利用者は他人の世話を焼くのが大好きです。昨日のことです。昨日の利用者終礼のときの『さようなら』の号令は、女子の当番の○○さんがかける番でした。
ところが○○さんは利用者40数人が担当職員別に並んでいる列の前に立ったまではよかったのですが、そのままじっと固まってしまったのです。
私が何度か『気をつけ、礼』の号令をかけるように促しても、視線が動くだけで思いは言葉になりません。
すると、見かねた□□さんがすっと出てきて、「○○さん、頑張って!!『気をつけ、礼!!』って言うて」と、耳元で盛んに○○さんを励まし始めました。
しかし、○○さんはなかなか思いが声にならずにもどかしそうです。そこで私が、
「じゃあ、男子の当番さんにやってもらおうか」と言うと、
「いけん!! ○○さんがやるの!!」と、私の言葉を遮るように□□さんが主張します。
「おー、そうかね。それはごめん、ごめん」と私。
それからまたしばらく□□さんが励ましたり促したりますが、○○さんの口から号令が出る気配がありません。ならばと私が、
「□□さん、すまんが代わりにあなたが言うてちょうだいよ」と、□□さんに声をかけてみました。
するとどうでしょう。そう言われた□□さんはびっくりです。思わぬ展開にドギマギしています。それまでしきりに○○さんに優しく励ましやら催促やらの声をかけていたのが、今度は自分が緊張してしまい、突然、静かになってしまいました。待っている利用者の中から、「そうそう。□□さんが代わりに言いんさい」と声もかかったりして、□□さんはいっそう恥ずかしそうにモジモジ、モジモジ。今度は□□さんが固まりそうです。
が、しばらくしてやっと意を決したのか、□□さん、まっすぐ前を向いて、ひとこと、
「さようなら!!」と言って、頭をペコっと下げてお辞儀をしました。
待ってましたとばかりにみんなもそれに合わせて「さようなら!!」と言いながら、ホッとした表情で送迎車に向かいます。「○○さん、代わりに□□さんが言うてくれたよ。よかったね。今度は頑張ってね」と、固まったままの○○さんに声をかけていく利用者もいます。
利用者の中には、自分のことはさて置いても他人のお世話を焼くのが大好きな人がたくさんいます。他人を思いやる心にあふれているのです。しかも、それはこちらが感心するくらい素直に行動に出てきます。
でも、昨日の□□さんはびっくりしたことでしょう。本人にしてみれば思わぬ展開でしたが、よく頑張ってくれました。□□さんが満足した表情で、何が入っているのか、いつものたくさんの袋を提げて帰りの送迎車に乗り込んだのは言うまでもありません。