HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

続かなかった永遠。

2019-10-02 06:05:34 | Weblog
 9月29日、ファストファッションのFOREVER21は、同社及び米国内の子会社に関して、デラウエア地区連邦破産裁判所に日本の民事再生法にあたる「米連邦破産法11条(チャプターイレブン)適用の申請」を開始したと発表した。日本でも10月末で全14店舗と自社ECをの閉鎖は公表済みで、Xデーも近いと見られていたが、その通りになった。

 FOREVER21は1984年創業の比較的新しいブランドだ。韓国系米国人のドン・チャン氏とジンスク夫人がロサンゼルスで創業。全社的には2014年に売上げを40億ドルまで拡大したが、17年くらいから減少をはじめ店舗閉鎖に追い込まれた。日本に初上陸したのは2009年4月だから、わずか10年でその幕を閉じることになる。浮き沈みの激しいアパレル業界で、この期間が長いのか短いのか。いろいろ考え方はあるだろう。

 ただ、ファストファッションは価格と速さ、パワーとスケールはずば抜けているが、商品をしっかり作り込んでいないので市場では飽きられるのも早いというのが、正直な印象だ。


勝負する気がないビジネスモデル

 トップショップやアメリカンイーグルも日本市場から撤退している。オールドネイビーにいたっては2012年の日本上陸から、わずか5年で引き払ったのだから、見方を変えればFOREVER21はまだ持った方かもしれない。業界メディアや識者は早速、FOREVER21の撤退理由をあれこれ書き立てているが、後付けの理由なら何でも言えるわけで、どれもピンと来ないものばかり。以下に列挙してみたい。(版元およびご本人に引用の許諾を受けていないので、媒体名や氏名は伏せておく)

  徐々に「しまむら」や、和製ファストファッションの「GU」、さらには、「ウィゴー (WEGO)」や
  ネットを中心に販売する低価格ファッションや韓国系ブランドなどに
  押されて、当初の勢いは失っていった。
 

 そもそもFOREVER21は、程よい甘さを持つテイストで、カラフルでポップなデザインに仕上げた米西海岸のカジュアルだ。そんなハリウッドセレブ御用達のトレンドが日本で受けた時は、原宿店だけで年間100億円ペースで売上げた。しかし、そんなものは俄景気に過ぎず、長続きするはずがない。FOREVER21側も端からしまむらやGUと伍して戦おうなんて考えていないし、彼らに押されたから勢いを失い、撤退を余儀なくされたとは思えない。



  オーナー一家が韓国系アメリカ人ということもあり、サイズ感も日本人に近い。

 上陸当初、爆発的な売上げを記録した理由をこう分析したライターもいた。これにも違和感があった。そもそも日本人と韓国人は米国人に比べると、サイズは近似値かもしれないが、体型や骨格は異なる。韓国人の方が腕、脚は長いし、平均身長も高い。(日本人女性の平均身長:157.9cm、韓国人女性の平均身長:162.3cm)だから、日本ではワンサイズ下のものが売れるほど、サイズ感やバランスは甘いものではない。

 毎日のように福岡店の前を通っているので、売場でハンギングされているレディスのボトムを何度も確かめた。だが、あのパターンはむしろ米国人に合わせたもので、日本人にはそぐわないと感じた。トップスならオーバーサイズでも誤摩化せるが、ウエストやヒップのボリューム、パンツの渡り幅、裾にかけてのライン、スカートの丈等々。ボトムづくりはそんなに簡単には行かない。現にそれほど売れなかったと思う。サイズ感が日本人に近いから売れたのではなく、あのパターンが日本人から敬遠され、リピーターにはならなかったと言える。

  フォーエバーは明らかに在庫過多に陥っていた。これはもしかするとアメリカ本国も
 同様ではないかと思う。需要予測が甘かったと言わざるを得ない。

 そもそも、米国ファッションに限らず、当地の製造業や小売業は、端から需要予測などあまり考えない。大量生産、大量販売。仕入れたものを売り減らしていくだけで、売り足しはしない。売れなければ、値引き販売する。アパレルも金融業的発想だからキャッシュフローを円滑にして1ドルでも多く回収する。それが米国流豊かさの象徴かつビジネスの遺伝子であり、ずっと引き継がれている。上手くいかなければ、経営者が変わるだけ。需要予測をしてもの作りをすることこそ、緻密な日本的な経営思考なのである。

 筆者が初めて渡米し、ニューヨークを訪れたのは1979年。マンハッタンに立ち並ぶ百貨店のファッションフロアでさえ、商品は今と同じく布帛もニット・カットソーも色、サイズ別に傾斜ハンガーに掛けられた量販陳列が主流だった。日本のような畳みが極力避けられていたのは、売場が乱れることと畳み直しの手間を避けるため。また、売場では色・サイズの欠品をなくし、売り逃さないオペレーションを徹底する。これはこれでいいと思うが、期中、期末まで商品が計画通りに消化できなければ、什器の突端にセールPOPが掲示され、マークダウンやディスカウントされる。

 こうした手法は40年経った今でもほとんど変わらない。ギャップもFOREVER21も、自社開発やODMの差こそあれ、大量に仕入れて売り減らしていく手法は同じ。FOREVER21の場合は経営者が韓国人で、米国人のサル真似しかできないのだから、むしろ納得いく。

  商品の品質云々よりも、「需要予測とMD精度の甘さ」「腰掛出張所体制」「広告宣伝・  
 ウェブへの力の入れなさすぎ」「店舗数の少なさ」が日本での敗因ではないかと思う。

 需要予測とMD精度の甘さを米国ブランドに指摘してもあまり意味はない。前出の通り、キャップにしてもオールドネイビーにしても、それにはさほど向き合わないのが彼らのビジネススタンスだからだ。出張所体制については、是か否かは分かれると思う。本国が一括コントロールして効率を追求し、それでブランドロイヤルティの維持が図られる場合もある。

 逆にジャパン社まで作って、日本向けの商品企画まで行い中途半端に焼き直したところで、FOREVER21が売れただろうか。ファストファッションだけに本国は生産効率を重視するだろうし、マーケットを良く知る日本の商社やメーカー側が打診されても、二の足を踏んだと思う。

 広告宣伝については、日本では新雑、テレビCM、駅貼りのポスター、オープン広告などに出稿するには莫大なコストがかかる。ブランドロイヤルティを保つために、制作は本国で行うにしても、日本では媒体料が極めて高額だ。あの価格で、広告宣伝費をかけるのは非常に難しい。

 仮に日本で100店舗体制を計画して広告宣伝の先行投資をしたにしても、余りあるリターンがあって、経費が回収できる保証はない。FOREVER21は上場企業ではないから、証券市場から運転資金を調達することはできない。おそらく、経営者側は自社投資して負債が増えることを恐れ、広告投資は控えていたのではないだろうか。

 Webについては、単にブランドを告知するだけではレスポンスは期待できない。インタラクティブの機能を生かせば、オンラインショップの開設になる。でも、自社、モールを問わずECを導入するにしても、商品在庫は店舗で引き当てするのか、別に物流倉庫を開設し、EC専用の在庫を確保するのか。そうした問題をクリアしなければ、Web展開は無理だ。

 価格帯を考えると通販に適するとは思えない。フルコーディネートよりパーツを意識する若い子たちが1000円以上の送料をかけてまで、2980円の商品を購入するとは考えにくいからだ。宅配便の送料が上がってECを敬遠し、店受け取りを希望するお客は確実に増えている。それはしまむらがAmazonに出店したが、うまく軌道に乗せられないことからもわかる。WEGOは通販で成功したのかもしれないが、送料が上がったことを考えると、これからはどうなるのかわからない。やはりファストファッションは、店売りが基本なのだ。



撤退から何を学ぶかが重要

 FOREVER21は、負けるべくして負けたというより、端から海外戦略において出店先の市場を深く研究してビジネスを展開する気などなかったと思う。言い換えれば、日本を含めたアジア市場では、毛色が変わったものが受けるニッチ市場に登場して、コツンというヒットを生んだに過ぎない。だから、店舗数は大都市展開で、せいぜい10店がマックスだったと思う。

 米国発祥のブランドと言っても、創業者一族が韓国系なのだから、きめ細かな商品づくりなど期待できるはずもない。仮に日本市場で成功する「需要予測とMD精度」「出張所体制」「広告宣伝・ウェブへの注力」「多店舗体制」などの条件を意識すれば、逆にGUやアダストリアなど競合がひしめくレッドオーシャンに飲み込まれるのが落ちだ。

 FOREVER21は、デフレでアパレル業界が疲弊している中、原宿店ではいきなり年間100億円近い売上げを稼いだ。それは紛れもない事実で、結果的に一過性のブームであっても評価に値する。また、末期状態だった銀座松坂屋が何とか首の皮一枚でつなぎ止めることができ、GINZA SIXへの橋渡し役も担った。チープなグローバルアパレルなんてそんなものだし、速い安いトレンディのファストファッションにサスティナブルな経営観を期待する方がおかしい。永遠とは名ばかりで、続くことなどありないのである。

 もっとも、FOREVER21が日本市場から撤退したことで何を学ぶか。撤退理由よりもそちらの方が重要である。それは掃いて捨てるほどあって世界的なSDGs(持続可能な開発目標)に逆行し、ゴミを出し続ける低価格アパレルは、これ以上要らないということではないか。

  若い世代のミレニアルズ達が、使い捨てを良しとせず、長く着られるアイテムや、
 「メルカリ(MERCARI)」や古着店などでの2次流通で高値で取引される品質力
 や換金性の高さを求めるようになったのだ。


 撤退理由だけは検証し、この部分には触れなかった識者もいるが、これもFOREVER21が撤退した理由というなら、アパレル業界はそうしたブランドづくりに目を向けた方が良いということになる。ファーストリテイリングが手がける中価格帯の「プレステ」でさえ多店舗化が図られていなし、売上げも今イチだ。つまり、日本ではファストリが成功させた低価格モデルが限界を露呈している証左だ。これは他社にとってはチャンスかもしれない。

 同じファストファッションH&Mグループの「COS」は、2020年に日本で公式オンラインストアを開設する。 H&Mの上級業態で、ユーロテイストのコンテンポラリーモードを再現した大人向けのゾーンに位置するが、ザラのように多店舗展開はしていない(東京、横浜の3店)。

 こうしたブランドは日本にはなく、価格も値ごろだからトレンドを楽しみたいキャリアOLやモード好きの大人の女性には受けている。そうした手応えを得てのオンライン販売の決断だったと思う。敢て店舗を増やさなかったことで、ファン客を焦らしてカタルシスを誘う新しい手法。もう店を出せばいい、Webサイトを開設すれば、売れるという時代でもないだろう。ビジネスセオリーの前提を疑うことで、新たなマーケットが開拓できるのである。

 また、40代〜50代という大人の女性向けブランドの開発の動きも活発化している。彼女たちは賢く合理的だし、商品を見る目を持っている。決してデザインやトレンド、価格帯だけでは選ばない。アパレルがそちらのベクトルを意識し始めたのなら、むしろ良いこと。安さやトレンド以外にお客を納得させる何らかの新しい価値を企画に盛り込まなければ、振り向いてもらえないことに気づき始めたわけだ。

 これからグローバルブランドが日本市場でどう戦っていくか。プロは結果がすべてだから、結果如何でこれみよがしに断罪するのではなく、プロセスの段階でいかに新機軸を打ち出しているのか。そうした部分に目を凝らして見ていくことも必要かと思う。

 振り返れば、初上陸から3年後の2012年4月、福岡でFOREVER21とH&Mが同時オープンする前日、わざわざ事務所に泊まり込み、開店を待った。FOREVER21の原宿店では1200人が行列を作ったというからざぞや多いかと思うと、朝6時の時点でエントランスにいたのはお客2名と警備員1名。この時点ですでに飽きられ始めていたのだと思う。

 その話をSNSに投稿すると、かつてファッションチェーンの「鈴屋」で店づくりやディスプレイを担当していた知人がコメントした。「共食い、だよな」。ファストファッションの市場に登場したブランド同士が食い合いしただけ。H&Mが残っているのは優勝劣敗というより、欧と米の意匠観、美意識の違い、本社サイドの経営規模の差くらいかもしれない。

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