みなさま、あけましておめでとうございます。3日の夕方7
時成田発のシンガポール航空で、シンガポールに戻ってきま
した。日本にいる間にブログを更新しようと思っていたので
すが、なかなか時間がなくて(というのは言い訳です)更新
できませんでした。昨日も到着したのが夜中の2時くらいで、
帰ってから更新というのもできませんでした。ごめんなさい。
日本では、深川の七福神めぐりをしたり、映画の『大奥』を
見たりしたのですが、それはまた別の機会にするとして、今
回は、この写真の
ダニエル・ピンク著「ハイ・コンセプト」
という本のことを書きたいと思います。
飛行機に乗る前に、成田空港の第一ターミナル南ウィングの
書店のTSUTAYAで、この本を見かけたのでした。タイトルを
見たときに、これはちょっと一般受けしない感じだなと思っ
たのですが、帯の裏表紙に、「この本はミラクルだ。新しい
時代に立ち向かうコペルニクスだ」というトム・ピーターズ
の言葉が黄色い文字で印刷されていました。トム・ピーター
ズがそこまで言うのなら買おうじゃないかということで、
買ってしまいました。
飛行機に乗って、この本を読み始めました。通路側の座席は
読書灯の光が弱いのですが、それでも読み続けました。飛行
機は満席でした。日本人よりも観光で日本に訪れていたシン
ガポール人のほうが多いのではないかという気がしました。
何度か気流の悪いところを通過して、飛行機はジェットコー
スターのように揺れたのですが、それでも私はこの本を読み
続けました。そして、飛行機が7時間弱の飛行を終えて、夜
のチャンギ空港にランディングした時には、約350ページ
のその本のほとんど最後のあたりを読んでいました。
これはビジネス書ですが、従来のビジネス書のように知識を
扱った本ではなく、感性をテーマとしています。そういう意
味では、従来のビジネス書とか、経済や経営学の本とかの感
覚でこの本を読もうとすると、失望するかもしれないという
気がしました。内容はきわめて精神的であり、ファジーで、
新しい。「新しいこと」を考えだす人の時代、という副題が
ついているくらいなので、その考え方は、きわめて斬新なの
です。でも、左脳人間の人からすると、ちょっと読みづらい
かもしれません。
しかし、私にとってはめちゃくちゃ面白かったのです。大前
研一氏が翻訳を行い、自身で前書きを書いています。これま
で私達は、「答えのはっきりした世界」に生きていたので、
知識や技術さえ身につければ何とか成功できた。しかし、今
や、「答えのない社会」になりつつある。そのような世界で
は、知識ではなく、感性が重要になってくるというのです。
著者は、成功の鍵は以下の6つの感性にあると言っています。
1)「機能」だけでなく「デザイン」
2)「議論」よりは「物語」
3)「個別」よりも「全体の調和」
4)「論理」ではなく「共感」
5)「まじめ」だけでなく「遊び心」
6)「モノ」よりも「生きがい」
これだけでは何のことやらわかりにくいかもしれないのです
が、じつはこれらは私が以前から追求してきたものなので、
よけいに惹き付けられてしまったのです。
そろばんが電卓にとって代わったように、人間の知識はコン
ピューターが代行するようになり、また単純作業は中国や
インドが安価な労働力で代行するようになると、私達は、
コンピューターや、中国、インドができないことをしないと
存在意義がなくなっていってしまいます。そのときに必要に
なってくる能力が、全体をまとめあげる力だったり、物事を
わかりやすく伝える力だったり、共感する力だったり、無か
ら有をつくりだす力だったりするのです。これまで学校では
教えてくれなかったことばかりです。
今、私は広告の仕事をしているのですが、広告の仕事で必要
な資質もじつはこういうことなのです。そうしてみると広告
業というのは、最先端の仕事のように見えてきます。また
自分の過去を振り返ってみると、自分が興味のあったことの
すべてが、この「ハイコンセプト」の時代に活用できること
のように思えてきます。
高校の時にちょっとだけ美術部にいて、デッサンをしていま
した。大学を卒業したばかりの頃、シナリオライターになり
たくて、夜間の学校にちょっと通っていました。大学時代、
シェイクスピアの演劇をしておりました。大学では英文学を
やっていて、小説だとか詩だとかを研究していました。仕事
の中では、プレゼンテーションをやってきました。説明も
そうですが、パワーポイントを美しくまとめるということを
追求してきておりました。お笑いの才能はないですが、人を
笑わせることは好きです。こんな背景を持っている自分なの
で、この本で書いてあることが、すごい説得力で自分に語り
かけてきたのでした。というか、自分がこれまでもやもやと
思っていたことを正当化してくれるといったような感じでした。
私は、以前から新聞を読むことが好きでありませんでした。
新聞を読む事は知識を得るには必要なことですが、知識を
追求すると逆に世の中が見えなくなるのではないかという
感じがしていました。新聞社の人には申し訳ありません。
これは勝手に自分が思っているだけで、誰もそれに共感
してくれる人はいませんでした。でもこの本の中にそれに似
たことが出ていました。情報を遮断することで、右脳が働か
ざるをえなくなるというのです。感性がとぎすまされ、より
大局的な考えができるようになるようなのです。
新聞を読んでいると、世の中の細部はよく見えるようになる
のですが、逆に、世の中の大きな流れとか、物事の本質のよ
うなものは見えなくなってしまうという気がしていました。
新聞広告媒体を仕事で扱う私がこのような発言をするのは、
ちょっとおかしなことなのですが、個人的には新聞は嫌いで
す。とくに常識的で画一的な見方しかしないという点が一番
嫌いです。すべての事象を新聞社の常識的な視点で眺めると
いうことが耐えられない気がしていました。
なんて考え方をもっていたのですが、この本が間接的にその
考えをサポートしてくれているような気がしてうれしくなり
ました。私が自分に引きつけて読みすぎているのかもしれま
せん。でもなんか、これからの「新しいこと」を考えだす人
の時代というのは、何だか自分のような人間がやっと力を発
揮できるような気がして嬉しくなります。下積み50年、これ
から自分の蓄積してきたものを世の中に活用できるようにな
れば幸いです。
新年早々、いい本に出会えたことに感謝いたします。