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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

ジョン・ヒルコート「欲望のバージニア」(★★★)

2013-07-22 12:35:24 | 映画
監督 ジョン・ヒルコート 出演 シャイア・ラブーフ、トム・ハーディ、ガイ・ピアース、ゲイリー・オールドマン



 アメリカの禁酒法時代の映画。酒を密造する3兄弟と、それを取り締まる保安官(?)。古い時代の映画なので、映像が全体的にセピア色--って、変だよねえ。フィルムが変質して、映像が自然にセピア色になるということはあるかもしれないけれど、いま撮った映画なのにセピア色。
 まあ、これは、そういう変を承知でとった映画。ディカプリオの出た「華麗なるギャツビー」と比較するとわかる。「ギャツビー」はわざわざ3Dという「最新技術」をつかって「過去」を撮っている。「過去」を「いま」ふうに処理している。それが、いわゆる「商業主義」。でも、「バージニア」は「いま」をまじえない。「いま」ではないことを強調する。
 それが端的に出ているのが(具現化しているのが)、ガイ・ピアースの保安官。ポマードをべったりつけて、髪を真ん中で分け、ただ分けるだけではなく、分け目を強調するために剃り込みまで入れている。(たぶん)。見ただけで、ぎょっとする。これで、この映画は「きまり」。はやくガイ・ピアースが出てこないかなあ、と映画を見ながら待ち焦がれてしまう。ゲイじゃないかと、みんなから毛嫌いされる気持ち悪い役どころなのだが、その気持ち悪さがいいなあ。「あいつは気持ち悪い」なんて、日常では言えないからね。映画の「役者」に対してなら言えるからね。ときには人間には、「あいつは気持ち悪い」と平気で言えることが必要なんだろうなあ。差別とか、侮蔑とか--そういうことはいけないことなのだけれど、そういう気持ちを完全に消すことはむずかしい。だから、ときどき言ってみたくなる。そういう言ってはいけないことを言う「絶好のチャンス」だね。
 これだけ気持ち悪がられているのだから、足に障害のある少年をいたぶるところなんか、そこで男色行為でもしてみせれば、気持ち悪さに拍車がかかるのだけれど、そうしない。これが、この映画のセピア色のつつしみ。そこまでやってしまうと、「現代映画」。そして、悪趣味保安官の映画になってしまう。
 映画はあくまで、そういう悪趣味な保安官と闘った3兄弟の「男」の話。兄弟のなかに流れる「不死」の運命を信じて、自分の肉体だけを武器に時代と渡り合った「男」の話。こういう「男の話」は、いまは、もうセピア色の記憶。だから、きっとセピア色にしたのだ。
 男、酒、といえば、もうひとつ女。--この女も、古風だよねえ。セピア色だよね。瀕死の男を病院へ運んでも、それを運んだのは自分だとは自慢しない。強姦されても「何もされなかった」と涙で嘘をつく。感情の抑制の仕方が、いまとは違うねえ。
 「キネマ旬報」のベスト10に入りそうな、古くさい男が「ロマン」を感じたといいそうな映画です。



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