深く潜れ(Dive Deep)! キネシオロジー&クラニオセイクラル・ワーク(クラニオ)の蒼穹堂治療室

「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

人体に位相を導入する

2016-03-06 13:51:11 | 一治療家の視点

BGMはドラマ『SPEC』のOSTから「Spec-Main-Theme」。



2015年の6/末に森田茂之の『集合と位相空間』を一通り読み終えた。半年がかりだった。この『集合と位相空間』は、タイトルからも分かるとおり位相空間論についての教科書/参考書で、大学の数学科では大体2年生くらいで履修する科目だ。

数学には代数幾何学、代数的位相幾何(代数的トポロジー)、微分位相幾何(微分トポロジー)といったさまざまな幾何学があるが、それらは全てこの位相空間論の土台の上に構築されている。例えて言うと、これから家を建てようとする時、それに先だって専門用語や工具の基本的な使い方を学ぶのが位相空間論ということになるだろうか。


ところで「空間」というと、一般的には2次元の座標空間とか3次元の座標空間といったような、何本かの座標軸によって張られる何らかの持つ広がりを持った領域、としてイメージされるのではないだろうか。

けれども、数学の世界でいう「空間」の概念は、もっと柔軟で抽象的でとりとめのないもので、しばしば集合に何らかの構造を与えて、それを「空間」と読み替えることをする。例えば、ある集合に何らかの演算構造を導入して、それを代数空間と呼んだりするという具合に。

この記事のテーマである位相空間は図形の幾何学的な性質を調べるのに不可欠なものだが、その位相空間も実は単なる集合に過ぎない。ある集合に近い・遠い、分かれている・つながっている、といった幾何学的な構造(位相構造)を導入し、それを幾何学的空間として使えるようにしたものが位相空間である。だからその空間が1次元、2次元、…、n次元といった次元を持つとは限らない(実際には、次元が必要ならそれを定義すればいいだけだが)。


その位相空間論を30年ぶりにやり直して、ふと「人体に対して位相を導入できないか」と思った。まあ例によって、単なる思いつきだ。


ここからは位相空間論に関する専門用語を十分な説明なしに用いる。説明を入れないのは、それを始めると説明部分だけで膨大な量にのぼり、記事の本論から大きく外れてしまうためだ。その専門用語の正確な意味がわからないと記事の意味が掴めない、ということはないので、軽く読み流してもらってかまわないし、ここで用いる用語は全て、上記の『集合と位相空間』を始めとして位相空間論の本を見れば必ず書かれているので、詳しく知りたい人はそちらを参照されたい。


一般的に人体というのは3次元の立体として認識されるから、人は無意識的に人体に対して3次元ユークリッド空間の位相を導入している(3次元ユークリッド空間^3は
^3=××
と、3つの実数空間の直積で表され、そこに自然な位相が導入されたものを言う。自然な位相というのは、我々が普通に持っている空間認識、空間感覚のようなものだ。つまり3次元ユークリッド空間とは、ごくありふれた3次元空間のこと)。


さて、キネシオロジーに限らず、西洋医学でも手技療法、自然療法でも、検査によってどこに問題があるのかを見つけ出せないと治療に移ることはできない(注1)。そこで一番困るのが、「どこにも問題は見つからないが、症状だけはある」というケースだ。こうなると施術者、セラピストはお手上げで、医者なら「ストレスによる心因性のものでしょう」とか言って意味もなく薬を処方するだろうし、手技療法家なら適当な理由をつけて意味もなく揉んだり、鍼を打ったり、テープを貼ったりするかもしれないし、自然療法家なら意味もなくレメディを使ったりすることになる。

あなたが施術者、セラピストなら、絶対に身に覚えがあるはず。

だから、臨床では「いかに隠れている問題を検出するか」が重要になる(「いかに治すか」はその後の話だ)。そこで施術者、セラピストによっては、人間を肉体だけでなく精神・感情だとか過去生だとかまで含めて評価することをしている人もいるだろう。それはパラメータとしての次元の数を増やして(=直積の数を増やして)、
^n=××…×(n個の実数空間の直積)
と人間をn次元的な存在として捉えて評価する、ということを意味する。

しかし、仮にその次元をどこまで増やしても、通常はそこに(無意識的に)導入している位相そのものはユークリッド空間の自然な位相のままだ(というより、それしか知らないから他のものを導入しようがない)。それゆえ、パラメータの数を増やしても考慮すべき事象の数が増えるだけで本質的には何も変わらない(それでもパラメータを増やすことで見えてくるものはあるので、やっていることは無意味ではないが)。


そこで、次元(=パラメータ)を増やすのではなく、同じものに違う位相を入れたらどうなるか、というのが今回、私の得たアイディアである。

違う位相を導入するとは、空間の捉え方そのものを変えてしまう、ということだ。空間というものの意味合いを変えてしまう、と考えてもらってもいい。例えばあるものを表裏反転させるとか、ひと塊のものとしてではなく細胞(あるい分子)にまで細分するとかして初めて見えてくるものがあるが、それをそんなレベルでなく、もっともっとドラスチックにやる、ということである。

で、結論から言うと、これは非常に有効な方法であることが分かった。自然な位相からでは捉えられない問題が、別の位相を導入することによって捉えられるようになるからだ。それは最初に述べたように、集合としては同じものでも、そこに異なる位相構造を入れれば異なる空間になるからだ。


──と、ここまで読んで
「それはつまり『思考は現実化する』ということだね。要するに、人間システム(注2)を異なるイメージによって捉えれば、そこから問題を多角的にピックアップできる、というだけのことでしょ」
と思う人もいるかもしれない。

確かにその通りなのだが、いかに『思考は現実化する』といっても、施術者、セラピストが整合性のない勝手なイメージで相手のシステムを捉えようとしても、実は上手くいかない。私がここで単に相手のシステムに「(自分で考えた)イメージを導入する」ではなく「位相を導入する」と書いていることには重要な意味がある、ということを理解してほしい。


では具体的にどんな位相を導入すればいいのか。ここでは2つの例を挙げるが、位相空間論を知れば、もっとさまざまな位相が導入できるはずだ。なお、下で開集合族という言葉が出てくるが、ここでは「開集合というのは(位相)空間を構成する単位のようなもので、それを集めたものが開集合族」くらいに考えておいてほしい(実は、それが開集合であるためには満たさなければならない条件があるが、話が難しくなるのでここでは考えない)。そして、位相を導入する集合をここではXと名づける(まあ要するに、集合は何でもいいということだ)。

1つは密着位相。これは集合Xについての開集合族を{∅、X}(つまり空集合と集合全体)だけにするもので、位相として最も弱いものである。

もう1つは離散位相。これはXのすべての部分集合を開集合とする位相である。だからその開集合族は、Xのすべての部分集合からなる集合だ。そして、これは位相として最も強いものである。

これだけでは物足らないという人のために、ヒルベルト空間についてもオマケでつけておこう。これは発展的な例なので、理解できなくても気にすることはない。なお
Σ[i=1,∞]xi^2=lim[n→∞]Σ[i=1,n]xi^2=lim[n→∞](x1^2+x2^2+…+xn^2)
である。

の加算無限個の直積からなる^Nにおいて、その部分空間l^2を
l^2={(x1,x2,…);xi∈、Σ[i=1,∞]xi^2<∞}⊂^N
と定義し、l^2の任意の2点x=(x1,x2,…)、y=(y1,y2,…)に対してdを
d(x,y)=√Σ[i=1,∞]xi^2
で定義すると、これは有限の値として定まるので、d(x,y)は空間l^2における点xと点yとの距離となる。
このl^2は数列空間と呼ばれ、ヒルベルト空間の基本的な例となる。

「波動関数とはヒルベルト空間内で定義されるベクトル」だから、量子論はヒルベルト空間なしでは語れない。つまり相手のシステムにl^2に対して上記の距離によって位相を導入すると、それを量子論的に捉えることができる可能性がある。

(注1)実際には「どこに」だけでなく「どんな」問題があるかが検出できないと治療はできないはずだが、例えばキネシオロジーでは「どこに」の情報だけでも治療することができる。
(注2)これはクラニオ的な言い回し。


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