HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

学んで賢く買う。

2022-01-26 06:40:41 | Weblog
 かれこれ8〜9年前になるだろうか。たまたま訪れた事務所近くのZARAで、ハーフパンツとタイツが合体した「ジョギングパンツ」を見つけた。パンツとタイツが一緒なら別々に購入する必要もなく、フィットネスジムでのトレーニング用にもってこいと、即買いした。

 ただ、タイツ着用の効能はよくわからなかった。トレーナーさんの話では、「サポートタイツ」なら膝・股関節・腰などの関節や太もも・臀部などの筋肉を支えパフォーマンスを向上させてくれるという。中にはテーピング原理を応用して関節や筋肉に沿って施術するようなものもあり、動きやすく筋肉の余計なブレを防いで痛みを起こしにくくするそうだ。トップアスリートが着用するのは、これが理由だろう。



 一方、「コンプレッションタイツ」は足首・ふくらはぎ・太ももなどにより程良い圧力をかけることで血液の循環を良くし、下半身のむくみや冷えを予防するとか。また、栄養の供給や老廃物の運搬が促進され、疲労を軽減して回復させてくれるそうだ。ZARAのパンツはどちらかというと後者の方かもしれないが、実際に冬場のトレーニングで着用すれば、確かにむくみや冷えを予防してくれることはわかった。





 もちろん、ZARAのことだから、ナイキやアディダスのようなアスリートに特化したアイテムを企画しているわけではない。ハーフパンツとタイツを合体させたことで、筆者のようなお客が購入した点は企画の妙とも言える。しかも、ディテールではアパレルらしい処理や始末が施されている。注目はウエストがスポーツ系にありがちな「タック(ギャザー)入りのゴム仕様」ではない点。

 一般のトレーニングパンツはゴムの伸縮に合わせて生地も伸び縮みするようギャザーが入っている。トレーニング用ならこれで十分だし、ジャケットを着用すればウエストが隠れるので問題はない。しかし、ファッションアイテムではそうはいかない。ウエストをゴム仕様にするのは、ワンシーズンでのサイズ変化に対応する合理的な企画=量販・小売側の要望以外の何ものでもない。

 悪く言えば、「おしゃれ心も羞恥心もすっかり消え失せたおばさんがお腹周りの締め付けを少しでも楽にして、ずり下がりを抑える」ためにゴム仕様を好む傾向があった。若い子の間ではそんなイメージからウエストゴムは敬遠されていた。というか、メーカー側、特に専門店系アパレルではきちんとサイズ対応をしゴム仕様は避けていた。筆者と同じ時期に業界で仕事をした人々なら、少なからず一様な感覚で見ていたと思う。

 ところが、今はどうだろう。若い子向けのアイテムでもゴム仕様のものが増えている。彼らは臆することもなく平気で着ている。

 先日、業界誌の執筆でご一緒したことがあるファッションコンサルタントのSさんもSNSで以下のようなことを呟いていらっしゃった。「最近、シャツやブラウスをタックインして、ゴムウエストを平気で見せています。僕は違和感を感じるなぁ。サッシュベルトで隠すとかね」と。
 
 仰る通りだ。インフルエンサー諸氏も多分我々の時代の認識などご存じないはずだから、何ら抵抗なく着こなしを提案するだろう。しかし、8〜9年前の発売されたアイテムではあるが、ZARAは違った。スポーツ系のジョギングパンツであっても、タック(ギャザー)入りのゴム仕様は採用していない。Sさんの指摘通り、「ゴムベルトを見せない(ベルトに見えない)」ドレスコードをそのまま踏襲し、仕様を決めている。

 ゴムをコットン素材の帯で覆い囲んで加工しているので、フラットでギャザーがなくゴム仕様に見えず、すっきりしている。もちろん、帯状の板ゴムが入っているので伸縮はするが、外側の生地に皺がよることはない。サイズもXSからXXLまでの6段階でフレキシブルに対応。おそらくそれも計算済みだろう。Sさんの呟きに対し、当方は「そうした企画をするのは、美意識の差でしょうね」と、書き込んだ。ファストファッションとは言え、MDのスタッフはアパレルの精鋭揃いだから、見た目重視のドレスコードを厳守したのだと思う。
 

ロングパンツをカットし、PBのタイツをレイヤード



 そんなジョギングパンツも経年劣化で買い替え時期に入ったが、ZARAのことだから当然リピートすることはない。似たようなアイテムを探そうとしたが、コロナ禍もあって店舗巡りできず伸び伸びになっていた。年明けにたまたま訪れたショップで運よく「Champion」のロングパンツに出会った。もちろん、ウエストゴムだが、トレーニング用では問題ない。また、ハーフカットが前提なので足首リブのロング丈も許容範囲だ。何よりコットン100%で厚手の裏毛素材なのところが、筆者の好みに合い購入した。

 タイツは別に探せばいいのだが、いざ探すとなるとこれがなかなか見つからない。ヒートテックに代表される機能性のものは、そのほとんどが合繊オンリー。スポーツ系になると、コンプレッション重視なのでなおさらだ。当方が望むのはパフォーマンス向上や血流促進より、むくみや冷えを予防し洗濯に耐えてくれればいい程度。むしろ、コットンの混紡率が多いことで、乾燥による静電気を抑え、肌触りがチクチクしない方が望みだ。



 百貨店も機能性インナーを取り揃えているはいるが、こちらはどちらかというと高級下着に近い。数年前にしまむらのアヴェイルでPBの綿100%の機能性インナーのトップスを購入したので店舗に問い合わせたが、すでに廃番とのこと。あとPBを企画していそうなのは全国チェーンだろうと、福岡発祥のDS「ミスターマックス」を訪れた。すると、これがビンゴ。「綿あったかインナー」と題したPBを販売していた。

 パッケージには「保温」「静電気防止」「ストレッチ」「抗菌防臭」の表示がある。機能性インナーに変わりないのだが、筆者が設定した条件にかなう綿95%、ポリウレタン5%。しかも、価格は税込767円とすこぶるリーズナブルだ。ジム用のタイツなら、これで十分と言える。在庫は十分にあったので、とりあえず1着購入して試すことにした。



 年明けのトレーニングで着用してみると、薄くてフィット感も上々。着丈もユーロ規格のZARAと遜色ない長さをキープし、レッグプレスで60kg程度のウエイトを押しても、マシンで30分ランをしてもずり上がりはない。この上にコットン100%のパンツをレイヤードするのだから、静電気やチクチクも起こらない。優れものに感謝である。

 筆者は暑がりで多汗症ということや、ずっと職住接近のライフスタイルをとってきたため、冬でもそれほど寒さを感じたことはない。ニューヨークから福岡に戻って以降は、日本中で暖冬が続いたこと、また外仕事はロケ以外ほとんどないため、ボトムはずっとコットン系1枚で通してきた。ところが、長時間の電車通勤をされている方々や関東以北にお住まいの人たちは、男性でもボトムには機能性インナーが欠かせないようである。

 先日、大手メーカーに勤務されていた知り合いのNさんが「この時期、ヒートテックのタイツの上に裏起毛のパンツを重ね着すると、静電気で下半身がチクチクするように感じるのは私の思い過ごしだろうか?」と、SNSに投稿されていた。Nさんは関東の内陸部にお住まいだから、やはり冬場の防寒に機能性インナーは欠かせないようだ。しかし、ユニクロのヒートテックをはじめ量販系は合繊オンリーだし、裏起毛もフリースなら静電気が起きてしまう。また、合繊が肌に触れると摩擦でアレルギーを起こすから、チクチクするのは避けられない。

 そこで、筆者が購入したミスターマックスの綿あったかインナーを推薦させていただいた。同社は福岡発祥のDSだが、昨季はコロナ禍による巣篭もり消費で生鮮や食品が貢献し、最高益を上げている。衣料品は他の量販店と大して変わらないが、実用衣料では後発の強みを生かし、PBにも注力している。綿あったかインナーもそうだ。

 ユニクロはじめ大手の機能性インナーが合繊主体なのに対し、混紡とはいえコットンが95%を占める商品を発売した背景には、静電気やアレルギーを嫌がるお客の声に耳を傾けた結果だと思う。こういうところで、差別化されていくのではないか。

 当方もZARAのジョギングパンツを着用し、さらに業界の人々の声から学んだことで、衣料品を賢く購入することができた。ウィズコロナの中でも外に出る機会が少しでもあれば、新たな衣料品に出会うきっかけにもなる。そんな1年にしたいものである。
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