どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設19年目を疾走中。

新作KAIDAN その2 『自然薯の涙』

2024-04-18 01:13:00 | 短編小説

修二さんは秋になると零余子〈むかご〉の収穫をしながら自然薯の蔓の位置に目印の竹竿を刺ししっかりと記憶しておく。

晩秋から冬にかけて本命の自然薯を掘るために欠かせない作業である。

修二さんの家の裏山は大昔、合戦に敗れた坂東武者が逃げ込んだ場所と言い伝えられていて、武具が持ち去られた後には亡骸が放置されていたとも言われている。

時代を経て亡骸は海に近い湿地に集められ、その場所はしばらく白骨が砕けて夜目にも白く光って見えたという。

修二さんはこれまでに草の下から何かが出てきたといったことがなかったもので、気にすることもなく自然薯掘りに熱中した。

この日も印をつけておいた蔓を探し出し、長柄のスチール製自然薯掘り器で周囲を掘りはじめた。

やがて蔓の先に細い自然薯が現れた。

修二さんは鎌で穴の一方を切り崩し、自然薯の全容が見えるようにした。

自然薯は蔓につながった部分は細かったが下の部分が何かに突き当たって急に太くなっていた。

まっすぐではなく曲がりくねって何かを抱え込んでいるようにも見えた。

日の光が当たるようにすると自然薯が抱え込んでいるのは腐食した金属のようだった。

さらに目を凝らすと、小柄〈こづか=小刀〉に巻いた漆の布が残っている。

まさかと思いながらも修二さんは坂東武者の話を思い出した。

〈ほんとうに、この地で果てた武者がいたのか〉

軽く目をつむって弔いの会釈をし、しかし掘り当てた自然薯はどうしても持ち帰りたかった。

修二さんは自然薯から小柄を外そうと試みたが、苦労の甲斐もなく自然薯は途中で折れた。

折れたのは残念だが自然薯は持ち帰ろう。

素手でつかむと折れた部分から涙のような分泌物が滲み出た。

かゆいので青木の葉をむしり取ってぬぐったが家に帰りついてもまだ痒かった。

石鹸をつけて水でごしごし洗ったら、痒かった部分が赤く浮き上がった。

「これは怪しいぞ。自然薯の涙かと思っていたが坂東武者の血を吸っていたのかもしれん」

修二さんは持ち帰った自然薯を摩り下ろすことなく、この地の寺に持っていって丁重に弔った。

 

長年にわたって自然薯を買い取ってもらっている隣町の料理店には、坂東武者の話はいまだに打ち明けていない。

 

   〈おわり〉

 

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2 コメント

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Unknown (yamasa)
2024-04-19 20:07:43
こんばんは。
坂東武者の話が伝わっているんですね。
長年にわたって自然薯を取っている方に、供養のお願いをしたのでしょうか。
伝説ですね。
供養の依頼 (tadaox)
2024-04-20 00:55:31
(yamasa)さん、こんばんは。
話としては創作ですが、鎌倉を想定して書きました。
自然薯が突き当たった小柄〈こづか=小刀〉の主が供養のお願いをしたというのは面白い見解ですね。
余談ですが鎌倉のある場所〈㊙〉には掘るといまだに地中から骨片が出てくるという話は伝わっています。
いつもコメントありがとうございます。

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