『鈍感すぎる汚染水対策』
前回『シーシュポスの神話』に譬えた福島第一原発の汚染水漏えい問題は、8月に入っていよいよのっぴきならない局面にあることが明らかになった。
まず心配されていた汚染地下水の海への流失が、一日当たり推定300トンにのぼることが発表され、東電の対策がことごとく破綻していることが明らかになったのである。
「東京電力福島第一原発の建屋近くの地下水から高濃度の放射性物質が検出されている問題で、政府の原子力災害対策本部は7日、1日あたり推定300トンの地下水が放射性物質で汚染され、海に流出しているとの試算を明らかにした。東電による汚染水対策は破綻(はたん)しており、政府は国費を投入して対策に乗り出す方針を固めた。
資源エネルギー庁によると、福島第一原発では山側から海側に1日約1千トンの地下水が流れ込んでいるという。このうち、原子炉建屋などへ約400トンが流れ込んで汚染水になっているとしていた。
しかし、試算では、残り600トンの地下水のうち300トンが建屋周辺の汚染土壌の影響で汚染水となり、海に流れ出ているとした。漏れ始めた時期は特定できず、事故直後からずっと漏れ続けている可能性も否定できないという。残りの300トンは汚染されずに海に流れているとみられる・・・・」
(朝日新聞)
この状況から、国はもはや東電任せの汚染水処理は破綻したと判断し、国費を投じて本格的に取り組む姿勢を見せた。
ところが、その矢先に、懸念されていた地上タンクからの汚染水漏えいが発見され、潜在的な危機が容易ならざることを予感させた。
「東京電力福島第1原発の地上タンク周辺で汚染水の水たまりが見つかった問題で、東電は20日、タンクからの漏洩(ろうえい)を認め、漏洩量は過去最大の約300トンに上るとの見解を示した。汚染水からはベータ線を出す放射性物質が1リットル当たり8千万ベクレルと極めて高濃度で検出された。漏れた放射性物質量は24兆ベクレルと推定される。
原子力規制庁は19日に国際的な事故評価尺度で8段階のうち下から2番目の「レベル1」と暫定評価したが、レベルの引き上げを検討している。事故評価尺度では数十兆ベクレルの汚染はレベル2に該当するとされる。
東電は「タンク近くの側溝の放射性物質濃度が高くない。海への流出はない」との見解を示した。漏洩場所は不明で、汚染水は流れ続けているとみられる。
漏洩があったのは容量1千トンの地上タンク。内部の水位が約2.9メートル下がっていたことから、漏れ出た水量は約300トンと推定された。漏洩した水のうち約4トンは回収したが、長期間かけて漏れたとみられ、大半は周辺の土壌に染みこんだ可能性が高い。
タンクを取り巻くコンクリートせきの外側に土嚢(どのう)による壁を設けているが、土嚢外側の地表付近で最大1時間当たり96ミリシーベルトと非常に高い線量が計測された。東電は土嚢の設置のほか、漏洩が起きたタンク内に残った汚染水を別のタンクに移送して汚染拡大の防止対策を進めている。
第1原発敷地内の地上タンクからの漏洩は5回目。6月にも容量500トンのタンクから漏洩があった。」
(産経ニュース)
ところで、今回汚染水漏れを起こしたのと同じ構造のタンクが相当数(350基使用中)あり、過去にも4基で小規模の漏えいが見つかっているという。
しかし、ここまで追い込まれると、増え続ける汚染水を貯蔵するために是非を問う間もなくタンクを作り続けなければならない。
不良品とわかっていても、それを使わざるを得ないのだ。
それに輪をかけ、地上タンクを設置する敷地がまもなく無くなるという難問が残っている。
思い出してほしい。
地下深くにあると予想されるメルトダウンした核燃料は、取り出さない限り何百年も地下水を汚染し続けるのである。
地下水の海への流失を阻止すべく、さまざまな方法で遮蔽物を構築しているが、あさはかな人知をあざ笑うごとく地下水は壁を越え、わずかな隙間を狙いどんどん海へ流れ出ていく。
急ごしらえの地上タンクは、いずれ老朽化し汚染水漏れを起こす。
しかも増え続ける汚染水に対して、地上タンクの増設がまもなく限界に達することは以前から指摘されていたとおり。
汲めども汲めども汚染水は増え続け、やがてこの徒労とも思える行為に疲れ切った人びとに悪魔の声がささやく。
(もうお手上げだ。海へ流すしかない・・・・)
(低濃度の汚染水なら、なんとか許してくれるだろう・・・・)
シーシュポスは神の命令で何度でも重い岩を山の頂上まで押し上げたが、この国の関係者はどこまで責任を持つだろうか。
悪魔のささやきに惑わされたら、もはやこの国の未来はない。
この絶望的な状況を打開するには、全国民が危機意識を共有しなければならない。
まさに『国難』なのである。
これまで、汚染水対策は遅すぎた。
事故後2年半にわたって東電任せにしてきた国や行政の判断が間違っていたことは、誰が見ても明らかである。
誤魔化しに終始した東電の発表には、国民の大多数が怒りを覚えていたはずだ。
そしてそれを見逃してきた国や行政にも、責任を問う声が起こって当然だろう。
しかし、いまは政府を叱咤激励してやってもらうしかない。
国際信義にもとる海洋汚染だけは避けなければならない。
冗談ではなく、汚染水収容のためのタンカーを用意すべき時が来たのかもしれない。
鉛板で放射線を遮断する補強を施し、抜本的な解決策が見つかるまで、一時的にタンカーで保管する。
危険はあるが、ダブルハル(二重船殻構造)のタンカーで、なるべく航行しないようにすればリスクを軽減できる。
それぐらいの準備をしておかないと、いよいよもって神の罰が下される。
しろうとの思いつきと笑われるかもしれないが、それならば国の叡知を総動員してとめどない汚染水を処理してほしい。
なんとかしてください、漁民のため、県民のため、国民のため、世界のため・・・・。
(おわり)
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汚染水漏れがないか、毎日2回行われている高濃度汚染水タンクの巡視の際の点検記録さえつけていなかったことが、23日の原子力規制委員会の現地調査で明らかになった!
「「平常時の記録がないのでは、異常が発生しているかどうか変化状況がわからず、まったく意味を成さない」と調査の更田豊志規制委員が呆れていた。
ひどすぎるよ。児戯に等しい。
ことによれば(意地悪くかんぐれば)巡視点検そのものが行われていなかった可能性だって疑われるのではないでしょうか。
もう何を言うのも空しい感じになります。
てなこといって済ましていられる問題ではないのでしょうが。
これが日本の原子力関係者と東電の当事者能力の本当の姿なのか。
こんな低レベルの連中とそれを正しコントロールすることも出来ないような国が、原発の再開や原発の海外売込みをするなど絶対許してはならないよなあー。
人類は核廃棄物の処理も含めて核をコントロールすることなど出来ないことは今回の有様で誰の眼にも明らかになったのだから・・・もう核兵器も原発も全地球規模でやめるしかないですね。
このままつづけたらいつか放射能で地球上の生命は滅ぶに違いない。
つぎつぎと嘘が破綻していくのに居直りつづける企業や為政者は、やがて自分や家族の身にも厄災が及ぶことを予測できないのでしょうか。
不思議です。この国の仕組みは実に不思議です。
子供の未来が大切と言いながら、目の前の利に心を惑わされる。
そうした微細な欲の集合体が、魔物となって子供の未来を食いつくそうとしてしているように思われます。
コメントありがとうございました。