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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

嵯峨信之『土地の名-人間の名』(1986)(59)

2019-07-17 09:41:47 | 嵯峨信之/動詞
同行者

* (ある空白について)

鯉とも亀ともつかぬものが心のなかで重く動いていることがある
そのあとにおこる空白の遠さよ--

 「鯉」も「亀」も水中を泳ぐ。「心のなか」は、このとき「水中」だ。そして、鯉の動きも亀の動きも重い。嵯峨のこころは、重いもので満たされている。
 「空白」を「おこる」(起こる)という動詞でとらえているのがおもしろい。「そのあと」の「あと」を手がかりにすると、「空白」は最初から存在するのものではなく、何かが動いたあとで、「おこる」。
 「空白」だから何も書かれていない。何でも書ける。そういう「空白」を「同行者」とするのか。あるいは「空白」を埋めることばを「同行者」とするのか。
 いずれにしろ「同行者」との距離は「遠い」。









*

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嵯峨信之『土地の名-人間の名』(1986)(58)

2019-07-16 10:41:20 | 嵯峨信之/動詞
* (秋になると)

海を渡つていつたということだが帰つてこなかつた

 この最終行だけを引用すると「誤解」を与えることになると思う。「秋」が「海を渡つていつた」と。全行を読むと「彼」が海を渡っていった。それきり帰って来ないので、彼に会っていないとわかるのだが。
 しかし、私はあえて「誤読」する。
 人との出会い、離別には、時と場所がある。決定的な別れの場合、その人がいなくなるというだけではなく、いっしょに過ごした「時間」そのものが失われた感じがする。
 もちろん季節はめぐってくるが、めぐってくるからこそ、「あの秋」はもう戻ってこないと強く感じる。








*

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嵯峨信之『土地の名-人間の名』(1986)(57)

2019-07-15 21:52:11 | 嵯峨信之/動詞
* (死は通過する)

そのとき子供が鋭い叫びごえをあげた
無垢な呪いのきびしさにひとびとは竦然とする

 「死は通過する」。そのことに大人は気づいたか。あるいは逆に、そのことを知っていたか。知っていて、その瞬間を待っていたと読みたい。
 子供には、その認識はない。認識するのではなく、子供は「直感」する。何かしらないことが起きる、と。そして「叫びごえをあげる」。泣きだすのかもしれない。
 これを嵯峨は死への「呪い」と受け止め、「きびしさ」と受け止める。怒り、抗議を通り越して、「呪い」にまで達してしまった「感情」。
 「呪い」は「呪う」と動詞にして読むと、もっと生々しくなる。子供は(赤ん坊は、と読みたい)、死を呪う。それが、やがて自分にもやってくることを「認識」ではなく、直接的な「事実」としてつかみ取っていることになる。





*

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嵯峨信之『土地の名-人間の名』(1986)(56)

2019-07-14 08:46:06 | 嵯峨信之/動詞
* (誰の言葉もそこへ届かない)

死はどこからでも入ることができるが入口を知るものはない

 私は「アフォリズム」になじめない。アフォリズムにならないものが詩だと思っている。
 この一行は、

死の入口を知るものはないが、誰でも死ぬことはできる(死の世界へ入ることはできる)

 と言いなおすことができるだろう。
 しかし「誰でも死ぬことはできる」は「現実」とは違う。「現実」は「誰でも死ぬ」である。「できる」「できない」の問題ではない。さらに言うと「死ぬことができない」というひとはいない。
 嵯峨の書いた「できる」と「知る」の関係は、アフォリズムのなかでのみ成立することばの運動である。
 ことばのなかでのみ成立する「世界」という点で、アフォリズムと詩は共通するものを持っているのかもしれないが、私はなじめない。





*

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嵯峨信之『土地の名-人間の名』(1986)(55)

2019-07-13 08:02:42 | 嵯峨信之/動詞
* (この夕暮れにぼくは記憶を失つた)

われにかえると
薄暗くなつたところから灯のはいつた二階家が現われる

 この詩には、ここだけ「過去形」ではなく「現在形」があらわれる。「出来事」(起きたこと)と認識しているのではなく、いま「起きている」と認識している。
 さらに一歩進んで、嵯峨はいま「生きている」。一軒の家として生きている。その家と一体化しているとわたしは「誤読」する。家を見ているのではなく、家になっている。
 「薄暗くなつたところから」「灯のはいつた二階家が現われる」ではなく「薄暗くなつたところから灯のはいつた」「二階家が現われる」と私は読む。嵯峨の「肉体」のなかの「薄暗くなったところに灯がともる」、そして嵯峨自身が「二階家」になる。二階家に生まれ変わる。--その瞬間の「心象」がことばになって動いている。
 そんなふうにして嵯峨は「心象」の「家」へと帰る。




*

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嵯峨信之『土地の名-人間の名』(1986)(54)

2019-07-12 09:25:45 | 嵯峨信之/動詞
* (子供が聞いた)

--ゼロと一との間には
数がいくつあるか

 不思議な「祝祭」がある。
 この質問にであったとき、ひとは子供に帰る。こういう質問がありうることを、ひとははじめて知る。そして思い出すのだ。もしかすると「私は、この子供だったかもしれない」と。
 まるで「子供」と「私」の間には、「私」がいくつあるのか、と考えるように。

 「間」はひとつ。しかし「間」にある何かは、いくつかわからない。「ある」という動詞の不思議な「祝祭」。




*

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嵯峨信之『土地の名-人間の名』(1986)(53)

2019-07-11 09:38:00 | 嵯峨信之/動詞
* (彼は)

鳥のように 洋傘のように 枝にぶらさがつて死んだ

 「鳥のように」「洋傘のように」と比喩が繰り返される。しかし「鳥」と「洋傘」は似ているだろうか。
 翼を閉じて、傘を閉じて。あるいは、翼を開いて、傘を開いて。
 その「形」もわからない。
 たぶん、「わからない」ということが重要なのだ。判断できない、ということが。
 自殺の理由は、誰にもわからない。
 この詩のなかには、次の行もある。

小さな鉦叩きがその下を横切つた

 なぜ? 理由はいらない。それが「自然」だ。--と書くとき、私は三木清を思い出している。嵯峨が三木清を読んでいたかどうかはわからないが。
 「手記」のなかに、こんな一行がある。

人間と自然との対立のうち最も重大なものは「死」である。

 いまは、それを結びつけて「結論」を書きたいとは思わない。ただ、そういう行があったということを思い出したと書いておく。




*

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嵯峨信之『土地の名-人間の名』(1986)(52)

2019-07-10 10:11:45 | 嵯峨信之/動詞
* (狂気にはきまつて方向がない)

狂気にはきまつて方向がない
小さな庭をよこぎる蝮でも何かに向つている

 私はこの詩を「空気は……」と読み違えていた。「空気には方向がない」、けれど「蝮は自分で方向を決めて動いている」。「方向がない」はすべての方向に開かれているということ。だからどんな生き物でも「方向」を作り出す(生み出す)ことができる、と。
 ということを書こうとして、引用し始めて、あっ「狂気」だと気づいた。

 うーん。

 「狂気」に「方向」はないのだろうか。むしろ「絶対的な方向」にとらわれ、その「方向」以外を選ぶことができない状態が「狂気」ではないのか。
 私の考えでは、「方向」をもたない「空気」が「正気」になる。
 「向かう」というのは、「いま/ここ」から違うところへ行くということだろう。「向かう」というのは「狂っていてもかまわないから、それを選ぶ」という覚悟のことである。「正気」を捨てるということである。

 嵯峨の書こうとしているのは、私の感想とは別のことだと思うが、私は私が「いま」思っていることを書く。ことばを、その方向へ向かわせる。動かしていく。


















*

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嵯峨信之『土地の名-人間の名』(1986)(51)

2019-07-09 09:41:25 | 嵯峨信之/動詞
* (空間のどこかが少し歪んでいる)

 抽象的に始まる詩の最後の二行。

部屋から出てきた片手のない男が
ベコニアの花に水をやつている

 「ベコニアの花」は「空間のどこかが少し歪んでいる」ことを知っているか。知らないだろう。知らないことがあるが、それでもベコニアの花は完全である。そして、その完全さは「水をやる」男によって、いっそう完全なものになる。
 この完全は「非情」かもしれない。「情け」を考慮しないという意味である。
 私たちの「情」は、こんな具合に、ときどききれいさっぱり洗い流される方がいい。絶対的な「美」に出合うために。

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嵯峨信之『土地の名-人間の名』(1986)(50)

2019-07-08 09:01:03 | 嵯峨信之/動詞
* (余白の村にある未完の寺)

丘の上は一日中青空がひろがつていた
その他物音ひとつしない

 青空があるだけ。物音がしない。時間が止まったような世界。
 でも「その他」というのは何?
 「物音ひとつしない」というのは、静寂、あるいは沈黙。嵯峨は、その絶対的な沈黙を「音」として聞いており、それ以外の音は聞こえないと言うのだ。
 この沈黙は「余白」か、あるいは「未完」か。どちらでもない。完成した絶対的な充実である。

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嵯峨信之『土地の名-人間の名』(1986)(49)

2019-07-07 09:44:44 | 嵯峨信之/動詞
* (水の冠をかぶろう)

水の冠をかぶろう
光りにはたどりつけなくても水の国へはたどりつけるだろう

 「水の冠」はもちろん比喩である。しかし何の比喩だろうか。
 「水」の対極にあるものは「火」。「火」は「太陽」であり、「太陽」は「光」だ。二行目の「光り」を太陽と読むと、太陽の対極に「水」があるということになる。「光りの冠」がどこかで思い描かれていて、それとは対極にある「水の冠」を嵯峨は選びとろうとしている。
 太陽と天にあり、水は地にある。地よりも低いところにある。
 そして、もし「水」と「光り」に共通項があるとすれば、それは「透明」。
 天にある透明な光ではなく、地よりも低いところ、深いところにある水の透明さを選ぶ、と嵯峨は書いているのだと思う。













*

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嵯峨信之『土地の名-人間の名』(1986)(48)

2019-07-06 15:49:01 | 嵯峨信之/動詞
* (未完のぼくを慰めよ)

未完のぼくを慰めよ
きみたちは集まつて広い余白になつてくれ

 「ぼく」は嵯峨であると仮定できる。だが「きみたち」は誰か。「きみたち」も嵯峨であろう。
 「未完のぼく」とは「未完のことば」、まだ「ことば」になりきれていない「ぼくのことば」と読む。「きみたち」は「未完のことば以前のぼくのことば」。「ことば」になるための運動がはじまっていない無意識の「領域」。しかし、いったん「未完のことば」が「完成」を目指して動くとき、それをささえることばがつぎつぎにうれまてくる領域。
 「未完のことば」は「余白」というよりも「空白」を必要としている。「未完のことば」がどこまでも自由に広がっていける「空間」が必要だ。「未完のことば」が自由に動き「ことば」として生まれるためには、何も書かれていない「空白/余白」が必要だ。













*

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嵯峨信之『土地の名-人間の名』(1986)(47)

2019-07-05 09:05:17 | 嵯峨信之/動詞
* (遠い島)

ぼくの持つたこの一日を
どのような文字で記そう

 ある一日。この一日。それを「持つ」という動詞でつかみ取っている。その上で「記す」という動詞が動く。
 「持つ」は自分のものにする。所有する。それをどう「記す」かは嵯峨の自由である。
 だが「一日」は抽象的だ。「文字」も抽象的だ。
 抽象は象徴と言い換えてもいいのかもしれないが、何か「遠い島」の「遠さ」そのものを見ている気持ちになる。












*

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嵯峨信之『土地の名-人間の名』(1986)(46)

2019-07-04 10:35:49 | 嵯峨信之/動詞
* (美よ)

ひとつの中間に漂うしずけさこそ
おまえが裸身をかがやかせるところではないか

 前後を省略した二行では「意味」がわからないかもしれない。しかし前後を引用してもわかりにくいだろう。「誤読」の要素が増えるだけかもしれない。
 詩はもともとわからないことを自分勝手に解釈する瞬間、「誤読」する瞬間に生まれる。だれが、いつ読んでも同じ「答え(正解)」になってしまっては読む意味もない。
 「しずけさこそ」「かがやかせるところ」。このつながりがわかりにくいのは「しずけさ」は「ところ」(場所)なのか、という疑問とつながる。「中間」ということばがあるから「場所(ところ)」という意識がうまれるのか。
 「かがやかせる」ところではなく、「かがやかせた」ところと読むと、「ところ」は「場所」のときもあるが「時間」のときもある。……し終わった「ところ」という言い方がある。
 「時空」も「時制」もいりまじっている。ゆらいでいる。嵯峨の意識のなかでは明確かもしれないが。
 何もはっきりしないのだが、その「あいまい」のなかで、「しずけさ」と「かがやく」が重なり、それが「美」になる、と瞬間的に思う。「しずけさ」の「かがやき」が「美」なのではないのか、と。











*

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嵯峨信之『土地の名-人間の名』(1986)(45)

2019-07-03 08:50:36 | 嵯峨信之/動詞
* (ぼくは何も批評したことがない)

美はついになにも語らない
ただ自分をかくすだけだ

 美が何かを語るとすれば、それは「批評」になるということか。「批評」というかたちで自己表現するのではなく、「批評」しないことによって自己表現をする。そのことを「かくす」と呼んでいる。
 隠してもあらわれるものが美ということになる。

 批評しない。では、美とはどう向き合えばいいのか。
 嵯峨は、ただ、いっしょにそこに存在する、といいたいのだろう。美がある。その存在の場所に自分の身を置く。そして、美の前で自分自身を消す(かくす)。












*

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