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「原発に頼らない地域経済の再生」―柏崎刈羽玄原発フォーラム-から(K)

2012-12-04 | 震災と原発
新潟自治体問題研究所主催
自治体学校プレ企画「原発依存から地域経済の再生を」
―柏崎刈羽玄原発フォーラム-から


 11月24日に開かれたフォーラムにはこれまでにない217人が参加しました。地域経済の衰退から原発を受け入れていく姿は、ちょうどアメリカで貧困層が軍隊に応募する姿を連想させました。
 柏崎市は、全国と同様な高度成長期の農業人口の流出の中で大豪雪(1963年)に遭遇し、「柏崎=陸の孤島」論も広がっていました。地域の開発欲求の中で、地元の有力者による原発誘致が始まりました。その頃、東電は、全国の公害反対運動の中で原発も危険、と立地が困難な状態にありました。
 1968年の地元市議会は原発反対運動を押し切って、誘致決議を行いました。反対運動は激化しましたが、1974年には国がさらに「電源三法」を制定して後押しし、1978年から着工が始まりました。以降約20年間、7基の原発が建設され続け、1997年にはすべての原発の運転が開始されました。合計出力は821万2千キロワット、日本でも最大級の原発です。

 原発誘致について、柏崎商工会議所は「巨大な建設投資に伴う地域経済への波及効果(建設業、工業、商業、観光業)、雇用の増大、電源三法交付金による地域の整備、運転開始後は固定資産税増収による財政効果、さらに1人当たり市民所得の増加」(『明日への創造』1981年版)への期待を表明し、推進しました。
 その現実はどうだったのか、調査の結果から見えることを講演しました。

原発に頼らない地域経済の再生(岡田知弘教授講演要旨)


原発は立地地域経済を豊かにしたか
1)原発建設段階での地域への経済効果
①建設効果・・・県内貢献は工事投資額の24% 75%が東京へ
柏崎刈羽原発一号機の総建設費は4718億円で、内訳は下図の通り。(柏崎商工会議所『明日への創造』1、Ⅱ[1989年])

 ホクギン経済研究所は、報告書『原子力発電所立地が新潟県に及ぼした経済的影響に関する調査研究』(2001年)で「97年度までの原発関連総投資額2兆8500億円のうち6890億円が地元(新潟県内)工事投資額(全体の24%)」と述べている。これは、75%は東京へということ。
②雇用効果
 1980年時点の建設関連の雇用は、東電社員1237人のうち柏崎・刈羽56人(32%)、建設労働者の1756人のうち柏崎・刈羽(31%)となっていて、ともに、30%程度の雇用しか生まれない。

2)原発運転段階・・・偏重する就業構造
 すでに7基が稼働している柏崎刈羽原発の場合、雇用(2011年10月時点)7,323人。内訳は、東電社員1237人、(うち柏崎・刈羽村は1007人。81.4%)、協力企業社員6080人、(うち柏崎・刈羽村は3046人。50%)。特に、東電社員を含む電気ガス熱・水道供給業の就業者が多く、新潟県平均と比較すると5倍である(図)。

柏崎市事業所従業者の特化度 資料:「経済センサス」2009年より、作成。
1.00=新潟県平均


原発労働の特質・・・非近代的な重層的下請構造
 作業員一人当たり元請単価は、2~2.5万円/日だが、通常は四次下請まで行き、手取り8千円~1万円になっている。被曝量の制限で一日一時間程度しか働けないので、時間単価は高いが、日額では少ない。しかし、こうした被曝代償としての特質が、農漁業、地域産業への労働意欲の低下、しいては地域産業の基盤崩壊や、飲食偏重の地域経済構造への変化をもたらしている。

原発立地地域経済の共通した傾向
 農林水産業は離農や漁場荒廃になった。地域製造業への寄与はほとんどなく、減少。建設業・飲食・サービス業など建設時の一過性産業の隆盛と変動が特徴となっている。労働人口は原発が来てもなお、約7000人の減少になっている。人口減少も顕著であり、柏崎市では15年間で約10000人減少。減少比率は、新潟県平均を上回っている。


地域経済に占める原発効果・・・大手新聞「原発稼働停止で柏崎の事業所の4割に影響・・・」というが
 商工会議所は市内4879事業所のうち、1827事業所にアンケート調査(昨年・今夏実施)を行い、回答は695(回答率38%)だった。回答企業のうち「原発と取引がある」としたものが289社(回答数の44.3%)だったので、新聞報道はこれを元に4割としている。しかし、実際の原発取引企業比率は、全事業所の6.0%しかない。柏崎民主商工会の営業実態調査(本年10月実施)でも、それ以下の結果だった。
 柏崎地域経済に占める原発関連企業のウェイトは最大1割程度と推測できる。

原発に頼らない地域経済の再生
①原発の利益の短期性と破壊(自然・人間、人間社会)の長期性
②とりわけ、原発が生命と社会の再生産の土台を崩壊させること
を考えると、地域の資源を活用し、地域内経済循環を図りながら地域内投資力を高める地域の持続的発展を基本としなければならない。

柏崎の地域資源と、それを活用した再投資主体・・・地域に根ざした再生
①個性的な地域産業の形成
★ 近代における石油採海業(日本石油)と掘削機械産業(新潟鉄工)の形成・発展、戦後における多様な機械金属企業、下請け企業群の集積
★ 北日本食品に象徴される、農産物を活用した食品加工業の発展
★ 海の資源を生かした漁業、海水浴観光、マリンスポーツ
★ 中山間地域の農山村景観を保全した地域づくりの広がり
②再生可能エネルギーへのシフト
★ 廃炉作業と放射能封じ込めを行なうための仕事、雇用
★ 発電プラントの技術を生かした再生可能エネルギーの施設建設、運営
★ 柏崎市の「バイオタウン構想」をいかした木質バイオマス、小水力発電
柏崎には多くの地域資源と再投資主体がある。それをさらに広げ、つなぎ、大きくしていくかがカギ。

<講演を聞いて>
原発の経済効果は運転段階では一定の雇用になるものの、建設時には期待ほど大きくはなく、一過性です。一方、農業などの一次産業、製造・建設の二次産業の就業人口が減少を続け、電力業に偏重した就業構造に変貌しました。全就業労働人口では減少に歯止めがかからず、人口にいたっては県平均よりも減少幅が大きく、期待した経済効果にはなっていません。
地域経済への効果も一割程度を占めるにとどまっています。
原発の利益の短期性と破壊の長期性、生命と社会の再生産の土台を崩壊させていることを考えると、地域の産業・自然を活かした、持続的発展に転換するしかない。そして、それが可能であることに確信を持った企画でした。