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車を運転中は、車内にいる例えば蝿一匹、あるいは蚊一匹が命取りになりかねません。<o:p></o:p>
18日に起きた長野県でのマイクロバス転落事故は、携帯ラジオが原因だということです。運転手が運転中に床に落ちた携帯ラジオが気になって運転が疎かになり、わき見運転でハンドル操作を誤り、マイクロバスはカーブを曲がり切れずに崖下に転落したとのことでした。<o:p></o:p>
この事故で一人の方が亡くなられました。<o:p></o:p>
何ということか! 携帯ラジオが原因で命を殺(と)られたのではたまりません。<o:p></o:p>
しかし、携帯ラジオに限らず、車を運転中に、例えば個人の生死というようなものとは全く無関係のように存在する一匹の蝿、一匹の蚊といったような小さな存在、あるいはほんの些細な事象に気を取られた結果、ハンドル操作を誤って事故を起こして亡くなった人もあろうし、なおむごいことに、その巻き添えをくらって命を殺られた人も、おそらく多数おられることでしょう。<o:p></o:p>
蝿一匹が原因で命を殺られたのでは、たまったものではありません。<o:p></o:p>
横光利一という作家の小説に『蠅』というのがあります。<o:p></o:p>
その小説には一匹の蠅が登場します。その蠅は今回の長野県でのマイクロバス転落事故の事故原因であるといわれている携帯ラジオのように、小説の中で起こる馬車の転落事故の原因となっているわけではありませんが、転落直前まで乗り合わせた人たちと同じように馬車に揺られていたのです。が、転落の瞬間に飛び上がっていた蠅は、さまざまな事情を抱えた人たちを乗せた馬車が崖の下に転落したあと、『ただひとり、悠々と青空の中を飛んでいった』のです。<o:p></o:p>
この蠅の目には、人間の生死はどう映っていただろうか、と考えます。<o:p></o:p>
同様に、携帯ラジオは人間の生死についてどう思っただろうか、と考えてみます。<o:p></o:p>
横光利一『蠅』。短い小説です。一度読んでみて下さい。<o:p></o:p>
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