南の国の会社社長の「遅ればせながら青春」

50を過ぎてからの青春時代があってもいい。香港から東京に移った南の国の会社社長が引き続き体験する青春の日々。

香港発ムンバイ行き。日々旅にして旅を住処とす。

2011-02-17 05:13:42 | Weblog

「月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也」
松尾芭蕉の『おくのほそ道』の書き出しです。
月日というのは、永遠に旅を続ける旅人のようなもの。
来ては去っていく年もまた旅人。歳を重ねてきて、
さらに日常的に西に東に旅を続けている自分にとって、
高校生の古文の授業で初めて出合った芭蕉の言葉が
やっとリアリティーを持って響いてきます。

今、この文章は、夜中に香港からムンバイに向かう
飛行機の中で書いています。もちろん機内ではネット
にアクセスできないので、アップするのは現地に
着いてからですが。機内は、満席ではなく、隣が
空いているので、エコノミーでもかなり快適。
ちなみに音楽はTaylor Swiftのアルバムです。

先週、3年と数ヶ月住んだ香港の住居を引払うために、
本を整理していたら、瀬戸内寂聴さんの『釈迦』と
いう小説が出てきました。ブッダの最後の数ヶ月の
日々を、最後を看取ることになる弟子のアーナンダ
の視点で書いてある話です。追憶の中でブッダを取り
巻く様々な不幸を背負った女たちが、どういう気持ちで
出家して、尼となり、死んでいったのかが、告白の
ような形で次々と出て来るのですが、こういうのが
書けるのも瀬戸内寂聴さんならではですね。

この本の中で、ブッダは八十を過ぎて、身体の具合が
悪くなり、死を明確に意識することになるのですが、
それでも彼は旅を止めませんでした。
「古人も多く旅に死せるあり」と『おくのほそ道』の
序文に出てきますが、ブッダの人生は、最後の瞬間
まで旅だったのです。

古文ではおなじみの『平家物語』の序文に出てくる
「祗園精舎の鐘の声」や「沙羅双樹の花の色」は、
どれもブッダに関わる事象だったというのが理解
できたのは、恥ずかしながら、つい最近のことです。
無学だった自分を反省します。

私が数年前、手塚治虫の漫画の『ブッダ』の全巻を
シンガポールの紀伊国屋で買って読み、その後で
ヘルマン・ヘッセの『シッダールタ』を読んだのは、
数年前、出張で行ったデリーで、ちょっと立ち寄った
デリー博物館で出合ったブッダの若き日の仏像が
きっかけでした。

ガンダーラかどっかで作られたその像は、それほど
大きな物ではありませんし、有名な物でもありません。
ブッダが生きた時代から何百年も経っているので、
実際の姿とはかなり違っているのでしょうが、
実に若々しい姿で、美形で、しっかり大地を踏み
しめて歩いているかのようでした。いわゆる仏像と
いうイメージではなく、かなりリアルな生々しさが
感じられました。それは真面目な仏教の世界では
むしろ忌避されるべき物、あってはならぬ物だった
のかもしれません。女性だったら、その人に憧れて、
即刻、出家したくなってしまうのではないかと
思えるような雰囲気がありました。その像を見て、
私は「そうかブッダは実在の人間だったんだ」と思い、
突然、人間ブッダに興味が湧いてきたのでした。
その仏像との出会いは、私の人生にとってかなりの
衝撃を与えたのです。

手塚治虫の『ブッダ』は処分するのももったいない
気がしたので、My Wifeの弟に贈呈しました。昨年、
お父さんが亡くなり、法事とかで、仏教との接点が急に
増えていました。私の母が亡くなった時も、新井満
さんの『般若心経』を読んだり、『千の風になって』
なんかに興味をもったりもしたので、彼にとっても
この漫画が何か役に立つんではないかと思ったのです。

弟君がそれを読み始めたのは去年の暮のことです。
この間聞いたら、もう三度目の途中ということでした。
熱心に読んでいます。二度、三度読んでいくと、
一回目には気付かなかった新たな発見があると彼は
言います。まもなくこの『ブッダ』が映画になって
封切られるようです。
今の時代が求めていたのでしょうか。
何だか不思議な偶然です。

飛行機はやがて深夜のムンバイに到着します。
ムンバイは以前はボンベイと呼ばれていた大都会で、
これまでに何度か訪れたことがあります。映画の
『スラムドッグ&ミリオネアー』の舞台になった
大都会で、エネルギー溢れる交通渋滞も、スラムも、
あの鉄道駅も健在です。

今回の目的は、ボリウッドのセレブリティーを
使って、インド向けのテレビコマーシャルを作るの
ですが、その撮影の立ち会いです。細かい事は、
守秘義務があるので、残念ながら、ここでは
書けません。日本人でありながら、こういうところに
関わっている自分というのも、相当、希有な存在なの
ではなかろうかと思ったりもしています。
こういう貴重な経験は、時間が経って、やがて時効と
なってから、是非書きたいと思っているのですが、
それは、いつのことになるのやら。

さて、ムンバイはどんな顔をして私を待ち受けて
いるでしょうか。飛行機は間もなく、ムンバイに向けて
降下を始めます。ではまた。

よろしければ、こちらもついでによろしくお願いします。

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