午前中から陽射しの強い日。
お使いに行こうとして玄関のドアを開けたのです。
すると、玄関先にアブラゼミが白っぽいお腹を見せてひっくり返っていました。目にした瞬間、「あー、この毎日の異常な暑さにやられて、蝉もまいったか」と思ったことでした。
動物はあまり得意ではないのです。虫もそうなのです。でも、小さい頃から慣れ親しんだせいか、トンボと蝉は例外的に触れます。
なので、蝉はひっくり返って動かないので、もう死んでいると思い庭のどこかに埋めてやろうと、右手の親指と人差し指で蝉を挟み込むようにして摘まもうとしました。
するとその瞬間、蝉のあの細い足が数本、弱々しく動いて人差し指に絡まってきたのです。
驚いて、「おっ、生きとるじゃー」と独りごちると同時に、蝉は激しく羽ばたき、道路を隔てた斜向かいの家の庭に育つ背の低い木に向かって、まっすぐに飛んで行きました。まるで最後の力を振り絞って、というように。
蝉は向かって行った先の、その木の枝か何かに留まるかして、「ジィー」とひと声鳴きました。
………。
もしも、あのタイミングで玄関のドアを開けなかったら。そして、もしも手に取ろうとしなかったら、あの蝉はどうなっていたのでしょうか。
「遅かれ早かれ……」と思いもしますが、あの時の指に残るわずかな感触が、今でも私にあの蝉を愛おしくさせるのです。
午前中から暑い陽射しの日のことでした。
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