HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

服に生き返らせる。

2024-03-06 07:33:55 | Weblog
 2023年12月、EU(欧州連合)は、持続可能な製品のための「エコデザイン規制」の見直しについて暫定合意した。内容はアパレル事業者が売れ残った衣服や付属品などの廃棄を禁じるものだ。フランスも2020年2月、「循環経済法」を施行し、売れ残った衣類などについて企業が焼却や埋め立てによって廃棄することを禁止している。

 では、どう処分すればいいのか。フランスでは衣類などの売れ残り品は、原則として「リサイクル」か「寄付」をしなければならない。世界的に脱炭素の潮流が加速度を増す中、EUが規制に踏み込んだことで、日本も対岸の火事と見過ごすことはできなくなるかもしれない。

 日本では、1980年代のDCブランド全盛期には、期末のセールでも売れ残った商品は「焼却処分」していた。売れずに在庫として残ることによるブランドの毀損を避けるのと、期末には在庫が「資産」とみなされ課税されるからだった。ところが、2000年代以降、CO2を排出する焼却は地球温暖化、脱炭素社会の流れに逆行することから許されなくなった。



 一方で、2000年以降はファストファッションが台頭し、市場規模を超える大量の格安商品が流通したため、1980年代にプロパーで7割程度あった商品の消化率が5割程度まで落ち込んだ。さらに欧米に倣ってアウトレットやオフプライスストアといった在庫処分の業態が開発され、売れ残り在庫をできるだけ現金化する流れになった。ただ、元々知名度があり、製造コストをかけて原価率が高い商品ならともかく、端から安く作ったものをさらに安く売ったところで、消化に限界があるのは確かなことだ。

  トレンド性があるとか、知名度のあるブランドは、タグを切って二次流通業者にわたるケースもあるが、できるだけ早く現金化しなければならない。バッタ屋などは自ら値引き販売すれば数十円~数百円でも換金できると考えるので、どうしても在庫を引きづってしまう。だが、キャッシュインが進まないのは、やはり問題だ。売れないものは売れないから結局、廃棄せざるを得なくなる。元々、日本ではそこまで売れ残る商品は数%と言われていたが、ファストファッションの台頭以降はこうした商品が増えていると思われる。



 世界的に見ると尚更、格安品の売れ残り在庫は増加の一途を辿っている。そのため、フランスは在庫処分の次のプロセスにまで踏み込めるように法規制したわけだ。当局は衣料品廃棄の計画において売れ残り在庫は原則、焼却も埋め立てもできないという厳しいものとした。2030年までには「経済活動による廃棄物は5%、家庭の廃棄物は住民1人当たり15%削減」の目標を掲げ、企業だけでなく一般消費者にも廃棄を減らす生活を奨励した。脱炭素社会が世界中に広がったことを考えると、日本も同様な流れになるのは想像に難くない。

 フランスはリサイクルや寄付によって処分することを義務付けた。日本でもいろんなリサイクル方法が試みられているが、寄付が浸透するかは不透明だ。なぜなら、アパレル商品には好き嫌いがある。売れ残り在庫は消費者に好まれず、購入に至らなかったもの。寄付という行為でタダだからといって、皆が欲しがるかと言えばそれも疑問だ。「四の五の言わず、貰っておけばいい」と言うのは、あまりに横暴で善意の押し付けになりかねない。

 ある児童養護施設の職員が語っていた。「子どもたちの感覚は普通の家庭の子と何ら変わらない。好きな服を着たいし、好きなものを持ちたい。なるべくそうさせてやりたい」と。今の日本なら当然かもしれない。そこで、文化や習慣が違い、貧困で着るものにも事欠く海外への寄付になると、どうなのだろうか。ただ、SDGsの第一目標である貧困を無くすには、世界の富をみんなで分け合うことであって、寄付をしたからといって無くせるものではない。


紙のリサイクルを応用した再生装置

 もちろん、着るものにさえ困っている人たちへの寄付を否定するつもりはない。ただ、これも簡単ではない。まず、送料がかかることだ。それでなくても石油価格の高騰で、運賃は値上がりしている。寄付をするなら、送料まで支援できるのか、である。さらに税関の手続きにも手間がかかる。荷物の内容を明示するリスト作成がそうだ。

 まず海外に出荷する商品の写真、繊維組成の明細(布帛、ニット、カットソー)、混紡率といった資料を用意しなければならない。そして箱ごとの枚数や重さを計量して書類に明示することも必要になる。また、繊維の組成別に商品を仕分けすれば、その分箱の数が増えるため送料に跳ね返ってくる。コンテナ輸送になるから、一箇所の港に集めて500~1000箱くらい送り出さないと、コストは吸収できないと思われる。

 では、リサイクルはどうか。繊維製品のリサイクルは大きく分けて3つある。まず、廃棄物を粉砕または融解し、物質の特性を変えないまま、次のリサイクル品の原料とする「マテリアルリサイクル」だ。これには1.衣類をばらして布状にしたあと雑巾や油拭き用のウエスにする。2.布から繊維をわた状にほぐし自動車などの防音シートにする。3.合成繊維の布は洗浄・粉砕・溶解し、ボタンやファスナーなどの成形材にする、3つがある。



 次に素材を分子レベルで分解し、精製した後に化学合成・再製品化する「ケミカルリサイクル」。これは異素材を除去し高品質のリサイクル品を生産でき、また石油由来の新品に近い品質を実現できる。だが、リサイクルの工程が複雑で、処理プロセスの高コストになるというデメリットがある。3つめが衣料を可燃ごみと一緒に焼却し、発生した熱を発電や暖房に再利用する「サーマルリカバリー」。ただ、廃棄物を新たな製品に再生するわけではないことから、リサイクルとはみなされず、焼却によってCO2を発生させてしまう。

 もちろん、日本企業の中は、高品位な繊維原料への再資源化する技術開発にも取り組んでいる。セイコー・エプソンが2025年に衣料品から繊維を再生する事業を開始する。同社は紙に印刷するプリンターのメーカーだが、衣料に衝撃を与えて繊維を取り出す再生装置を開発し、アパレルメーカーなどに供給する計画という。

 従来のように衣類を細かく断裁して繊維を取り出す手法では、繊維の強度を保つために綿を加えるため、繊維の再生率は10%程度にとどまっていた。そこでセイコー・エプソンは紙のリサイクル技術を応用した手法で、まずは50%を超える再生を可能にすることからスタートする。もちろん、将来的には100%リサイクルが目標だ。



 原理は以下になる。水を使わずに衣類を物理的にほぐして繊維を取り出す「ドライファイバーテクノロジー」を応用する。同社はすでに乾式オフィス製紙機「ペーパーラボ」にこの技術を搭載しているほか、神林事業所やインドネシア・エプソン・インダストリーに大型設備を設置し、古紙から緩衝材やインク吸収材などを製造している。繊維分野では、パートナーシップを締結するデザイナーブランド「ユイマナカザト」が古着をリサイクルした不織布シートをコレクションの一部に使用するケースがあった。

 今回はHKRITA(香港繊維アパレル研究開発センター)と共同開発契約を締結し、ドライファイバーテクノロジーを応用した、新しい繊維リサイクルのソリューション提供を目指す。繊維のマテリアルリサイクルでは、2種類以上の繊維が混紡された合成繊維を分離するのは、技術的に難しいとされている。特に主流の反毛機を使用した解繊では、強撚素材やストレッチ素材の処理が困難だった。ドライファイバーテクノロジーはこれらに対応していくもので、廃棄衣料を再び繊維として活用し、循環型ソリューション社会の実現を目指していく。

 アパレル各社でも繊維リサイクルはすでに動き出している。ZARAを展開するインディテックスは、グローバル化学メーカーのBASFと協業し、リサイクルによるナイロン100%商品の販売をスタートした。繊維廃棄物をリサイクルしたBASFのループアミドを生地、ボタン、ファスナーなどに使用。2030年までにすべての繊維製品で、環境負荷を抑えた素材に切り替える計画だ。サステイナビリティー担当のトップは、「協業は新しいテクノロジーを使った循環型ソリューションの第一歩」とし、引き続き両社での取り組みを拡大していくという。



 海外アパレルのこうした取り組みは、サイトを見るとよくわかる。掲載商品のマテリアルの項目には、使用する繊維がリサイクルであれば、明確な表示がなされている。昨シーズンくらいからは、「Matière(素材): 30% Laine - Recyclée」とか、「Doublure(裏地): 100% Polyester recyclé」とかの表記が当たり前になった。一方、日本のアパレルもリサイクルには取り組んでいるとは思うが、素材に堂々と使用していると公開しているところはまだまだ少ないようだ。

 裏を返せば、グローバルアパレルではもはやマーケットを制圧し、売上げトップになることだけが企業使命ではないということ。少なくともステークホルダーから信頼されるには、繊維の100%再生を目指すことも重要になる。機器メーカーによって少しずつ技術が開発され、それをアパレル各社が活用すれば、製品にもリサイクル素材が使用されていくだろう。そして、個々の消費者に理解されて浸透すれば、もはや販路の一部を押さえるプラットフォーマーのLINEヤフーや楽天も、中古品販売を超えるアクションを起こさないわけにはいかなくなる。

 企業活動を続けていく上で、世界をより良く、持続可能なものに変えていく上で、リサイクルについて自らコミットメントするのは当然だろう。売場に積まれた大量の売れ残り在庫を前に、これらの再生にどう取り組むのか。某グローバルSPAのトップからも、ぜひ伺いたいものである。


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