詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

細田傳造「ヴァージャイナ」「西新宿断截」

2023-09-12 20:39:22 | 詩(雑誌・同人誌)

細田傳造「ヴァージャイナ」「西新宿断截」(「雨期」81、2023年08月30日発行)

 細田傳造「ヴァージャイナ」「西新宿断截」。後者にブローディガンが登場する。ブローティガンを読んでいるのかもしれない。はっきり覚えているわけではないが、細田のこんかいのことばはブローティガン共通するものがある。(私は日本語訳で読んだので、こういう書き方は、かなりいい加減なものだが、まあ、詩だから、いい加減なことを書いた方が、間違いを侵さずにすむかもしれない。)
 何が共通しているか。ことばが詩になる前に動き出す。その動きに引っ張られて、あ、この「直接性」が詩なのかと気づく。詩は、ことばと遅れてやってくる。
 「ヴァージャイナ」の一連目。

スカートをつけて
ハイヒールをはいて
エルメスのバッグをさげて
コツコツコツ
路上に靴音をたてて
ヴァージャイナが去っていく
そんな格好してどこへいくんだいヴァージャイナ!
あなたを嫌いになったから
振りむいて
彼女が言う
あたし娼婦になって
自立して生きていくのよ
よせ!他の男には見せるな

 いくつかの行は前後を入れ替えた方が意味がとおりやすくなるだろう。しかし、それは「散文的修正」というものである。私たちは、学校で「修正」の仕方をならう。つまり、正しいことばの順序を。そして、その正しさとは、まあ、だれかがだれかを支配するのに便利な「秩序」なのだろう。でも、いつでも、ことばは「秩序」を気にせずに動く。そして、乱雑な秩序には乱雑なりの、どうすることもできない「勢い」というものがある。その「勢い」が詩を刺戟する。刺戟されて、詩が「勢い」を追いかける。そのリズムが、いまの細田のことばを動かしている。

あーあーあー
Merde alors!勝手にしやがれ
こうなったら
ピレネーを超え
地中海を飛んで
密林に帰り
恋愛の
王になってやる
こんな糞だらけの路上
フランス乞食に呉れてやる

去ね!ヴァージャイナ。

 おもしろくて全行引用してしまった。
 ここでも、ことばはすべてを追い越していく。追い越されたときに、目覚める詩というものがあるのだ。
 最終行の「去ね!」は「いね!」と読む。「行っちまえ」ではないところが、実にいい。「去ね!」なんて、いまはだれも言わない。では、なぜ、そのことばはあらわれたのか。何もかも追い越していくことばに刺戟されて、過去のことばが、いまのことばを追い越したのだ。
 そしてね。
 このとき、時間は、すべて「いま」になるのだ。言い換えると、ことばには「いま」しかないと、ことばが、いや、詩が気づくのだというべきか。

 「西新宿断截」はどうか。全行引用したいが、遠慮しておく。「自死につて」という誤植があることだし。
 後半。

ブローティガンの自裁に
無縁のわたしが
折り合いをつけようとしている
路上生活の
男たちが
車座になって話をしている
聞き耳をたてると
めいめい自伝を語っている
わたしには話すべき来歴がない
この人たちの輪にははいれない
三角形の
住友ビルが無言の硝子戸を開く

 「この人たちの輪にははいれない」まではいい。しかし、ブローティガンなら最後の二行は違っているだろう。これでは、日本の古くさい抒情詩である。そこがいい、というひともいるだろうが、私は、ここはよくない、と書いておきたい。
 この二行のことばは、何も追い越していない。ここにある詩は、目覚めさせられた詩ではなく、余裕を持って、「これが詩です」と自慢している詩だ。
 一連目はとてもおもしろいし、二連目も途中までは楽しい。最後だけが、つまらない。

 

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