落合順平 作品集

現代小説の部屋。

上州の「寅」(22)路は2つ 

2020-08-23 17:43:18 | 現代小説
上州の「寅」(22)




 「あなたの未来に、赤信号が点灯してるのよ。
 デザイナーの才能がないことを知らないのは本人だけ。
 ホントに気がついていないんだ。
 自分にデザイナーとしての才能がないことに。
 ああ・・・可哀想。お気の毒さま」


 「だからどうだというんだ。
 おれの将来は俺が決める。テキヤの自由にさせない」
 
 「あら。わたしにそんな大口をたたいていいの?。
 じゃ警察へ行こうか。
 雑魚寝を強要されたうえ、毎晩、痴漢されたと訴えるわ。
 困るでしょ。そんなことされたら?」


 「何だよ。君までおれを脅迫するつもりか!」


 「脅迫じゃないわ。事実だもの。
 実際に触ったでしょ。わたしの胸とお尻に」


 「たまたまだ。寝返りしたらおれの手が君の胸に触れただけだ」


 「ウソつき。しっかり触ったくせに」


 「うん。まんざらでもなかった・・・」


 「ユキのお尻にも触ったでしょ。
 ユキは15歳よ。未成年に強制わいせつ。
 痴漢なら罪が軽いけど、強制わいせつは罪が重いわよ」


 「痴漢と強制わいせつは違うのか?」
 
 「大違いです。強制わいせつ罪は、6ヶ月以上10年以下の懲役。
 下着の中にまで手を入れたり、下半身を長時間触り続けたりするなどの
 悪質な痴漢行為は、場合強制わいせつ罪に問われます。
 場合によっては、人生を棒にふることになるわ」


 「たしかに触ったけど、下着の中へ手を入れたり、
 下半身を長時間さわったりしていないぜ」


 「女が2人がこんな風にやられましたと言えば、たいていは有罪になる。
 あんた次第だ。
 どうする?、道はふたつある。好きな方を選択しな」


 「一つ目は?」


 「警察へ行き、あんたを痴漢者として突き出す」


 「2つめは?」


 「助手席へ座り、このままわたしたちの隠れ家へ行く」


 「隠れ家?」


 「わたしたちはそう呼んでいる。
 ホテルでもないし、旅館でもない。しいていえば古民家だな」


 「古民家でなにやってんの?。女が2人で?」


 「行けばわかる」


 「遠いのか?」


 「遠い。携帯の電波がはいらない山の中だもの。
 パンツ1枚で過ごしても誰にも文句を言われない、秘境の環境」


 「雑魚寝は?」


 「懲りないわね。あんたも。
 わたしたちは古民家だけど、あんたの根場所は離れの物置。
 いっしょに寝てもいいけどそんなことになったら、あんた、一生上州へ
 帰れないよ。
 それでもいいのなら、いっしょに寝てあげるけど。どうする?」


 「雑魚寝は遠慮する・・・これ以上、罪を重くしたくない」


 「いい覚悟だ。うふっ」


 


(23)へつづく