さっちゃん 空を飛ぶ

認知症で要介護5の妻との楽しい日常を 日記に書き留めたいと思います

さっちゃんはすぐに忘れて気分もコロコロと変わってしまいますけど、僕は忘れられずに気持ちをずうっと引きずってしまいます

2019-11-05 23:50:10 | 気分や思い
お昼過ぎにデイサービスから帰ってきたさっちゃんは、玄関まで送ってくれたスタッフさんをそのまま今度は送迎車まで見送ります。
もちろん、僕も一緒です。
雨の日など、一階の棟の入り口までしか見送りが出来なかったんですが、そんな時は部屋に戻ってからもずうっと不機嫌なんです。
雨の日でも傘を持って送迎車まで行かないと、その後大変なのは僕ですから、次からはそうしようと考えています。

今日は快晴で送迎車まで一緒に見送りをして、部屋に戻って来ました。
僕はお昼御飯がまだでしたから、インスタントのちゃんぽんを作り始めます。
ところが、何故だか分からないのですが、さっちゃんが不機嫌。
何やら僕に対して喋りまくっています。
言葉は意味不明で、何を言ってるのかさっぱり分かりませんが、ときおり理解できる単語から類推すると、
僕が見送りをしなかったことに腹を立てているようなのです。
僕も一緒に見送りをしたことを忘れてしまったんでしょうか?

確認しようもありませんし、だんだんとそれ以外のことに対しても僕を非難したり、怒ったりしているみたいです。
「本当にあんたは何もしないんだから」というような内容を喋ってるように聞こえることもあります。
さっちゃんの怒りや苛立ちや非難の心情などは言葉が意味不明でも伝わってくるものです。

ちゃんぽんを作っている間じゅう、さっちゃんの僕への口撃は続きます。
原因も理由も分かりませんから、僕は何もするすべはありません。
黙っているしかありません。
昔から口喧嘩になると、僕は黙るしかありませんでした。
理性的に論理だてて反論すると対立がますます激しくなってしまうことが分かったからです。
何も言わず、視線すら合わさない僕に対して、さっちゃんは更に怒りを増すようです。
でも僕は、適当な返事をしたり、普段通りの態度を取ることが出来るほど立派で強い人間なんかじゃあありません。
腹立たしさを噛み殺しながら、寂しい気持ちを押し殺しながら、じい~っと耐えることしかできない人間です。

テーブルに向かい合って座って、僕はちゃんぽんをすすります。
先ほどのスタッフさんが「今日はほとんど昼食を食べなかったんですよ」と聞いていたので、
途中でさっちゃんにちゃんぽんを食べるように声を掛けました。
さっちゃんはブツブツ何やら僕に対して喋りながらも、お腹は空いていたようで、僕のちゃんぽんを少し食べてくれました。
食べ終わると、リンゴを1個むいて二人で食べました。
さっちゃんはまだ僕に厳しい目線を向けています。

さっちゃんがデイサービスに行っている間に干した洗濯物を取り込むことにしました。
敷布団のシーツも洗ったので、まずはシーツに付着している髪の毛などを探して手で取り除きます。
いつもなら、必ずベランダを覗きに来るさっちゃんが今日は全く姿を現しません。

洗濯ものの取り込みが終わると、僕は布団に寝っ転びながら朝刊を読みました。
さっちゃんは読み終わるまで姿を見せません。
歩き回る足音もしません。
ずうっと椅子に座ったままのようです。
新聞も読み終わると、僕はそのまま布団の上で眠ります。
さっちゃんの方へ行くのも嫌ですし、僕の気分は落ち込んだままなんです。

眠るつもりはなかったんですが、どうやらほんの一瞬眠りに落ちてしまったようです。
目覚めると、時刻は4時直前。
買い物へ行く準備をします。
さっちゃんを無視して、僕は外出着に着替えたり、買い物リストをメモしたり、いろいろ準備します。
そんな僕にさっちゃんは付き纏って、何やら喋りかけ続けます。
ところが、先ほどまでの怒りや非難の口調ではありません。
何やら悲しげで涙口調の喋り方です。
僕が布団の上で過ごした1時間ほどの間にさっちゃんの気分が変わってしまったようなのです。

でも、僕はさっちゃんから酷く口撃されて落ち込んだ沈み込んだ気分のまま。
今のさっちゃんに対してなら、優しくハグをしてあげれば、言うことをしっかりと聞いてあげればいいのでしょうが、
そんなに急に変わりようがない僕の気分ではさっちゃんに対して器用に対応できるはずもありません。
さっちゃんは必ず僕に付いて来ますから、薄手のジャンパーを着せてあげ、念のためにトイレでおしっこをさせてあげ、
ザックを背負わせてあげ、靴を履かせてあげ、いろいろ細かな準備をしてあげます。

「おしっこしな」とか「靴履きな」とか、ずうっと無口だった僕も最低限の言葉は発します。
玄関を出て、階段を降りる段になると、「手なんかつないでやるものか」と思っていて、1段だけ僕は降りました。
でも、さすがにそこまでは出来ず、1段下からさっちゃんの手を取りました。

スーパーまでも手はつないで歩きましたが、基本無言。
犬や猫がいた時やカラスが飛んだ時、飛行機が飛んでる時、そして、綺麗な半月が浮かんでいましたから、そんな時だけ言葉を発しました。
「あれ、見た?半月。綺麗だね」
スーパーでも無言。

しかし、僕はさっちゃんの変化に気づきました。
すでに暗くなってる帰路、さっちゃんは僕に話しかけ続けています。
もちろん、意味不明ですが、さっちゃんの様子はいつもと同じ、普段のさっちゃんです。
そんなさっちゃんに押されるようにして、僕も少しずつさっちゃんと話すようになりました。
話すといっても、さっちゃんの話しに相槌を打つ程度ですけど。
「うん」とか「そうだね」とか。

暗い中を歩きながら僕は思います。
さっちゃんはずるい。
僕を怒ったり非難したりする気分、悲しげな気分はすっかり跡形もなく忘れて、普段のさっちゃんに戻ってる。
僕はさっちゃんから酷く言われ続けて打ちひしがれた気分のままなのに。
僕は忘れることが出来ずに苦しんでるのに、さっちゃんはいとも簡単に忘れてしまう。
さっちゃんはずるい。

こんなこと言っても詮無き事だとは分かっています。
今日のようなことがあると、一方的に僕だけが被害を被った気持ちになってしまいます。
そんな考え方感じ方は正しくないことくらいは理性で分かりますが、やっぱり僕だけ損した気分。
デイサービスのスタッフさんたちみたいに優しく、四六時中さっちゃんに対応できればいいのでしょうけれど、
僕にとってさっちゃんはサービス利用者ではありません。
僕の妻です。
愛する妻です。

冷たい言葉を浴びせられると、悲しみの衝撃は大きいんです。

とはいえ、強くならなければなりません。
僕がさっちゃんの気分の転変に動揺させられてはなりません。
無感覚になってはいけませんが、さっちゃんの気分の変化に出来る限り早く寄り添うことが出来るようになりたいと思いました。
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