HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

ローカルデパートの救世主?

2019-09-25 05:48:14 | Weblog
 アースミュージック&エコロジーやイーハイフン ワールド ギャラリーを展開するストライプカンパニーがソフトバンクと合弁で運営するECモール「ストライプデパートメント(以下ストデパ)」。このストデパが新しいサービスとして、提携する百貨店の名前を付けたECサイトを開設し、運営を代行する「DaaS(ダース/Department EC as a Service)」をスタートさせた。

 ストデパは、「35歳〜49歳の大人の女性」を対象に国内外のブランドをECで販売している。売上げ調査の結果、それらの商品は百貨店でも扱われていることから、顧客が実店舗に流入する傾向があったという。そこでストデパが百貨店のECサイトを開設して運営を代行し、百貨店自身が「ショールーミングのポップアップストア」(催事)を展開すれば、百貨店はコストをかけずにオムニチャンネル化を進めることができる。

 ストデパの顧客である大人の女性は、「現物を見て商品を購入したい」との思いが若者より強い。ECサイトでお気に入りのブランドを見つけると、それを販売している実店舗を訪れ、現物をチェックする傾向があるのだ。逆に百貨店がストデパのブランドをショールーミングすれば、ECでの買い上げ率が高まることも考えられる。DaaSはストデパと百貨店がウィンウィンの関係になれることを狙ったサービスとも言える。

 具体的な仕組みは以下のようになる。

 1. 百貨店がストデパのブランドを催事などでショールーミングする。
 2. お客が催事で現物(見本)を見て、または直接ECサイト(表向きは百貨店のEC、
   ストデパが運営)で会員登録および商品を購入。
 3. 売上げ額に応じてストデパが百貨店に対し、インセンティブを支払う。

 百貨店はブランド販売では委託や消化仕入れで在庫を買い取らない以上、自社ECで品揃えを充実させ自由に販売することは難しい。だから、ストデパのようなプラットフォーマーがECサイトの運営を代行してくれるのは願ったりだ。特に百貨店の衰退、閉店で地方でハイブランドが購入できなくなっている現状を考えると、一筋の光明になるかもしれない。

 ストデパはインセンティブをどのくらいの売上げ歩率するかについて発表していない。明らかにしたのは、初年度は百貨店2社と業務提携し、約2,000人の新規会員獲得を見込むこと。そして、現在、約20店舗と交渉しており、今後は50店舗まで増やすという目標だ。



 今回、ストデパと提携しサービスを提供するのは、大分市に本社を置く「トキハ(ときわと読む)」と石川県など北陸に店舗をもつ「大和」の地方百貨店2社。DaaSの記者会見にはトキハから植山浩文常務取締役が派遣され、ストライプインターナショナルの石川康晴社長ほか経営陣と同席している。そこまでさせるのは、同社が置かれた経営環境がかなり厳しいことがある。



 トキハは「別府店」で、9月12日〜25日にショールーミングポップアップショップを開催している。同社のサイトでは「有名モデルやスタイリスト、ファッションエディターによるユニークなコンテンツ、さらに各ブランド、インフルエンサーが旬な情報を発信する、見るだけで楽しい!『ファッションECサイト』体験をお届けします」という触れ込みで、告知されている。http://www.tokiwa-dept.co.jp/beppu/shopnews/details/12294

 トキハのEC https://stripe-department.com/ で取り扱われるのは、ストデパが販売する約1,000ブランドと同様の商品という。別府店のポップアップショップでは、著名人やメディア関係者がセレクトしたアイテムを揃えるようだが、商品の充実度ということでは催事を見ていないので何とも言えない。どちらにせよ、来場者にはブランドの現物(見本)を試着などで確かめてもらい、その場でECサイトの会員登録(事前にも可能)、サイト購入に繋げていくフローだと思う。まさにショールーミングである。


一番に提携したトキハの狙い

 じゃあ、なぜトキハの本店ではなく、支店の別府店だったのか。これは大分県の産業構造が大きく関わっている。トキハが本社を置く大分市は、昭和30年代に別府湾を埋め立てて臨海工業地帯を造成。石油・化学のコンビナートや発電&製鉄所などを誘致して新産業都市を目指したものの、大分県全域では知事が「一村一品運動」を提唱したくらい。その後はキャノンやダイハツの工場が進出したが、大分市にはとりたてて基幹となる産業はない。

 だからではないだろうが、日教組組合員(小中学校の加盟率は60%超で、大分は全国トップクラス)の間では長年来、カネさえを積めば子弟が教員(自治体職員でもあったとの話も)になれる因習が蔓延っていたほどだ。

 かたや別府市は温泉の源泉が2,200以上あり、湧出量も83,058リットル/分と、ともに静岡の伊東(同649、同34,081)を大きく離して日本一を誇る。市の中心部では鎌倉時代に温泉地が形成され、明治4年の大阪との定期航路開設で、関西から多くの観光客を集めるようになった。高度成長期には企業の慰安旅行先にもなり、地獄温泉を巡るツアーには全国から客が押し寄せた。別府はホテルや温泉旅館といった観光産業と裾野ビジネスで、経済が成り立っており、大分市に比べると外需を取り込める優位性があるのだ。

 しかし、時代とともにライフスタイルが変わり、旅行が団体から個人に変わると、別府の温泉景気は一変する。市は海外からの観光客誘致に切り替え、ソウルとの定期便開設で韓国人旅行者が増加。立命館アジア太平洋大学(APU)の開学や留学生の起業、プロバスケットボールチームの発足などと相まって、外国人と親和性のある街に変貌した。もちろん、温泉旅館は個人旅行者の受け皿となるべくハード、ソフトの整備に注力し、市民レベルでも別府八湯のキャンペーン(オンパク)や地域通貨「泉都」などで活性化が進められている。

 その結果、観光客はピーク時(1976年)の約1,312万人には及ばないものの、年間400万人まで回復(うち外国人宿泊者数は約144万人で、韓国人が6割。2018年度)。飲食や風俗の店が建ち並ぶ歓楽街も、観光客やインバウンドで景気が上向き、それが地元消費を押し上げている。

 別府にはかつて「近鉄百貨店」があり、商店街には有力な「宝石商」が店を構え、旅館の女将や夜の街で働くお姉さんたちを顧客にして潤っていた。しかし、ライフスタイルの変化やバブル崩壊による景気低迷と、88年には地元のトキハが出店したことで、近鉄百貨店は94年に撤退を余儀なくされた。(ちなみに宝飾品市場全体も全盛期の3兆円から現在は7000億円程度に縮小)

 トキハにしても大分市の本店は、厳しい経営環境にある。郊外商業施設の台頭(自社でもわざだタウンを運営)、JR大分駅ビル「アミュプラザおおいた」の攻勢、フォーラス大分の大分オーパ立て替え、そして福岡へのお客流出などだ。産業構造から富裕層の数は限られており、別府のように訪日外国人客にも期待できない。

 別府にも2007年、イズミのSC「ゆめタウン」が開業し、トキハ優位ではなくなったが、観光客が回復し(日韓問題でソウル-大分便は10月26日まで運休。釜山、務安からの便も運航を休止。『韓国人旅行者は激減』と言われるが…)景気が上向いたことから、かつて売れていた宝飾品と同等レベルのハイブランドを販売できる。ストデパがターゲットとするエージは温泉の若女将や飲食店のお姉さんたちと共通すると、踏んだのだ。トキハ別府店はさらなる誘客に向けて大幅刷新しており、9月9日にリニューアルオープンした。同時にサービスの強化は避けて通れず、それらがストデパのDaaSを目にし、真っ先に提携を申し出た理由と言える。

 また、別府市は大分市とは直線で10kmも離れておらず、国道10号線やJR日豊本線で繋がり、アクセスは容易だ。ポップアップショップには本店の優良顧客を招待し、会員登録やEC購入を促すのは言うまでもない。お客の側もトキハ本店はもちろん、大分では購入できないハイブランドを直に見ることができるため、ECでのショッピングに弾みがつくはずだ。


ハイブランドを求める地方の客



 郊外や地方に店舗を構える百貨店は軒並み厳しい。2016年以降、首都圏では西武の春日部店、筑波店、船橋店、小田原店、そごうの柏店、三越の千葉店、多摩センター店、伊勢丹の松戸店が閉店している。今月30日には伊勢丹の相模原店と同府中店、来年には新潟三越がそれぞれ店を閉じ、東急東横店も事実上の閉店(食品売り場は継続)となる。単独の地方百貨店も地域1社のみなら何とか持ちこたえているが、人口減少による消費の先細りやインバウンド需要の減退を考えると、売上げ伸張は見通せない。

 識者の中には、地方百貨店はアパレル依存の体質から抜け出し、公共施設、化粧品や食品、贈答品を強化拡充すべきだと唱える人がいる。確かに地方都市で地上8階、地下1階にもおよぶ多層の百貨店が求められるかと言えば、そんな時代はとうに過ぎている。アパレル側も売上げの低迷を見れば、ブランドのハコ(インショップ)展開には二の足を踏む。売上げが下がり、ブランドが撤退し、さらに売上げが下がる悪循環なのだ。

 だからと言って、高級品やハイブランドを求めるお客がゼロになるかと言えば、そんなことはない。どんな地方でもそれらを購入したいお客はいるわけで、それは地方百貨店がジリ貧になっているのとは、別の問題として考えるべきだ。一時、大丸の福岡店が有名ブランドを求める県外客を対象に買い物バスツアーを企画していた。それでも、地方店であるがゆえに品揃え、バイイング力には限りがあり、経費面から継続は難しかったようである。

 プラットフォーマーはそんな状況に風穴を開けた。ストデパは時空を超えてハイブランドが購入できるECの利点を生かし、地方百貨店にショールーミング機能を持たせて現物の確認、試着などを可能にすることで、大人市場でのオムニチャンネル化に先鞭をつける狙いと見える。これまで隆盛を極めたZOZOは、自社ECに乗り換えるブランドの離反を受けても、それをカバーする戦略を見出しきれていない。後発でZOZOとはターゲットが異なるストデパとしては、サービスの充実で優位に立ちたい思惑もあるだろう。

 地方百貨店はインセンティブだけではそれほど収益にはならないだろうが、それでも食料品や雑貨などついで買いを誘うことはできる。さらにお試しどころの開設、C&Cの受け取り拠点など、生き残るためのサービスを考える機会にもなる。トキハや大和がショールーミングやEC購入である程度の手応えを掴めば、ストデパが交渉している他の百貨店も提携に踏み切る公算は高い。Daasが地方百貨店の当面の救世主となれるか。いよいよ、経営者目線ではなく、お客が求めるサービスの「本質」で、生き残るところが決まりそうである。

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