深く潜れ(Dive Deep)! キネシオロジー&クラニオセイクラル・ワーク(クラニオ)の蒼穹堂治療室

「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

『ドグラ・マグラ』の新しいカタチ

2009-02-01 15:49:36 | 趣味人的レビュー

最近は古典がはやりのようだ。光文社の古典新訳文庫は「いま、息をしている言葉で。」というキャッチフレーズで、有名な古典を中心に新訳して出しているもので、亀山郁夫訳の『カラマーゾフの兄弟』などはベストセラーになった。

しかし、光文社以上に古典を戦略的に使った出版を行っているところがある。その名はイーストプレス。光文社は古典を現代の言葉で翻訳し直すことで作品に新たな命を与えたが、イーストプレスは古典をマンガ化するという、とてつもない荒業で、作品に新たな命と形を与えている。とは言え、もちろん日本は何でもマンガ化してしまう国だから、そんなことは別に驚くべきことではない。イーストプレスじゃなくたって、例えば『源氏物語』などはさまざまな形で何度もマンガ化されているのだから。
だがイーストプレスの凄いところは、単に「古典小説をマンガ化」するのではなく「あらゆる古典をマンガ化」しているところにある。一体どこの出版社が『君主論』や『資本論』、果ては『死に至る病』、『わが闘争』などをマンガで出そうなどと考えるだろうか。いや、考えたとしても、それを本当にやってしまう出版社が他にあるだろうか。そういう意味では、イーストプレスは光文社などとは全く違う「古典ビジネス」のモデルを提示していると言えるだろう。

そのイーストプレスの「まんがで読破」シリーズの中でも、私を凍りつかせた1冊がある。去年、近所の本屋でその本を初めて目にした時は、一瞬だが体が本当に凍りついた。その1冊とは、夢野久作の『ドグラ・マグラ』である。
『ドグラ・マグラ』──小栗虫太郎の『国死館殺人事件』、塔晶夫の『虚無への供物』と並ぶ、日本の三大奇書の1つ。夢野久作が10年をかけて執筆し、「それを読んだ者は一度は精神に異常をきたす」と言われる(もちろん、そんなことはないのだが)「幻魔怪奇探偵小説」。まさか、その『ドグラ・マグラ』がマンガ化される日が来ようとは…。さすがに、ちょっと頭がクラクラしてしまった。

で、本屋でパラパラと中身を通して見てみると、おぉ~わかりやすーい。あのとにかく複雑怪奇な原作が非常によく整理され、とてもわかりやすくなっている。『ドグラ・マグラ』の世界を短い時間にコンパクトに知るには、非常に便利な本だ。
実は『ドグラ・マグラ』は過去に映画化もされていて、物語の重要な登場人物である正木敬之、若林鏡太郎をそれぞれ桂枝雀、室田日出男が演じている。マンガ版は正木、若林のキャラクター造形を見ても、映画版をかなり参考にしていることがわかる。
ただ原作を読んだ者としては、『ドグラ・マグラ』は読者がその複雑さと格闘しながら読み進むところに大きな意味があるわけで、『ドグラ・マグラ』をわかりやすくマンガ化することは『ドグラ・マグラ』自体を瓦解させてしまいかねないことと表裏であることを知っていてほしいと思う。つまりマンガ版『ドグラ・マグラ』を読むことは、『ドグラ・マグラ』を読むことと同じではないのである。そして、それはまた『ドグラ・マグラ』以外のマンガ化された古典全てについても言えることだろう。

が、それにしてもマンガ版『ドグラ・マグラ』はあの分厚い原作に比べて妙に薄いと思ったら、原作にあった「キチガイ地獄外道祭文(さいもん)」が完全に割愛されていた。ああ残念だ。「キチガイ地獄外道祭文」は確かに本編のストーリの流れには関係ない部分だが、『ドグラ・マグラ』を『ドグラ・マグラ』たらしめている重要な要素の1つであり、全部は無理でも一部でも入れてほしかった。
今は言葉狩りが激しくて「キチガイ」という言葉自体、おおっぴらには使えなくなっていることもあるのかもしれない。でもいつか「キチガイ地獄外道祭文」まで入れた、完全な形での『ドグラ・マグラ』マンガ化を期待したい。

突然、話は変わるが、「スチャラカ、チャカポコ。チャチャラカ、チャカポコ‥‥‥」という「キチガイ地獄外道祭文」を髣髴とさせる歌がある。怒髪天というグループの歌う『労働CALLING』という曲。つい最近まで「昭和30年代ブーム」というのがあったが、この曲を聴いていると、プライムローン問題に端を発する世界同時不況によって、昭和30年代どころか一気に戦前にまで戻ってしまいそうな気配がムンムンしてくる。

『ドグラ・マグラ』は青空文庫に収録されていて、ネットでも読むことができるが、かなり長大なためあまりオススメしない。それでも読んでやるという命知らずの人はゼヒ挑戦してほしい。これが「それを読んだ者は一度は精神に異常をきたす」作品であるということは、既に述べた通りだ。
青空文庫『ドグラ・マグラ』

また「『ドグラ・マグラ』愛」にあふれたサイト「『ドグラ・マグラ』私的覚書」も見つけたので、興味のある方はどうぞ。


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