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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

斎藤茂吉『万葉秀歌』(5)

2022-10-26 14:57:35 | 斎藤茂吉・万葉秀歌

斎藤茂吉『万葉秀歌』(5)(岩波書店、1980年、06月25日、第58刷発行)

あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る            額田王

 「見ずや」と反語の問いがあって、そのあとで「君が袖振る」と終わる。この感じがとても自然に感じるのは「野」の音が三回繰り返されて、(「行き」も二回繰り返されて)、スピードにのって、先に問いを言ってしまったという印象があるからだろうか。ことばが先走りする。ここに「激情」がある。「激情」なのだけれど、その象徴的行為の「君が袖振る」でおさえると、それが「激情」の爆発のなかから飛び出した「結晶」のように見えて、わーっ、かっこいい、と叫んでしまう。「君が袖振る」姿が目に飛び込んでくる。まるで、「私の恋人を、見て見て」と額田王が自慢しているようにも見える。「見ずや」と書いてるが、心配などしていないことがわかる。
 茂吉は、このことばの運動を「立体的波動的」と書いている。

紫草のにほへる妹を憎くあらば人嬬ゆゑにあれ恋ひめやも         天武天皇

 この相聞歌は、かっこいいなあ。「紫野」「紫草」の呼応にはじまり、「見ずや」の反問に「恋ひめやも」と、これも反問的に答えている。じっくりというか、どっしりと構えて、恋に答えている。
 「人嬬ゆゑに」もいいなあ。人妻だからこそ。他人の意見など気にしていない。自分の気持ちを言うだけ。純粋だ。村上春樹の『1Q84』には、「十歳年上の人妻とのセックスは、どこにも行きようがないぶん気楽であり、その内容は充実していた」という文章があるが、その「人妻」とのセックスとは、なんという違いだろう。「気楽」はことばとは裏腹に、人の目を意識している。自分の責任を放棄している。
 この違いは、単に「時代の違い」ではないように思う。茂吉は、天武天皇の歌を「心の集中と純粋」と書いた上で「万葉集中の傑作の一つ」と言っている。


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