@「夢見る定年退職」は儚く消える。そんな猛烈社員の定年後の小説である。定年になるまでは、あれこれ考えながら、夢を抱く。 だがいざ定年を迎えるとここにもある「朝起きてもやることがないこと」である。プライドが邪魔して人との交流、活動などが引っ込み思案になることである。妻との関係も口喧嘩も増え「無用の長物化」となり、行き場を失う。 定年後の生活で思うことは、外出を増やし、たまには距離を置き、生活環境を理解し会うことが大切だと感じる。定年退職後の夫婦生活は「共同生活者」になることだ。
『孤舟』渡辺淳一
大手広告代理店の上席常務執行役員まで務めた大谷威一郎。関連会社の社長ポストを蹴って定年退職した。バラ色の第二の人生を思い描いていたが、待ち受けていたのは夫婦関係と親子関係の危機。そして大きな孤独だった。犬のコタロウが側にいるだけのさみしい日々がつづく。人生最大の転機を迎え、威一郎の孤軍奮闘が始まる。定年退職後、いかに生きるかという一大社会問題に肉迫した異色の傑作長編。
- 会社勤めを辞めてみると現実は想像したのとは全く違っていた。それは朝起きてもやることがないこと。定年後のやる事、体をゆっくり休めてやりたい。 半年か1年かけて、十分、休養したところでこれまで読めなかった本などを読み、映画や演劇も見たいと。それにフランス語のやり直し、囲碁、ゴルフもやりのんびり自由にやってみたいと想像していたが。
- 定年退職をしたきっかけは、これまでの自分の実績からプライドがあり、左遷はないと信じていたが派閥に巻き込まれ大阪への赴任命令を受けた。だが拒否し、定年を選んだ。再就職を選んでみたがこれもプライドがあり自分の思う求人先が見つからず断念する。
- 妻との喧嘩。些細な事で口喧嘩を繰り返すことになり、夫は仕事を持っていた時と変わらず家庭のことは一切何もしない生活を繰り返す。しばらくすると、犬の散歩、さらに妻に言われた後お風呂の掃除くらいを手伝うことになった。だが、それでも1日3度の食事の用意など妻からは無用の長物、邪魔者扱いとなり、妻も自宅ではなく外での活動も増え外出をするようになる。
- 二人の子供たちも就職、独立。妻は喧嘩が元で娘のマンションで一時を暮らすことで夫と距離を置くことにする。夫は暇を持て余しデートクラブで若い女性との会食などを楽しむようになる。 だがぎっくり腰で動きが取れなくなるとその夫婦の良さを感じ始める。