桜の咲くころのようなポカポカ陽気だった土曜日、長めの散歩兼買い物に出かけたのに････

さっちゃんは歩くのが大好きです。
僕も歩くのは好きですから、二人でたくさんの山を歩けたんだと思います。
車を持っていませんでしたから、登山口まで半日かけて歩いたりすることも厭いませんでした。
知らない町を散歩する時も、意外な発見をしたいと思う気持ちもあって、よく行き止まりの道に迷い込んだりしてましたね。
それを徒労とは感じずに、楽しんでいました。

小さな島を訪れて、何日も島中を歩き回る旅なんて、最高の幸せでしたね。
さっちゃんとはトカラ列島の島旅もしましたね。
僕の小学生の時からの憧れの島だったんです。
口之島、中之島、諏訪之瀬島、悪石島、小宝島、宝島。
それぞれの島をテントで２、３泊、最後の１泊は民宿で、が基本パターンでした。
もちろん、初日に雨が降ってたりすると、民宿泊にしたりと臨機応変に。
その後、三島にも行きました。
竹島、硫黄島、黒島。

さっちゃんは80歳を過ぎ、腰も痛いことがあるようですし、認知症が進行しても歩くことが好きなことには変わりがありません。
足腰が弱くなって来て、歩くことが辛くなって来たら、歩くことが好きではなくなってしまうのかもしれません。
確かに、歩くスピードは実に遅くなってきました。
長く歩くことも出来なくなって来ました。
それでも、体力や脚力にあわせて歩き続けたいと思っています。


今日、土曜日は本当に暖かい日でした。
最高気温は春の桜が咲くころの気温。
洗濯をして、ベランダに干してから、さっちゃんと散歩に出かけることにしました。

さっちゃんはダウンを、僕はウインドブレーカーを着ないで、ザックに入れておきます。
２時半ころの出発ですし、かなり長めの散歩をしてみることにしました。
僕の住んでいる街の中心街へ行くことにしたのです。
そこにはモールがあったり、映画館があったり、アウトドアの店がたくさんあったり、大きなホームセンターがあったりします。
僕には探してみたいものや買っておきたいものもあったんです。

そこまでは歩いて40分ほどの道でした。
ここしばらくはそこまで歩いたことがありませんでしたから、今のさっちゃんには50分か１時間かかりそうです。
さっちゃんが歩き疲れてしまったら、帰りはバスに乗って帰ろうと考えていました。

何がどう影響したからなのか分からないのですが、歩き始めるなり、さっちゃんは僕への文句をブツブツと喋り始めました。
もちろん、意味内容はさっぱりなんですが、不平不満の感情が籠った喋りを浴びせられ続けると、けっこう精神的には響くんですよ。
それでも、僕は一生懸命に柳に風と聞き流し続けるんです。

家から10分ほど歩いた頃だったでしょうか？
さっちゃんが「帰る」と言いました。
僕は「家に帰るの？」と確認します。
すると、再度の「帰る」。

僕はあっさりと来た道を引き返し始めます。
ここまでもさっちゃんのペースは超スローでしたし、こんな精神状態では歩き疲れて来るとますます険悪になるでしょうからね。
さっちゃんは僕と繋いでいた手を振りほどきました。
とは言っても、僕の後からちゃんと付いて来ています。

同じ道で家に帰るのもつまらないので、多摩川土手に向かいました。
再び、10分くらい歩くと、多摩川の土手に上る階段です。
そこで待って、さっちゃんの手を取りました。
さっちゃんは僕と手を繋いで階段を上りました。
土手でもそのまま手を繋ぎ続けます。
まだ僕への不平不満の感情は残っているようでしたが、手は繋ぎ続けていました。

でもやっぱり、さっちゃんは僕へのわだかまりがあるんでしょうね。
再度、僕と繋いでいた手を振りほどきました。
アパートの階段ではまた手を繋ぐことになりましたけどね。
部屋に戻ると、少しずつさっちゃんの気持ちも和らいでくるようでした。
結局、１時間の散歩。

歩くのが好きだからと言って、最近のさっちゃんにとっては歩いていれば無条件で幸福感が湧き起って来るとは限りません。
走ることと同様に、長く歩くとしんどくて疲れるのは同じです。
肉体的精神的疲労感を乗り越えて、積極的に楽しむ気持ちを持つ必要があるのです。
ところが、認知症になると、そんな風に気持ちでコントロールすることが出来なくなるようですね。
そのようなことはさっちゃんにおいても以前から分かっていたことではあります。
でも、体力や脚力にまだ余力があったので、軽々と乗り越えることが出来ていたんでしょうね。

今日のさっちゃんとの散歩を振り返って、つらつらとこのようなことを考えました。