、ヴィンテージあったりも条件になるが、中古品や在庫を処分したい側、手直しされた商品を買う側の双方を魅了する業態でなければ、小売りの存在価値はないと思う。それをいかに打ち出せるか。SDGs下における小売りの視点やポジションが問われている。
二次流通はSDGsが叫ばれるはるか以前から存在した。欧米では、日本のように若者が新品のファッションに投資しないため、セカンドハンド(欧米ではユーズドという名称はあまり見かけない)、いわゆる「古着店」がメーンの御用達とされてきた。一方で、格差社会でもあることから中産階級がブランド品を手に入れる上で、リテールアウトレットやオフプライスストアが重宝されてきた。
もっとも、アウトレットやオフプライスストアは、売れ残りの在庫があることが前提となる。好景気で新品がプロパーで消化され、売れ残りが出回らなければ二次流通も成り立たない。仕入れを伴うオフプライスストアは経営面で不安定さは否めない。つまり、こうした業態は一次流通の商品量が大量にあってこそなのだ。
だから、SDGsに取り組むには生産されてからではなく、商品生産そのものに目を向ける。そして、コストの安い発展途上国に生産を集中させることで生じる児童就労や過酷な労働環境を是正する。さらに価格を下げるための過剰生産、大量に売れ残った在庫の焼却や第三国での処分、さらに廃棄そのものを改めていくことである。
とは言っても、アパレルは生地や副資材の製造に始まり、工場の生産態勢から卸までがシステマチックに連携し、製品の一定量を小売店が仕入れることで商品が消費者に渡っていく。SDGsを突き詰めていくには、こうしたサプライチェーンの要素一つ一つにメスを入れ、産業構造全体を変革していなかなければならないのである。
まずは市場でどれだけの商品が売れるのかの需要予測を行い、それに基づいた生地や資材も生産していく。また、生産現場の労働環境はどうなっているのかを可視化したり、履歴をブロックチェーンで暗号化して取引の正確性を期すことも必要だ。無駄にトラックを走らせていないかなど物流を効率化することも重要だろう。それらをデジタル技術で結んで、各企業が情報を共有していくことが最終目標になる。
自動車産業ではメーカー、部品工場、ディーラーが同じ系列で結ばれ、サプライチェーンが出来上がっているから、デジタル整備はそれほど困難ではない。しかし、アパレル業界はそれぞれの業者が個々で事業を進めているし、立場や性格も異なり微妙に利害が絡み合うので、いくらSDGsの理念で意識統一しようとしても、なかなかスムーズにはいかないだろう。
まして小売業になると、そもそも在庫がなければ商売にならないのだから、どうしても売れ残りは出てしまう。仮にメーカー側が生産を抑えると、小売側は商品が手に入らなくなり、あるいは限られた在庫の取り合いで優勝劣敗となり、淘汰されるところが出てくる。小売店舗が多いから商品を過剰に生産しなければならないという意味で考えれば、逆に小売店が減れば商品の生産量も減らすことができる理屈になるが、実際のところはそうはなりそうもない。
小売市場にはオンライン、いわゆるECもあり、実店舗がなくても商品はこうしたルートに流れていくからだ。産業構造を変革するとはメーカー生産、店舗小売り、顧客所有というフローや価値を抜本的に変えていくこと。購入して消費するまでもないものは、レンタルで済ます。タンス在庫のまま着る機会がない不要品や倉庫に眠る不良在庫は、どんどん吐き出し付加価値をつけるなどして二次、三次流通で循環させていくなどである。
高くても納得いく商品を購入する消費
サブスクリプション、リユース&リメイクへの転換もある。経済学では、生産から消費までをリニアエコノミー(直線型経済)、レンタルやリユースで済ますのをサーキュラーエコノミー(循環型経済)と呼ぶのだとか。Z世代(1997年以降の生まれ)を中心にメルカリなどで不用品を売買する動きが高まっているのを見ると、新品購入-所有-消費という豊かだけど無駄を生んできた従来の価値観に変化が生じているとも言える。
ブランドファッションの価値が最も高いのは新品の時だ。しかし、衣服に袖を通して着始めると、すぐに価値は下がっていく。これは「減価償却型経済」と言われる。Z世代の若者の間ではすぐに価値が下がるのだから、高いお金を出して買う必要もなく、ユーズドやレンタルで十分という意識に変わっている。なおさら、価値低下は使い捨てを生み、廃棄となるのだから、SDGsに逆行すると考え始めている。
また、過去20年もの間、所得が増えていない現状やコロナ禍による収入減や失業で生活に窮する若者もいる。企業側はSDGsやDXを消費復活のキーワードに掲げているが、そのためにはどこに資本投下するかが問われるのだ。岸田総理が経済3団体の新年祝賀会で、「次世代を担う子育て、若者世代の世帯所得に焦点を絞って倍増を可能とするような制度改革にも取り組んで参ります」と意欲を示したが、政府として具体的にどんな政策をとるかである。
もちろん、新製品がゼロになることはありえない。低価格品の過剰な生産に歯止めをかける一方、どんな商品を企画製造し、売っていくかである。まずは素材や縫製のクオリティを上げ、匠の技を持つ国内工場での商品作りが挙げられる。小回りの効くメーカーならそれも可能だろう。小売店はそんな商品をセレクトして編集し、お客に提案していく。
ブランドの休止、店舗や社員のリストラに明け暮れる大手アパレルはどうか。前出のような商品作りが必要とされるのを考えると、硬直化した組織をドラスティックに解体し、商品企画のみのプロジェクトチーム単位に再編してもいいのではないか。スタッフに予算と権限と責任を与え、ダメなら解散も辞さない覚悟で立ち向かわないと、構造改革にはならない。
大手メーカー側がそうしたスタンスにシフトすれば、中小はさらに商品作りに磨きをかけるだろうし、百貨店をはじめとして店頭の変わっていくと思う。昔風に言えば専門店向けアパレル、今風に言えばD2Cアパレルだろうか。
小売りではバイヤーの意識改革も必要だ。売上げを追うためにどうしても仕入れを増やしたくなる。それが売れ残りを生んでいる点をいかに改めるか。売り減らしより、買い足し。顧客の好みを熟知し仕入れに活かせてこと、消化率は上がる。ただ、この手法では多店舗化には向かない。コントロールできるのはぜいぜい5店舗程度だ。規模を追求しないため、小規模なところが市場をリードしていける。これこそ、真の専門店だ。
D2Cアパレルは、専門店向けの卸とECが主販路になる。そこで少しずつ売り上げを伸ばし、タッチポイントというか、顧客とリアルなコミュニケーションをとり、ウォンツを知る拠点として実店舗を出店すればいい。常設ではなくて、期間限定でもいいと思う。
SDGsは別の見方をすれば、消費者が商品に対して今まで以上に厳しい見方をするという意味。単に安いだけ、すぐに飽きるトレンド、どこにでもあるような商品、着る機会が少ないアイテム等々の新品購入、新品消費は減退していく。単なる売れ残り在庫を集めたリテールアウトレットやオフプライスストアも、消費者の厳しい目に晒されると存続は難しいだろう。
すでに余剰在庫をECで再販するプラットフォーム事業者がいるが、B2Bで売れ残り在庫を捌くより、マッチングサイトを運営する方が儲かるという発想なら、それは不動産業と何ら変わらない。テナントが抱える商品に魅力がなくなれば、じきに会員、アクセス数は頭打ちになるだろう。
要は新品であろうと、中古品であろうと、商品本体の価値をいかに上げられるか。どこまで打ち出し、どこまでリニューアルできるか。そして、できるだけ長く着続けられるか。でないと、SDGsが求める「持続性」にもつながらない。フランスでは昨年、百貨店がセカンドハンドに参入したが、回収された古着は建築用のレンガやオブジェに再生されている。また、高級ブランド企業が自ら商品を回収して、手直しをしたりと付加価値を加えて再販する。つまり、「一捻り」が必要なのである。
それを生み出すにはデザイナーのクリエイションや匠の修復テクニックが必須になる。でないと消費者の心にも響かない。以前の商品が高級&高感度なブランドであったり、ヴィンテージあったりも条件になるが、中古品や在庫を処分したい側、手直しされた商品を買う側の双方を魅了する業態でなければ、小売りの存在価値はないと思う。それをいかに打ち出せるか。SDGs下における小売りの視点やポジションが問われている。