詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

井上瑞貴「悲しい生き物よ、口を開けて雨を受けよ」

2022-03-17 10:33:57 | 詩(雑誌・同人誌)

井上瑞貴「悲しい生き物よ、口を開けて雨を受けよ」(「侃侃」36、2022年02月28日発行)

 井上瑞貴「悲しい生き物よ、口を開けて雨を受けよ」。タイトルを読んだ瞬間、音がきれいだなあ、と思う。音が、まず、ある。それからイメージがあらわれる。最後に、意味、があらわれる。意味、というのは、つまり「付け足し」である。
 それは、本文を読んでも同じ。

願わなかった方へとおれた交差点を結んでぼくたちの地図が成る

 この書き出しは、少し工夫すれば短歌になるだろうと思う。井上には、短歌のような、つまり、どこかしか、伝統的な「音」のうねりがある。
 私は九州のひとのことばのリズムが苦手だが、井上のことばの響きは、美しいと感じる。たぶん、どこかで、私の知っている「短歌」の音と共通するものがあるからだろう。
 この詩では「ぼくたちの」という音が絶妙である。「私たちの」「おれたちの」「われわれの」では、何と言えばいいのか、「叙情性」が違ってきてしまう。
 (意味を無視して言えば、「願わなかった方へ」という書き出しは「叶わなかった方へ」と書き直したい衝動にかられる。私は、引用を確認するまでは、理由はわからないが「叶わなかった」と読んでいた。無意識に読み替えていた。そのために、ちょっと、書いていることの「つじつま」があわなくなっているかもしれない。でも、書き直さない。この括弧内の部分は、「叶わなかった」と誤転写していることに気づいて書き加えたもの。)

悲しみよりも浅く悲しみよりも深い夜空から
約束にない雨が降り注ぐ
月曜日の冷たい雨の最後の一滴が
狭い広場につづく狭い道を流れて落ちている

 「悲しみよりも浅く悲しみよりも深い」の「悲しみよりも」というくりかえし、「狭い広場につづく狭い道」の「狭い」のくりかえし。それは、ことばを長くするというよりも、逆に短く感じさせる。余分な(?)ことばが、ことばを短く感じさせる。
 と、書くとき。
 この「短さ」とは「意味」が省略されるということである。
 そのことばは、もう聞いた。だから、はやく先を話して。
 そういう感じで、くりかえされる「悲しみよりも」や「狭い」を私は聞いている。同じ音が、音としては無駄なのに、意味を省略する。そこに、おもしろさがある。
 同じことばのくりかえしではないが「約束にない」とか「月曜日の」ということばも、意味ではなく、次のことばを誘い出すための「音」にしかすぎないと感じてしまう。

見上げると今から欠けてゆく月が雨上がりに浮かんでいる
地上には愛されるために愛したきみが立ち去る後ろ姿が残されている

 この二行も、それぞれ独立した短歌になるだろう。二行つづければ、連作短歌の一部になるだろう。

長い会話のあとで口に運ぶ紅茶のように冷えた夜が広がっている

 この一行も、そうだな、短歌だな。
 こうした長い行に比べると、ときどきさしはされまる短い行は、まるで「屁」のような感じがしてしまう。どこかで息継ぎをしなければならいのかもしれないが。

 


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