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いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

DgSが家具屋を買う。

2024-07-31 06:47:03 | Weblog
 7月の初めだったか。調剤薬局やドラッグストアを運営するアインホールディングス(本社・北海道札幌市白石区。以下、アインHD)がインテリア&生活雑貨の「フランフラン」を買収するとの話を聞いた。買収額は約500億円で、8月20日に全株式を取得し、完全子会社化するという。アインHDは「アインズ&トルぺ」というドラッグストアを運営しており、その客層が主に20~30代でフランフランと共通するため、店舗を共同で出店するなど相乗効果を考えているらしい。



 フランフランはともかくとして、アパレル関係者の多くはアインHDをご存知の方は少ないと思うので、「えっ」って感じではないか。筆者もアインHDの社名を初めて聞いたのは2008年。同社がセブン&アイホールディングス(以下、セブン&アイHD)と資本・業務提携をしたとの報道がきっかけだった。当時はスイッチOTCの推進、セルフメディケーションの普及、医薬分業の実施が叫ばれており、ドラッグストアに追い風が吹いていた。当然、北海道のローカル薬局がセブンイレブンと手を組めば、ツルハやマツモトキヨシと伍すだけの全国チェーンになれると考えたのかもしれない。そんな印象を受けた。



 それからしばらくは気にすることもなかったが、再びアインHDに触れるのはこれまたセブンイレブン絡みだった。2020年12月、セブンイレブン・ジャパンは、ANAホールディングス他3社および福岡市と共同で5日間に渡り、ドローンによる離島への商品配送の実証実験を行った。それに参加した1社がアインHD傘下で調剤薬局を運営するアインファーマシーだった。福岡市の博多湾に浮かぶ能古島に、島民が実際に注文した処方箋薬品を調剤したアイン薬局がドローンを使って配送。その模様がメディアに公開され、筆者も立ち会った。




 同薬は島民がかかりつけ医から処方され、アイン薬局の生の松原店が調剤(対面での服薬指導済み)したもの。ドローンが100gの薬を搭載して、福岡市西区の小戸ヨットハーバーに設置されたドローンポートから離陸後、約10分で能古島公民館のグランドに着陸。薬はANAのスタッフが回収して、公民館に設置されたロッカーに一時保管し、島民はスマートフォンに送信された確認番号をロッカーに入力して取り出した。医療機関の門前に薬局を構えて待ちの姿勢で臨むだけでなく、配送まで行って患者の信頼を得ようという狙いが窺える。

 ドラッグ業界は大手同士が合従連衡しながら都市部、郊外を問わずに勢力を伸ばす一方、2023年の売上げランキングで業界4位のコスモス薬品は、食品や日配品まで充実させて後を追う構図だ。イオン系のウエルシアホールディングスを筆頭に群雄割拠の状態が続いているが、規模の拡大だけでなく各社の独自性にも注目が集まる。その意味で、アインHDは調剤薬局の部門では業界第1位にある。離島などへの処方箋薬品の配送サービスに目をつけた点も、競争激化の中で勝負するより、差別化路線で生き抜こうという戦略が見て取れる。セブン&アイとの提携があるのだから、処方箋薬品の24時間受け取りサービスにも踏み出せる。

 そんなアインHDが今度はフランフランの運営にも乗り出す。同社傘下のアインズ&トルぺはコスメを充実させており、フランフランと中心ターゲットが共通するため、互いのPB商品を相互に展開すれば、顧客の選択肢が広がって集客効果を発揮できる。また、店舗に競争力を持たせるには生活雑貨を充実させるなど店舗スタイルを変化させ、差別化していくことが不可欠だ。両社はターゲットが共通することで、共同でマーケティング、商品開発を行うこともできる。つまり、アインHDとしては小売り事業を新たな成長の軸にする上で、M&Aによる拡大が手っ取り早いと考えたとすれば頷ける。

 アインファーマシーはアマゾンによる処方薬のネット販売にも参入する。調剤薬局は報酬改定による利益率の悪化、店舗過剰、アクティビスト(物言う株主)による再編圧力にさらされている。処方薬がオンラインで販売できれば、調剤薬局のビジネスモデルは大きく変わり、中小零細は淘汰される可能性がある。だが、調剤第1位のアインHDも決して安泰ではない。香港の投資ファンドは同社の株式を買い増し、取締役解任などの株主提案を行なっており、今後、どう転ぶかはわからない。さらにアマゾンに高い手数料を取られてしまえば、報酬引き下げによる利益率がさらに悪化することもあり得る。

 もちろん、小売事業を強化するといっても、懸念がないわけではない。アインHDがフランフランを完全子会社化するとのニュースが発表された翌日、東京プライム市場では同社の株が一時前日比660円(11%)安の5460円と、急落。終値は567円(9%)安の5553円で、同市場の値下がりランキングでは第1位という有様だった。同社がフランフランの買収に約500億円を投じたことに対し、マーケットは財務負担が重荷になると嫌気したようだ。というか、アインHDが小売り事業を新たな成長の軸にするにしても、投資家はそれが利益貢献に繋がるとは期待していないことになる。


一時の勢いを失ったフランフラン

 では、フランフランについても見ていこう。1991年のバブル崩壊でアパレル業界が勢いをなくす一方、非アパレルの商材に価値を求め、高感度なライフスタイルを志向する消費者を惹きつける業態が台頭し始めた。中でも、1990年に創業したバルス(当時)が運営するフランフランは、インテリア&生活雑貨のショップを全国のショッピングセンターを中心にチェーン展開。2000年には年商75億円(対前年比40%増)を稼ぎ出し、市場を席巻する中核企業に躍り出た。

 フランフランの誕生は1992年。東京・天王洲アイルに1号店を出店した後、2000年には全国37店舗まで拡大した。当時の商品コンセプトはカジュアルスタイリッシュ。ターゲットは都会で一人暮らしをする女性。モノ作りの主流になりかけていた開発輸入をいち早く取り入れ、高感度で低価格の商品を提案することで、女性だけでなく独身男性や若い主婦層まで捉えていった。商品構成はテーブル&キッチン、カルチャー&ホビー、ヘルス&ビューティ、インテリアファブリック&小物、家具で、PB比率は売上げベースで6割を超えた。



 特に目を見張ったのはカラーMDだ。メーン商材である雑貨の大半がカジュアルスタイリッシュらしくオレンジやイエロー、ブルーなどのキャンディカラーで統一され、それらを打ち出しに使って明るくポップなVPを作り上げた。商材の7割程度が自社企画したPBで、商品面での差別化と安定供給、低価格化を図る上ではカギとなった。従来のインテリアショップ、雑貨店にはない独自のVMDを可能にしたのも、PB商品に他ならない。




 そんな商品群は筆者の目も惹き、フランフランでは事務所用のカーブシェルフやカーテン、サーキュレーター、自宅用にはカトラリーやキッチンタイマー、グラスを調達。カトラリーは撮影の小道具に使ったこともあった。高島郁夫社長の著書「フランフランを経営しながら考えたこと」も読ませていただいた。

 2000年3月には、東京の自由が丘とお台場に展開した和モダンをコンセプトにした「ジェイピリオド」、2001年にはアジアンテーストの「アジト」を出店。並行して原宿の新築ビルの3階、4階に3業態を合わせた複合型旗艦店をオープンした。ところが、後の2業態は出だしからフランフランほどの勢いはなく、業績の低迷が続いた。2016年には、東京発のインテリアや家具などを展開する「バルストウキョウ」とともに事業を終了している。

 バルスは2000年代後半、拡大路線に歪みが出てきたようで、同社を引っ張ってきた髙島郁夫社長のカリスマ性やトップダウン経営の限界が露呈する。おそらく社員自ら意見を出し合い、方向性を決めるボトムアップの経営スタイルに変えなければ、難局を乗り切れない状態に陥っていたと言える。売上高も2017年8月期には純利益は4億円だったが、18年同期には純損失が8億円。19年は純利益は1000万円を確保したが、20年は純損失が12億円と、業績はジェットコースターのように乱高下した。

 2017年、バルスは社名をフランフランに変更。21年には髙島郁夫社長が退任し、ファイナンス面を担当してきた佐野一幸氏が社長に就任した。高島前社長の時代から人員削減、オフィスの縮小、不採算ブランドの閉鎖、役員報酬の減額を実施。そうした痛みを伴う経営改革が奏功し、21年8月期は売上高361億円、営業利益40億円、純利益22億円と黒字に転換した。22年同期は売上高354億円、営業利益33億円、純利益26億円。23年同期は売上高394億円、営業利益25億円、純利益11億円で増収減益ではあるが、3期連続で黒字を維持している。アインHDはこうした業績の好転を考慮し、今が買い時と見たのではないか。

 ただ、2010年代に入ると、フランフランのコンセプトはエレガンスやフェミニン、ロマンティックなテイストに変わった。経営改革の一環で女性が好むテイストに絞り込み、コアイメージをより明確にしたと思うが、だからと言って業態として突失したわけではない。現状、インテリア・雑貨にはいろんなテイストやグレードがある。アッパークラスのコンランショップやHP.FRANCEからアクタス、ダブルデイやタイムレスコンフォート、アフタヌーンティー、無印良品、バジェットのスタンダードプロダクツまでが、ひしめき合っている。



 デベロッパー側はアパレルに代わるテナントとして誘致しやすいと考えるようだが、一定のスペースを必要とするため都市型では家賃負担が重荷になる。だから、前出のように実店舗を展開しているところでも、コストを回収するために店舗をショールームにしながら、ECで稼ぐところが少なくない。フランフランも東京・南青山3丁目交差点に旗艦店を構えるものの、系列のモダンワークス青山店は閉店している。アパレル以上に店舗コストとどう向き合っていくかが問われるわけだが、栄枯盛衰の激しい業界であるのは間違いない。

 そうした中で、フランフランが現状のテイストで収益を伸長していくには、顧客がエージアップしても売れ続ける商品開発とヒット商品の創出がカギになる。ケースに収納するとクッションになる寝具に続くような商材を生み出さなくてはならない。だが、20代から30代の女性という狭いレンジをターゲットにして、果たしてそれが可能なのか。少なくともコンスタントに売れ続ける核になるアイテムを持たなければ、買収で発生した約400億円ののれん代を償却する費用を賄えないのは確かだろう。

 それでも、アインHDの大谷喜一社長は約500億円にのぼる買収費用についても、「増資による調達の必要はない」と、現預金や借入れで賄う考えを示す。小売り事業関連の売上高を1000億円規模にする目標についても、3年後の「2027年4月期に達成できる」と語るなど強気だ。さらに投資を何年で回収できるかを示すEV/EBITDA倍率についても、フランフランとの協業効果を加味すると、「25年8月期には7倍を下回る」と心配する様子はない。

 だが、フランフランの2023年8月期の純利益は11億円で、前年よりも44%も減少している。アインHDはのれん代の償却期間を20年と見積もっているというから、昨年度より倍以上の利益を出さないとHDの預貯金は目減りし、借入金の返済計画も狂ってしまう。今回の買収では「ドブに金を捨てるような投資」との厳しい声が出ており、シナジー効果が発揮できなければ虻蜂取らずの可能性もあるのではないか。

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