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落合順平 作品集

現代小説の部屋。

 北へふたり旅(41) 第四話 農薬⑦

2019-10-08 15:45:24 | 現代小説
 北へふたり旅(41) 




 茎や葉の表面から吸収されることで、全体を枯らしていくタイプの除草剤。
グリホサートを主成分とするラウンドアップは、その代表格。


 「ラウンドアップの安全性を、同社はこんな風に説明している。
 成分のグリホサートが、植物がアミノ酸を作り出す経路をブロックする。
 シキミ酸経路というものだ。
 アミノ酸を作れなくなった植物は枯れる。
 しかし人間にこのシキミ酸経路は存在しない。
 だから人体は安全だと」


 「発がん性の疑いに反論しているのですね」


 「確かに人体にシキミ酸経路は存在しない。
 しかし、腸内細菌がそれを持っている。
 植物を殺すグリホサートは、シキミ酸経路を持つ腸内細菌を破壊する。
 腸内細菌を損なうと、アレルギーや、自己免疫疾患が発生しやすくなる。
 だからグリホサートは人体に有害だと言わざるをえない。
 グリホサートの使用量が増えるたび、こうした疾患で苦しむ人の数も
 また増えることになる」


自然界へ与える影響も、はかりしれないものがある。
グリホサートの空中散布は、大量、かつ広範囲におこなわれる。
現代版の無差別爆撃だ。
こうした結果、被害は自然界の全体におよぶ。
人はグリホサートから避けることはできる。
しかし自然界に生きているさまざまな生命体は、まったくの無防備。
人よりさらに危険な状態に置かれている。



 土壌の中には、たくさんの細菌がいきている。
大量の農薬散布により、それらの細菌が損なわれる。
死滅した土壌細菌はメタンガスとなり、気候変動を激化させる。
共生菌を失った植物は、病原菌にやられやすくなる。
こうなるとさらなる殺菌剤が、必要になる。


 この悪循環に終わりは来ない。
ゆえにラウンドアップを禁止しなければならないという声が、
世界中からわきおこる。


 「しかし。このグリホサートってやつは厄介だ」


 ラウンドアップの有効成分グリホサートは、特許で保護された期間を過ぎた。
他社から同成分。もしくは類似成分の除草剤が販売されている。
いわゆるジェネリック剤だ。
これらは安価で、効果もほぼ同等。


 後発品に農薬登録を取得したものと、取得していない
非農耕地向けの2種類がある。
非農耕地専用、農薬登録がないものを農耕地に使った場合、
農薬取締法違反で処罰される。


 ジェネリック品のひとつに、サンフーロンがある。
葉面に散布しただけで、根までシッカリ枯らす。
土壌に薬剤が落ちた時点で、効果が無くなる。
除草剤を撒いた後、日を置かず作付けが行える。
ラウンドアップにくらべ、はるかに安価。
などをうたい文句に、おおくの農薬メーカが販売に力を入れている。


 「誰でもつくれる、ジェネリックの台頭ですか。
 やっかいですねぇ・・・」


 「そう思うだろう。マスターも。
 頭の痛い問題だ。農薬と化学肥料の問題は。
 しかしな。グリホサートとモンサント社ばかりを責めるわけにいかん。
 20世紀は食料増産に、ひたすら奔走した時代だ。
 褒めるつもりはないが化学肥料と農薬の進化は、増産の原動力になった」


 「食料の増産は、21世紀も同じです。
 地球の人口は2050年、100億人にせまりますから」


 「いまさら20億や30億人増えたところで、どうってことないさ。
 人類はすでに、人口増時代の食糧問題を乗り越えてきた。
 こんども乗り越えるだろう。
 おれたちの子や、孫のたちが・・」
 


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