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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

伯井誠司『ソネット集 附 訳詩集』

2022-10-30 22:53:58 | 詩集

 

 伯井誠司『ソネット集 附 訳詩集』はタイトルどおりソネットが集められている。4・4・3・3で構成された14行詩。「連」というか、「行」によってリズムをつくる。そのリズムが日本語のリズムに合致するかどうか、これが問題だと思う。
 「雨のころ」という作品の一連目。

しめらに雨のふるころは部屋の明かりを消せるまゝ
窓につきたる雨粒を細きまち針にて留めて、
色とりどりのまち針と雨のしづくのきらめきが
互ひに映り合ふさまを眺めき、壁にゐかゝりて。

 文語体。旧かな。それを支配するのは「音」ではなく、「文字」ということか。いや、「音」もある。七五調である。しかし、それはほんとうにリズムなのか。リズムには違いないが、なにか「人工的」な感じしかしない。「声」がリズムになって響くというよりも、文字が支配する何か。「音」よりも、人工的、という感じの方が先につたわってきてしまう。
  私は、そこに、非常に戸惑いを覚える。私の肉体のどこを探しても、その「音」を受け止めるための何かがない。さらに言えば、それを「声」にするのが、とても難しい。喉や舌をどう制御すればいいのかわからない。
  意味的には「細きまち針にて/留めて」だが「音」は「細きまち針/にて留めて」と句割れになってしまう。句割れは万葉集の時代からあるにはあるが、「人工的」な感じはない。貫いている「音」が強いからだろう。
 伯井の書く音はとても繊細だ。それは聞く音ではなく、「目で読む音」なのかもしれない。
 「細きまち針」が「色とりどりのまち針」に、「窓につきたる雨粒」が「雨のしづく」かわりながら「きらめき」「映り合ふ」と変化しながら、視覚を刺戟してくる。「眺める」という動詞がうるさいくらいに、目を意識させられる。
 これは、二連目で「うすく霞め」る色、「あはくガラスにゝじむ影」を経て、こう展開していく。

そのとき雨はあじさゐも、鉄の柵も、長いすも、
あらゆる部屋や病室も、牢屋も、橋もすべて青--
夢のやうなる夕方のかそけき青に染めにけり。

この世に赤や黄の残るところは、されば、ひとつきり--
壁にもたれて座りたるわれのひたひを照らしつゝ
色とりどりのまち針の影に染むその窓にざりける。

 まるく円を閉じるように「色とりどりのまち針」に戻ってきて、念押しのように「影」と「窓」で終わる。その窓は、窓ではあっても、外が見えるわけではない。「視覚」は内に、細部にとどまることによって、空想の「視覚」、空想の「網膜」になってしまう。
 目の悪い私には、なんとも苦しい。
 「音」が読みたい、「音」が聞きたい、という気持ちになる。目で音を聞くのはつらいなあ。
 「映画の帰り」

男はいつも恋人に優しけれども夜更けには
人を殺してまはりたり。女はかれを疑はず
愛したれども、警察ぞ男が罪を見出だせば
しつこくかれを追ひつめて屋根の上にて撃ち殺す。

さる筋書きの映画をば退屈気味に見しわれは
客の少なき劇場を出でたり。外は肌寒く、
すでに黄昏どきなりき。寂しき路地を抜けたれば、
通りにかゝりたる歩道橋をぞ昇りつる。

 ああ、まるで「無声映画」だ。それなのにスピード感がない。無声映画は、「声(肉体の動き)」を超えるスピード感が魅力なのに。「音」や「音楽」は、どこへ消えたのか、と私は疑問に思う。
 訳詩は、こんな具合だ。杜甫「春を望みて」。

かくこそ国はやぶれたれ、山と河とは残りたり。
城下の町は春めきて草木も深く茂れども、
世のありさまを思ふほど花に涙ぞこぼれおち、
辛き別れを恨みたる心は鳥に驚くよ。

 「意味」が「絵画化」されるのを感じる。「音」が時間を破って遠くへ行く感じがしない。やっぱり「国破れて山河あり」の方がいいなあ。技巧的になると、「音」が間延びする。
 ソネット集で覚えた違和感は、それが音楽的ではなく、絵画的だったことが原因だったかもしれない。
 私は、ふと思い立って、万葉集を読んでいるのだが、万葉には太い声の奥に、言い切れない世界の豊かさがあるが、伯井のことばは「絵画的」に豊かだが、装飾的で、表面的な感じがする。
 いま、生活でつかっている「生きている声」を、私は聞きたい。

 

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三木清「人生論ノート」から「嫉妬について」

2022-10-30 21:02:32 | 考える日記

読解はの方法を変えてみた。
(1)全文を読み通す。読めないことばは「なになに」と読んで、そのままつづける。わからないことばも、そのまま読み続ける。
(2)全文を読み終わったとあとで、わかったこと、考えたことを要約する。
(3)最初から、一段落ずつ読み直し、読めないことば、意味わからないことばの質疑・応答。
このとき、愛に関係することば、嫉妬に関係することば、愛と嫉妬の両方に関係することばを抜き書きしながら整理する。
(4)もう一度、(2)でやったように、考えたことをまとめる。

このあと、愛の反対のことば、「憎しみ」があるが、「憎しみ」と「嫉妬」はどう違うかを考えた。

*

読めない漢字や熟語がかなりあったのだが、最後まで読み、要約もできた。
「狡猾」は日本の高校生でも読めない人がいると思う。「術策」「詐術」も説明できる生徒は多いとは言えないだろう。
途中「特殊」を読めなくて、「特別」と読んだ。
あとで「特殊」と「特別」は似ている。全体の文脈のなかでは「特別」と読み替えても論理的には同じだと説明した。

5ページ強のテキストだが、作文の指導を含めて90分で済んでしまった。時間が余った。18歳のイタリア人。驚嘆の理解力。

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斎藤茂吉『万葉秀歌』(9)

2022-10-30 17:03:55 | 斎藤茂吉・万葉秀歌

斎藤茂吉『万葉秀歌』(9)(岩波書店、1980年、06月25日、第58刷発行)

引馬野ににほふ榛原いり乱り衣にほはせ旅のしるしに            長奥麿

 「榛原」は「萩原」(萩が咲き誇っている原)と茂吉は書いている。一方で「榛の木原」という説も紹介している。
 私はこの歌を読んだとき、私の故郷の小学生が作った自由律の俳句を思い出した。正確ではないが「山から帰った父 服が木の匂いする」というものである。同級生の父の、谷内茂という教師が俳句教育に熱心で、小学生に教えていた。何かの機会に、その句集のようなものを読んだのだが、忘れられない。山には山の、つまり木には木のにおいがある。それは服にしみつく。万葉の作者は、自分でにおいをしみこませているのだが、小学生の父はそういうことをしているわけではない。子どもが山のにおいに気がついた。そこには、なんともいえない、父親への愛情のようなものがある。父のことをいつも見ている視線がある。目だけではなく、全身で父をつかみとっている。それに感心した。
 万葉の歌は「にほふ」「にほはせ」と繰り返している。万葉には、こういう繰り返しが多いが、それが自然でとてもいいなあ、と感じる。「は行」の音の、不思議な透明感がにおいを明るくしている。

あられうつ安良礼松原住吉の弟日娘と見れど飽きかぬかも          長皇子

 「あられ」「安良礼」の繰り返しが、とてもおもしろい。「あられうつ」は造語と茂吉は書いている。日本語は、繰り返しが好きなのだと思う。音を繰り返すと「響き」が肉体に残る。「弟日娘(をとひをとめ)」も音が響きあう。

大和には鳴きてか来らむ呼子鳥象の中山呼びぞ越ゆなる          高市黒人

 「鳴きてか来らむ」と「中山」に、「鳴く/鳴かない」の交錯を感じるのは私だろうか。「鳴かない」という錯覚を起こす音があるからこそ「鳴く(鳴きてか来らむ)」の鳴くという動詞が非常に印象に残る。「呼子鳥」と「呼びぞ越ゆ」にも、不思議な呼応がある。万葉の人は、「耳(音)」でことばを動かしていたんだなあ、としきりに思う。

 

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