お手紙

2009年06月26日 | 日記・エッセイ・コラム

 少々疲れて山口市内への出張から帰ると、机の上にクリーニング店のチラシを折って作った袋が置いてあります。葉書大のその袋は上下や重なり部分がきこちなくテープで貼ってあります。よく見ると、チラシの印刷文字の上に○○さんの名前とわかる字が黒のボールペンで上書きされていました。

 何日か前、ちょっときつい顔をして園長室にやってきた○○さんにその事情を聴きながら、

 「そんなに怒った顔をしちゃあいけんよ。もっとやさしい、笑顔の○○さんにならんにゃー」と言って、「今度、また園長にお手紙書いてよ」とお願いしていたのです。

 破かぬように中を開けてみると、期待通り、四角に折られた○○さんからの手紙が入っていました。

 

 『ぬぬぬなぬ  ねもぬおぬとたぬ  もみなもみとしもみラよぬ』

 『もみぬもみぬかりなぬも』

 『もみねみもみ  みぬみもみぬ  もみねぬ  もみぬもみ』

 キティちゃんの絵柄のメモ用紙にそう読める文字がしっかりと書いてありました。

 お願いを聞いてくれて、一生懸命に手紙を書いてくれた○○さん。どんな気持ちで書いたのでしょうか。

 こんな時、園長さんはちょっと疲れを忘れるのです。

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慰問

2009年06月23日 | 日記・エッセイ・コラム

 終業時刻前の職員終礼では、今日の報告と明日の予定を確認します。 

  

 昨日のことです。

 司会「利用者の明日の欠席をお願いします」

 職員「○○さんは明日、家庭の都合で欠席です」

 ………

 終礼後、職員が園長室に顔を出しました。何事かと思ってたずねると、今日、○○さんのお母さんから電話があって、○○さんは明日はお母さんとある施設の慰問に行くために欠席しますと言われた、と言うのです。

 そう言われて私は思わず、「えっ、慰問?」とちょっと大きな声で聞き直してしまいました。

 よく聞いてみると、○○さんはお母さんと二人で地域のカラオケサークルに入っていて、明日はそのサークルの人たちが隣町にある福祉施設の慰問に行くのに一緒に参加する、ということでした。

 ○○さんは今日そのことを「あした行ってきます、あした行ってきます」と、うれしそうに何度も職員に言いに来たそうです。

 たぶんカラオケ好きのお母さんの影響でカラオケが好きになった○○さん。毎年の園旅行の時の夜の宴会で、東海林太郎のように(古いね!前川清のように?これも古いか!)直立不動でカラオケを歌う姿が頭に浮かびます。

 考えてもみて下さい。さつき園の利用者は慰問されることはあっても、自分が慰問に行くことはなかなかないことなのです。

「えー、そりゃーいいねー。すごいねー!!」「そうですよねー!!」

 知らせてくれた職員と感動することしきりでした。

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桜桃忌

2009年06月19日 | インポート

 今日は桜桃忌

 『走れメロス』

 果たして 友を待たせた男は勇者だろうか

 友をひたすら待った男こそ 勇者ではないだろうか

 『人間失格』

 主人公は 果たして人間失格なのか

 否 人間とはそういうものではないのか

 そういう関係性から逃れられないのが 人間ではないのか

 だから そういう人間として生まれたからには

 たとえ どのような障害がその身にあろうとも

 その子は母を信じ その母を頼りにしているのだ

 どうか 母よ

 母と子の関係性から逃げないでほしい

 桜桃忌の今日 そんなことを思ったことでした。

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間違っていると思う理由について

2009年06月15日 | 日記・エッセイ・コラム

 何故私が、知的障害者福祉施設関係者はその方向性を間違っていると思うのか。

 毎年の「全国知的障害関係施設長会議」(主催は財団法人日本知的障害者福祉協会)に厚生労働大臣とともに来賓として招かれていた全日本手をつなぐ育成会会長。ところが、先月末に横浜・桜木町で開催された今年度のその会議の来賓席に育成会会長の席はなかったのです。後援団体からもその名前は消えていました。

以前から、財団法人日本知的障害者福祉協会(知的障害者施設・事業所の全国的な組織でさつき園も加入している)と社会福祉法人全日本手をつなぐ育成会(全国的な知的障害者の親の組織)との間に少なからず軋轢があることも、またそれに至るいきさつも知らないわけではありません。けれど、来賓から外し、後援団体からも消してしまうとは……。

 福祉のサービスを提供するという立場の施設が親と反目していて、果たして施設の大義は立つのか!!「施設は障害者を世話してやってるんだ。それで親も助かっているんだから文句を言うな」と思い上がっているのではないのか。もしもそうだとすれば、私たちが理解と協力を求めるべき世間は「お前ら、いい歳して何やってんの?」と言って私たちを見限り、はるかかなたに遠ざかって行ってしまうことでしょう。

 施設に働く私たちに謙虚さと誠実さが求められ、人間の命に思い至る深い思想性が問われています。

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例えば、道路の補修工事

2009年06月09日 | 日記・エッセイ・コラム

 道路が傷んでいます。車や人の通行に支障が出ています。補修工事が必要かと思われます。それはA市の道路ですので、A市の担当課に補修工事の要請に行こうと思います。

さて、その時、土木工事専門の業者が「道路が傷んでいて地域の人が困っています。道路の補修工事が必要です」と訴えるのと、その道路を利用している地域の人たちが「生活に困るから、道路の補修工事をしてほしい」と訴えるのと、はたしてどちらの要請でA市の担当者は動くでしょうか。

ここでの「道路」は制度や法律。「地域の人たち」は利用者、あるいはその家族や保護者。そして「土木工事専門業者」は施設関係者です。

私たち施設関係者は利用者や家族を支え、そしてそこで一緒になって福祉を進めていってこそ、初めてその存在意義が認められるのです。いや、そこにしか存在意義はないかもしれません。工事業者が自分たちだけで道路の補修工事の必要性をどんなに訴えても、相手の胸には響かないのです。補修工事の必要性は利用する地域住民が訴えてこそ、相手を動かし、みんなの共感や賛同を得るのです。

私は、いま、知的障害者福祉施設関係者のあり方はその方向性において間違っていると思います。

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「ありがとう」

2009年06月04日 | インポート

 あなたは、いつ、「ありがとう」と言いますか。

 あなたは、どんなとき、「ありがとう」と言いますか。

 あなたは、誰に向かって「ありがとう」と言いますか。

 あなたは素直に、心から「ありがとう」と言ったことがありますか。

 あなたは知的障害者に向かって、「ありがとう」と言ったことがありますか。

 知的障害者と呼ばれている彼や彼女は、あなたの「ありがとう」を待っています。

 人間は持ちつ持たれつ、お互いさまなのです。

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散髪

2009年06月01日 | インポート

 休み明けは利用者がみんな元気に通所してくるかどうかが、とても気になります。

 そんなことを気にかけながら出勤した今日のことです。

 いつものように送迎車から降りて、園長室へ朝のあいさつをしに来てくれた○○さん。私の顔を見るなり、思わずニヤリとします。と、私もそんな○○さんを見るなり思わずニヤリ、いえ、私はニヤリではなく大笑いしてしまいました。何故かというと、何と二人ともこの休み中に散髪に行っていたのです。

 「ありぁ、園長さんも散髪に行ったんですか」「おー、髪が伸びたけぇ、散髪に行ったよ」

 「いつ行ったんですか」「うん?土曜日に行ったんよ」

 「□□(理髪店の名前)に行ったんですか」「おーそうよ。□□に行ったんよ。よー知っとるねぇ」

 「前から知ってますよ」「○○さんはどこで散髪したんかね」

 「柳井の△△でやってもらいました」「いつ行ったんかね」

 「日曜日です」「あ、昨日行ったんじゃね」

 「はい、お父さんと行きました」

 などと会話しているあいだ、髪の毛をいつもより短く切っていた○○さんはずっと自分の頭をうれしそうに撫で回しています。

 「○○さん、髪の毛切ったら、頭が涼しゅうなるし、洗うのも簡単じゃけぇ、えかろう」

 「はい」うれしそうに笑います。

 「園長さん、今日もよろしくお願いします!!」そう言って、○○さんはいつものように私と握手をして作業場へ向かいますが、どことなくいつもよりうれしそうです。「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 さあ、また一週間の始まりだ。みんな、今週も元気で頑張るぞ!!

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