HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

地方消費の核心とは。

2019-03-06 06:27:19 | Weblog
 業界メディアもすぐに取り上げたことを考えると、注目度は高いようだ。当の熊本ではトップニュースになったのではないだろうか。「熊本パルコ閉店」の報道である。https://www.wwdjapan.com/810414?fbclid=IwAR1ycdoDTzNJ1qkVXe4cOGrhWg_eqU8OIuJM6JJiMrVgPM0z_7whGz6e8OA

 第一報はNHKだった。2月25日、「ファッションビル『熊本パルコ』が来年にも営業を終了する方向で調整に入った」と、配信した。 筆者はこのニュースに接し「やっぱりな」という印象だった。すでに東京・渋谷の「本丸」でさえ、はるか以前から上層階にホビーショップを誘致するなど、ファッションビルとしての体を成さなくなっていた。

 パルコ側は小規模なテナントビルの「ゼロゲート」、大人向けの業態を集めた「パルコヤ」を開発して売上げ回復と復権を目指しているが、それらも時代をリードしているようには見えない。今秋には渋谷に新しいパルコが登場するが、パルコの地方店がありふれたテナント集積で競争力を持てるはずがないのだ。その結果が相次ぐ閉店であり、熊本も例外ではないだろう。

 2月28日、パルコは正式に「熊本パルコは2020年2月29日で、賃貸契約の満了に伴い営業を終了する」と、発表した。それだけでは終わらず、翌1日には牧山浩三社長がわざわざ熊本まで出向き、会見を行った。入居するビルは老朽化のために取り壊され、新たに「複合ビル」が建設される。牧山社長は「この1年で新たな業態のイメージを示したい」と述べ、撤退ではないことを強調した。

 デベロッパーとしてパルコブランドを築いたプライドからか、 それとも自治体や地元から圧力がかかったのか、とにかく火消しに躍起のようだった。新ビル構想では「エンターテインメント機能を持たせたい」とのことだが、テナント頼みでどこまで斬新さや集客力を発揮できるかは全く不透明である。

 大西一史熊本市長は地域経済への影響を懸念することから牧山社長と面談し、まずは従業員の雇用について最大限の配慮を求めている。市長自らが一商業施設の閉店に口を挟むのは異例のこと。地方都市の中心市街地が地盤沈下していることを考えると、熊本がそうなるのを避けたいとの思いが滲む。

 パルコが概況を報告する「FACTBOOK」の2017年版を見ると、熊本パルコの売上げは12年度こそ52億5800万円で、前年同期比103.2%だったが、13年度から15年度までは3年連続で前年割れとなっている。16年度は54億8200万円で、前年同期比で106.3%をマークしたが、これは熊本地震で郊外にある「イオンモール」や「ゆめタウン」が休業を余儀なくされたため、一時的にパルコが潤ったに過ぎない。

 郊外のSCが再開した2017年度は、年商48億8900万円、前年同期比79.9%(FACT BOOK 2018版より)と震災前の状況に逆戻りしている。復興需要の反動をもろに受けたと言い訳したところで、実質は5年間も売上げ減が続いたのだから、テナントビルとして危機的な状況と言うしかない。地下1階から地上9階の10フロアに69のテナントを抱えても、年間で50億円も稼げないのだ。株主総会で投資家から突っ込まれる前に、経営陣が「閉店」を決断してもおかしくないということである。

 もっとも、こうしたニュースが駆け巡ると、地元メディアが拾い上げるのが「惜しむ声」だ。「よく買い物したのに残念」「街の魅力がなくなってしまう」「待ち合わせ場所だったのに」等々。挙げ句の果てには商店街の関係者からは「中心部から客足が遠のき、活気を失ってしまう」なんて声まで挙がる。おそらく熊本も似たようなものだろう。

 しかし、テナントビルが閉店するいちばんの理由は、売上げ不振である。言うなれば、お客がカネを落とさなくなっているのだ。しかし、お客が服や小物を全く買っていないわけではない。若者ほどネット通販を利用したり、メルカリなどで中古品を購入している。欲しい商品がパルコでは揃わないにしても、自らがパルコ離れの一因でありながら、閉店を惜しむのは筋違いの気もする。というか、メディアがそう誘導しているふしがある。

 まあ、経済部と社会部で記者の報道姿勢が違うから、全国とローカルのテレビニュースや新聞紙面で伝えられる内容が違うのは当然だ。しかし、曲がりなりにもメディアなら熊本パルコが閉店に追い込まれた根本原因を取材して、冷静かつ客観的に報道する必要はあると思う。感傷を煽ったところで、地方経済は活性化しないのである。

 熊本では2017年に同じ下通商店街にファッションビルの「COCOSA」がオープンした。今秋には桜町地区の再開発事業で商業施設が開業するし、中心部から少し離れた熊本駅でも2021年のオープンに向けてJR九州の駅ビル(アミュプラザを含む)の開発が進んでいる。

 以前にこのコラムでも書いたが、商業施設を開発するにはコンテンツであるテナントを誘致することになるが、アパレル業態は既存店とのバッティングやエリア指定などから、リーシングは容易ではない。COCOSAのケースでも、予想通りに出店したのは熊本に既存店がない「ジャーナルスタンダード」「フリークスストア」「アーバンリサーチ・ドアーズ」等々と、他にはセカンドブランド群である。




 桜町の商業施設は福岡のスーパーが入居することが決まったが、他のテナントについての詳細は公表されていない。バスターミナルやホテル、住宅、文化施設が併設されるので、おそらく中高年を意識して、テナントは雑貨や飲食が主体になると思われる。それより気になるのはJR熊本駅ビルの動向だ。

 JR九州は2011年に開業したJR博多シティの「アミュプラザ博多」で、同じ福岡の天神にある有名ブランドをほとんど誘致した。市場規模が熊本の数倍はあるため、ブランドによっては福岡2店舗態勢が可能となり、開業からずっと前年同期比で増収を続けている。実はアミュプラザを運営する㈱博多ステーションビルは、パルコのノウハウを採り入れているのだ。当然、親会社のJR九州としては鉄道事業以外を強化していることから、熊本駅ビルの開発でもテナント誘致を強力に推し進めていくのは間違いない。

 少子高齢化による市場縮小やネット通販の浸透を考えると、熊本では福岡のようなブランド2店態勢は考えにくい。となると、鶴屋百貨店の東館からNew-S館、WING館、通町筋、下通商店街、COCOSAまでに店舗を構えるブランドが「アミュプラザ熊本」に引き抜かれないとも限らない。パルコやビルのオーナーが「複合ビル」を検討するのは、今後JR九州との間でブランド争奪が激化するのを想定したからとも考えられる。

 むしろ、鶴屋百貨店や下通繁栄会、COCOSAの方が、テナント引き抜きで中心部の集客力が落ちるのを懸念しているのではないか。だからこそ、どういう形であれ、パルコに残ってほしいのだ。大西市長が牧山社長を市役所に呼びつけ、コメントさせたのもパルコ閉店による市民の消費減退をストップさせたい意図があるだろう。

 ただ、複合ビルにエンタメ機能を持たせると言っても、地下アイドルの舞台小屋なら多少の集客にも期待できるが、eスポーツを中心としたゲーセンの寄せ集めでは、中高生の溜り場にならないとも限らない。それに複合ビルを建設するにしても旧パルコと建坪は変わらないわけで、33年の顧客蓄積とマーケット浸透が本当に競争力になるのだろうか。

 実際には熊本の中心市街地は、非常に厳しい状況が続いている。下通商店街ではパルコより150mほど先に店舗を構えていたZARAが昨年8月に撤退した。ZARAは地方ではEC購入がますます加速していくのを念頭に、実店舗を閉店してもEC拡大を図る戦略に転換している。そのため、郊外SCの大型店は残しても、都市部の小型店舗を閉じるのは吝かではないのだ。

 同時期には鶴屋百貨店の子会社が運営していた食品専門店「ラン・マルシェ」が、売上げが目標を届かないことから下通商店街の店舗を閉鎖している。加えて、COCOSA地下に出店したイオンの高級スーパー「Food Style Store」も、開店から売上げ低迷が続き、ものの1年でMD修正を余儀なくされた。ZARAは別にしても、他の業態が閉店や政策変更に追い込まれるのは、あまりに「背伸び」し過ぎて、増え続ける高齢者に目を向けず、市場ニーズと乖離した商品政策をとった結果ではないのか。

 背景には、熊本が自称する「ファッションの街」があると思う。アパレル業界では以前からそう言われていたので、筆者も聞いたことはあるのだが、時代が完全に変わったのに未だに持ち出すのは自惚れでしかない。筆者が住む福岡もそうだが、熊本とてウエアや雑貨、食品などを小売りする術しかなく、お洒落を創造する土壌もシステムもないのに、ファッションの街が成り立つわけがない。

 これまでも単にブランドを消費してきただけに過ぎず、オリジナリティのある商品を創り出す人間もインフラも皆無に近い。それをファッションの街と呼ぶにはあまりに想像力を欠いた物言いだ。これには地元メディアの責任もあると思う。まさに熊本パルコが閉店に追い込まれたのは、ブランド消費しかしてこなかったツケで、陳腐化すれば消費は一気に減退することを如実に表している。

 来月20日に開催される「東京ガールズコレクションin熊本」も然り。ファッションの街を標榜するのなら、パッケージイベントの客寄せ興行くらいでは満足できないと思うのだが。これについてはイベント期日前に書くことにする。

 まあ、熊本パルコの閉店でリストラされる従業員が一番思っているだろう。「私たちがクビになれば、COCOSAの商品も売れなくなるかも」「エンタメって、そんなに人を雇ってくれるの?」。GAFAという巨大勢力が世界中の隅々まで入り込んで収奪し、リアルな業態が次々と駆逐されていく中で、これから地域、ローカル消費の核心とは何か。熊本のような地方都市こそ、街を退化させないためにも考えていくべきではないかと思う。

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