2023年1月23日(月)、部屋の片付けをしていると、さっちゃんの山日記が見つかりました。1988年のおよそ半年分です。さっちゃんが山行記録をメモ程度に書き残していたり、日記のように書いていたことがあることは知っていましたが、こうやって改めて見つかりましたから、元気だったころのさっちゃんを知ってもらうためにも、公開しようと思います。(青字は僕の書き加えた文章です。人名等は書き替えています)
1988年4月24日(日) 葛葉川本谷
葛葉川本谷
(会山行参加者)L○○(僕の姓)、SLさっちゃん、M田、A立、K島、Y口
今回は初級者の実践トレーニングと銘打っての山行であった。我々のトレーニング的山行にずっと参加してきたK島、A立をメインに、いたるところでザイルを出させ、自然物を利用してのセット、ビレーを行なう。沢の入門コースとしては最適といわれるこの沢での実践トレーニングはやはり時間を要すが仕方がないであろう。
朝方、曇り空だったが、天気も快復し、あたたかい午後となる。雨のO原さん会山行のときのことを思い出す。
K島、A立の両者はそれなりに充実した山行であったことと思う。それにしても、こういうのを見てると、自分は本当にサブリーダーとしての任にあまんじてよいのだろうかと考えさせられる。彼女達と同じ、いや以下かもしれないのでは・・・・。岩を登れる、歩けるだけではどうにもならない。総合的な面で、他人の上(サブリーダーとして)に立つというのは早いのではないだろうか。そのうえ、自分の性格としては向いていない。
何はともあれ、無事に沢終了し、三ノ塔尾根を下る。車道に出て、どこをどう間違えたのか、大秦野ゴルフクラブを通り抜け、横野というバス停に出た(戸川バス停の1つ前)。うまい具合にバスにとびのることができた。
下りはやはりヒザが痛い。
ベテラン参加者のM田、Y口の両者は勝手にやってもらう。
富士型の滝でザイルたらして遊んでたようだ。
T瀬5:27~池袋5:59~新宿6:31
以下、会の月報報告ですが、K島さんの文章です。日記に貼り付けてありました。
‟実践トレーニング”レポート 葛葉川本谷 沢登り初級
参加メンバーは二つに分かれる。ベテラン組は自主トレーニングをエンジョイしながら遡行を先行する。訓練生組は真面目に実践トレーニング、訓練生のA立さんと私がリードとセカンドの役割を交代でとりながら、SL扮する初心者を連れて行くという具合である。横向きの滝、板立の滝、富士型の滝、その他、通常ノーザイルで登るところでもザイルをセットし、実践トレーニングで体験できたいくつかの事柄を報告したいと思う。
セカンドが行なう確保 太い灌木・大きな石等、墜落の衝撃に充分耐えられそうな自然物を捜す。ザイルをセットする。万が一トップが墜落した場合に備えて正しい体勢をとる。なるべくザイルは濡らさない。
中間確保の取り方 トップがルートを読みアンザイレンして登り始める。途中自然物を利用して中間ビレーをとる。細い灌木を五、六本まとめて根元でシュリンゲをダブルプルージックで結ぶとかなり効く。下から上までザイルが一直線に伸びるように左右の中間ビレーをとっていくこと。自然物がない場合、ロックハンマーを使って適当なクラックにハーケンを打込む。クラックが堅く、ハーケンのあごが岩壁につくまでピタリと打ち込めるとは限らない。その場合は、ハーケンのあごの付け根にシュリンゲをタイオフしてビレーとすることもできる。セカンドがそのハーケンを回収する。
トップが行なう確保 太い灌木、ボルト等のビレイポイントを捜す。セルフビレーをとる。ザイルをセットして確保体勢をとり、声で又は身振りでセカンドに合図を送る。声が届かなくてしかも相手の姿が見えない場合、お互いの作業工程をタイミングで、又はザイルを引いた時の指先の感覚で推測する。
他にも収穫はたくさんあった。
一連の作業を二度三度と繰り返して行くうちに、すべての作業が安全の為であること、信頼のおけるパートナーの大切さなど改めて痛感した。Lの終始妥協を許さない厳しい指導姿勢が大変有難く思われる。 (K島)
(コースタイム)葛葉川遡行開始地点8:05~8:40ー林道12:15-昼食12:45~13:15-富士型の滝13:35~14:25-遡行終了点14:45~15:20-林道16:10~16:25-横野バス停17:30
※ザイルワークは実際に自分で使ってみないとなかなか身につかない。今後とも参加者には本番でのリードを経験して欲しいし、どしどしやってもらう予定でいる。重いザイルを背負って沢を歩いたり、ツメの急登を登ったりも当然やってもらうつもりだ。その際、基本的には男も女もない。平等である。そして、みんなの力を合わせて、大きな沢にも入りたいものだ。(L)
2023.08.22 追記
2ヶ月前の捻挫もまだ完治してなくて、さっちゃんには影響が残っているようですね。そんなこともあってか、さっちゃんが珍しく弱音を吐いている日記です。自分がサブリーダーとしての確かな技量があるかどうか不安な気持ちを書いていますね。
さっちゃんは性格的にリーダータイプではありません。リーダーにはどっしりと構えてもらうだけで、現場を取り仕切るようなタイプのサブリーダーでもありません。僕とさっちゃんのL・SL関係の中では、現場を取り仕切るのは僕で、さっちゃんは補佐的な役割に限定されていたと思います。さっちゃんのSLとしての最重要な役割はLである僕が間違った判断をした際に、それを僕に直言し、修正を促すことでした。
その間違いが単純な間違いであれば指摘することは簡単です。複雑深刻なのは、その間違いがリーダーの情熱というか意気込みのようなところから発生している場合ですね。リーダーは自らが計画した山行を成功させたいと強く願っていますから、場合によっては少なからず無理な判断をするケースがあるのです。そのような状況でリーダーである僕の頭を冷やすような進言をするのがさっちゃんの役割でした。すご~く困難な役割だと思います。比較的慎重な僕ですから、ほとんどそのようなことはないのですが、数年間に一度くらいはあるんですね。さっちゃんはそんなレアケースでしっかり確実に僕へ語り掛けてくれていました。しかも、他メンバーに聞こえないように、僕と二人だけの空間で。僕にとっては最高のサブリーダーでした。
月報最後のリーダーの弁の中に「基本的には男も女もない。平等である」と僕が書いています。当時は岩や沢の世界にも男女差別の風潮が残っていたんです。僕と出会う前のさっちゃんは岩登りでリードをしたことが無かったと言います。女性にはリードをさせない、という間違った女性保護意識を持った先輩男性に指導を受けていたからのようです。
さっちゃんとザイルを組むようになって、僕はさっちゃんに言いました。「ザイルパートナーになるのだから、当然リードもしてもらう。僕と同じことが出来ないと困る」と言ったのです。初めて滝谷の登攀に行った時は、まだ僕が全ピッチリードしましたけれど、その後はすべての岩登り本番ではつるべ(交替)で登攀しています。