HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

人間技が生かされる卸営業。

2019-03-13 04:52:22 | Weblog
 3月1日、来春に卒業する大学生の就職活動が解禁された。この時期になると、業界メディアでもリクルートを意識した記事がチラホラと目立つ。

 ただ、正直言って、今のアパレル業界に明るい話題はない。グローバル化による競争激化、コスト削減によるクオリティの低下、EC普及による店舗の減少、少子高齢化による市場のシュリンク、購入・所有からレンタルやシェアに替わるサブスクリプション等々。じっくりものを作り、地道に売って、お客も喜ぶという旧来のかたちが求められるような状況ではないのだ。

 業界で本当に楽しい仕事ができると、大学生が思うだろうか。そんなことを考えていると、先日、WWD Japanが最近すっかり日の目を浴びていなかった「卸営業」を取り上げていた。https://www.wwdjapan.com/823023?fbclid=IwAR2lPme9q7iZGs84XVbJBajtF-UpcJGkls05_CFG4HM5rA1Q7VUvfugLP5Y

 就職活動を行う大学生からすれば、アパレル業界は製造も小売りも一緒くたで、クリエーションの行きつく先がブランド、それを販売するのがショップくらいのイメージしかないだろう。だからなのか、記事はワールドの子会社「ワールドアンバー」に勤務する25歳の営業マンへのインタビューを通じて、卸売りのリアルな現場をクローズアップしたものだ。就活生がWWDをどこまで読んでいるかはわからないが、アパレル業界に少しでも興味があれば、ネット配信に触れる機会もあると思う。

 この記事を読むと、ワールドでさえ未だに住宅地の一角にある小売り専門店が販売する商品を卸売りしているのがわかる。序でに言うと、こうしたお店の中には近隣に直営店がないことで、「コムデ・ギャルソン」や「サカイ」なんかを扱っているところもある。世界的な有名ブランドであっても、全国各地の隅々にまで商品を行き渡らせるには、卸の力と小売り専門店の存在が不可欠なのである。


 この営業マンは神奈川、埼玉、一部西東京にある「ブティック」(仏語で小さな店の意。特定デザイナーの商品、ハイセンスな服や装飾品を扱う。高級専門店とも解釈される)を中心に、個人経営の専門店70店を担当している。1店舗あたりではワールドが卸す商品のシェアはそれほどないため、いかに高めるかが当面の目標だ。

 街のブティックとは言っても、高齢のオーナーや中高年のお客が少なくなく、営業マンは商売がジリ貧になのを目の当たりにしている。今後もお店を続けてもらうには、商品を仕入れてもらう前段階の関係づくりが重要なようで、売場の電球を替えたり、安い備品を遠くまで買いに出かけたりと、ご用聞き役もこなしている。これは地方銀行の渉外担当も似たようなもので、日本特有の泥臭い営業のスタイルだ。

 こうしたアパレルの卸営業にスポットが当たるのは、ECのようなシステム、AIといった機械に置き換えられない部分をいかに人間が担うかが重要だからだと思う。まして全国どこでも同じブランド、同じ商品が手に入る中、それを面白くないと感じるお客は少なくない。どんな地方に行こうと、洋服に拘るお洒落な人は、必ずいる。絶対数は少なくなっているが、素材、デザイン、色でファッションを選び、いいものならカネに糸目は付けないお客は存在するのだ。

 そうした人々が今も地域のブティックを支えている。店舗ごとでは点にしかならないが、エリア規模なら線にでき、全国レベルでは面になり、一定のマーケットを構成する。営業マンはショップオーナーやお客との何気ない会話の中から、商品ニーズを嗅ぎ取って企画部門にフィードバックしたり、会議の題材を整理して商品づくりのヒントに生かしていくのも、卸営業としての役割なのである。



 ただ、オーナーも顧客も高齢化し、個人専門店の経営は厳しい。中には小売りとメーカーとの主従関係をいい事に、横柄な態度を取るオーナーもいる。こんな実例があった。ある営業マンが期日に卸し代金の入金がないため店舗を訪れると、オーナーはレジを開け、「今、お金ないんだ」と、語ったという。

 店舗を経営するには家賃、スタッフの給料、光熱費などの経費がかかり、オーナーの報酬も必要になる。それらは商品を売って稼いだ利益で賄わなければならない。ただ、地域の専門店の場合、毎日、次々とお客さんが訪れ、生活必需品ではないファッション衣料を買っていくとは限らない。購買動機が新シーズンの到来やハレの日に集中すれば、コンスタントな売上げは立ちにくいのだ。待ちの態勢ではなく顧客のもとに売りにいくケースもあるが、「長年の付き合いがある常連客には、代金をもらわず商品をお客に渡す」店もある。ある時払いの催促なし、いわゆる「掛け売り」って奴だ。個人専門店では長年来行われて来た商慣習でもある。

 クレジットが導入されても、伝票の購入日を空欄にして信販会社には締め日に送付せず、お客の支払いを先延べさるケースもあったくらいだ(現在では不可能)。店側がお客の懐具合を慮ってか、それともお客が購買意欲を抑えきれないからか。どちらにしても、店舗に入って来るキャッシュが少なければ、メーカーに支払えるはずもない。手形を振り出していれば、不渡りになるわけだ。

 商売人のプライドがあれば、何とか金策に走り回るだろうが、中にはメーカーとの主従関係を盾に取って開き直るオーナーもいる。ワールドが寺井秀藏社長の時代に卸営業を縮小し、SPAによる直営店事業に舵を切った背景には、企画から生産、販売までを一体化して売り上げ効率を上げる目的があった。しかし、もう一つの理由として「卸先である小規模専門店から売掛金の回収が難しくなった」こともあると、言われている。

 今回のインタビューで記事を書いたWWD Japanのライターは、前出のようなアパレル独特の商習慣というか、いやらしい部分までは知らないだろう。仮に知っていて営業マンに質問したとしても、相手の反応を聞き出し記事にするにはあまりに生々しいことだ。大学生が実情を知ると、ますますアパレル業界を敬遠するかもしれない。

 まあ、就職活動が解禁されて説明会に参加する学生は、企業からすれば就職への意識が低いと映るようだ。企業側はすでに昨年の6月から3年生に向けたインターシップを開催。それに参加する学生が意識が高いと見なされて水面下で面接を受けるかたちとなり、内々定をもらう学生すらいるという。国や経団連の取決めを真に受けた学生にはずいぶん理不尽なことだが、「今や就活のルールなんて形骸化している」を前提に行動することが大人、社会人の第一歩なのかもしれない。企業社会の最前線では、ビジネスは杓子定規に行かないことの方が多いし、いろんな試練が待ち受けいるわけで、学生にはそれを乗り越えられるタフさ=狡猾さが求められるという点では、アパレルのことも少しは知っていても損はないと思う。

 記事に登場した25歳の若者も、こうしたアパレル独特の悪習に直面した時、会社のコンプライアンスと店とのアカウント維持というジレンマに苛まれるかもしれない。その時にどう対応し、その経験を自分のキャリア形成にどういかしていくかが大切なのである。

 アパレル小売りの仕組みは大きく変わっている。BtoC(企業対消費者)の取引は、無店舗、EC、キャッシュレス、即時決済と進化している。商品の動きを管理する電子タグもコストダウンが進んでいる。それが個人専門店向けの商品にも導入されると、おそらくスキャンしてレジを通さない限り、商品は店の外には持ち出せなくなるだろう。

 メカの発達がBtoB(企業対企業)/卸しと小売りの関係に即時決済をもたらすとはいかないだろうが、悪習の是正には一役買ってくれると思う。小規模な卸先との関係からアパレルメーカーの経営者は声高に叫ばないにしても、掛け売りの防止を念頭に電子タグを導入してもおかしくない。商品の委託、買取は抜きにしてもだ。

 ただ、卸売りの現場では「長年のつきあいじゃんか、そこを何とか」「メーカーさんとの関係も、ドライな時代になったよね」と、言い出す老練オーナーもいるだろう。その時、この若手営業マンが人間にしかできない技でどう切り返すのか。成長した姿を追ったインタビュー記事も読んでみたいものである。



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