南の国の会社社長の「遅ればせながら青春」

50を過ぎてからの青春時代があってもいい。香港から東京に移った南の国の会社社長が引き続き体験する青春の日々。

カヤトーストのグローバリゼーション

2006-10-15 14:56:00 | シンガポール
シンガポール初のブランドが国境を超えて海外に広まっていく
というのは、そんなに有名なのはありませんが、実はちょこ
ちょこあるのですね。歴史的には、ブランドではありませんが、
シンガポール・スリングというカクテルはシンガポール初で
世界中に浸透した最初の例といえるんじゃないでしょうか。
ビールではタイガービール。これはシンガポールを代表する
ビールなんですが、アジア諸国で最近よく見るようになりまし
た。健康器具ではオシム。マッサージチェアから始まって、今
や様々な器具がアジア中に広まっています。MP3やIT周辺機器
のクリエイティブ・テクノロジーもシンガポールのブランドで
す。またテレビ局のChannel NewsAsiaはシンガポール初の国際
チャンネルということで、周辺諸国へも放映をしています。
シンガポールの銀行のDBSなども国際展開を初めていますし、
シンガポールの工業団地設備なども海外展開しています。

食べ物では、シンガポールではおなじみのブレッドトーク
というパン屋さんは、シンガポールのあちこちに店舗があり、
アジア各国にも店舗展開を広げています。この前、マニラに
行ったときも街角で見かけた気がします。そして、今回のタイ
トルになっているヤクンのカヤトースト
これもシンガポールで生まれたブランドですが、アジア各国
に店舗展開をしていて、最近、日本の豊洲のららぽーとに日本
での一号店ができましたね。

このヤクン(Yakun Kaya Toast)の日本進出の件は、東京にいる
下町娘(=My Wife)から以前聞いていました。
豊洲は江東区にあり、彼女も江東区民ですので、自転車でらら
ぽーとまで行って、ヤクンの店を見て来たら、行列ができてい
たので入らなかったと言っておりました。江東区といえば、私
の本籍地も、今年の8月から江東区になっておりました。
シンガポール在住なので、日本での住民票はありませんけど。

豊洲のららぽーとのヤクン・カヤトーストの店の入り口に
ラウパサ(Lau Pasat)と書いてあるのが不思議だったと下町
が言っておりました。ラウパサというのは
シンガポールのビジネス街のど真ん中にあるフードコートです。
調べてみたら、このヤクン・カヤトーストを始めたロイ・アク
ーンおじさんは、最初は別の場所で商売をやっていたらしいの
ですが、ラウパサに店を移してから有名になったとか。だから
ヤクンにとって、ラウパサってのは大事な場所なのですね。

さて、上の写真は、シンガポールに25店舗以上あるうちの一つ
で、パソコンショップがいっぱい入っているフーナン・センター
(Funan Centre)の一階のお店です。先月、ラッフルズ・シティー
の地下にも一店舗オープンしました。

トーストというとどうしても朝食というイメージが強いですが、
私はカヤトーストは朝食では食べたことがありません。おやつ
です。昼食後のデザート感覚、あるいは3時のおやつ感覚で食べ
ます。まあ、ひとそれぞれなので、ランチとして食べる人もいる
でしょうし、夕食として食べる人もいるのかもしれません。
こっちの人は結構頻繁に何か食べている感じなので、カヤトー
ストの店はいつも混んでいる感じです。

ヤクンのカヤトーストは、日本語のホームページもあります。
http://www.yakun.com.sg/jpn/
この中にメニューも出ていますが、私がいつも頼むのは2トー
ストとコピーです。カヤトーストの基本オーダーは2枚からと
なっていて、それを切り分けるので、最終的にお皿に乗って出
てくるのは何枚かになっています。

セットには半熟卵もついてきます。シンガポールでは、卵を生
で食べるとよくないとかよく聞いているのですが、こういう店
で出てくる卵はほとんど生の感じ。みんな結構食べているので
別に心配ないのかな?私は白いご飯に生卵をかけて食べるのが
好きなのですが、卵は明治屋で買ってきています。

私はシンガポールには数年間住んでいるのですが、ヤクンの
カヤトーストを食べたのは3、4年前でした。感動でした。
このお店のカヤトーストは、料理とは言えないほどのチープな
食べ物です。日本で言えば、屋台のタイ焼きとか、タコ焼き
くらいのチープさではないかと思います。

トーストを火でやいて、焦げるほどになります。その焦げた
部分を魚を3枚におろすように、切って焦げていない部分だけ
を残します。その時点で、トーストの厚さはちょっと薄くなり
ます。焼いて水分がなくなっているので、パン自体はどちらか
というと「ラスク」の感じに近くなっています。そのクリスプ
な感じが、ヤクンカヤトーストの命です。これがふにゃふにゃ
した感じだとよくありません。

カヤジャムを塗った2枚のパンをサンドするのですが、この間
に薄切りバターを一切れはさみこみます。これもまたポイント。
カヤジャムだけでは、甘くて、くどいのですが、塩味のバター
が、カヤジャムの甘さを見事に中和するのです。

カヤジャムとは、卵の黄身とか、ココナッツとか、パンダン
リーフとかから作ったジャムですが、緑っぽい色で、甘いジャ
ムです。このジャムだけだとそんなに感動はしないのですが、
このトーストと、ジャムとバターの味と食感のハーモニーが
絶妙で、しかもそれがチープであるという事実がブレンドして
感動を盛り上げるのです。

さらにこれを脇役として支えるのが、コンデンスミルク入り
の濃厚なコーヒー。これ自体もとても甘い。私は甘いものが
好きなので(実家は駄菓子屋です)、全然大丈夫なのですが、
甘いものが苦手な人にはこれは拷問となるかもしれません。

シンガポールではヤクンがカヤトーストの老舗ですが、実は
もう一つの老舗があります。キリニー・コピティアム
(Killiney Kopitiam)という店です。サマセットの外れに店
がありますが、チャンギ空港ゲート内にある店でカヤトース
トを食べたことがあります。その時の印象では、ヤクンの
レシピとだいぶ違うなと思いました。パンがヤクンのように
さくさくした感じではない。私はすでにヤクンの味に染まっ
てしまっていたので、キリニーの味にはなじめない気がしま
した。

これ以外にもシンガポールではカヤトーストを出す店はあり
ます。以前、チャイナタウンポイントの裏に喫茶店ができて
いて、カヤトーストと書いてあったので、食べました。それ
はヤクンの味に近い感じでした。かなりコピーしているのか
もしれません。

さて、豊洲のららぽーとのヤクン・カヤトースト。レシピー
は忠実に再現しているようなのですが、シンガポールにある
ようなチープな雰囲気はなかなか輸出できないのかなと心配
しています。値段は、シンガポールに比べると、何倍か高い
ですし、その点、気楽さが失われてしまいます。

市場環境が変われば、同じブランドでも変容を受けるという
のはよく聞きます。たとえば日本では、安い早いの吉野屋は
こちらではテーブル席が多く、中高生や家族連れの憩いの場
となっています。シンガポールの吉野屋では、ずっと牛丼が
食べられたので、日本で食べられない吉野屋の牛丼を時々
食べていました。

まあ、そんなふうに国が変われば、同じ店舗でも違った雰囲
気で適合していくのは、グローバルブランドによくあること
です。日本のららぽーとのヤクン・カヤトーストの発展を祈
りたいと思います。

ヤクン・カヤトーストを始めたロイ・アクーンさんは、中国
の海南島の出身で、1926年に15歳のとき単身でシンガポール
に渡ってきたそうです。15歳のアクーン少年は、まさか自分
の店が将来、異国の日本などに店舗展開することになろうと
は全く想像もできなかったでしょうね。