金木犀、薔薇、白木蓮

本と映画、ときどきドラマ。
★の数は「好み度」または「個人的なお役立ち度」です。
現在、記事の整理中。

83:川西政明 『文士と姦通』

2007-06-27 10:36:00 | 07 本の感想
川西政明『文士と姦通』(集英社新書)
★★★☆☆

「姦通」というスキャンダラスなテーマで、文士の恋愛遍歴と
その作品への影響をダイジェスト的にまとめた一冊。
登場するのは、北原白秋、芥川龍之介、谷崎潤一郎、宇野浩二、
宇野千代、岡本かの子、佐多稲子、有島武郎、志賀直哉、
島崎藤村、夏目漱石の11人。

ほとんど予備知識のない人物についての部分は
まったく気にならずおもしろく読めたのだけど、
作家研究に触れたことのある人物の箇所では、
「えっ、断定しちゃっていいの?」
と読んでいるこちらが不安になってしまうところも。

漱石先生の姦通相手がだれか、真剣に議論する学者たち。
学者って……。
そして谷崎潤一郎は文句なしのヘンタイだと思いました。

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82:乙武洋匡 『五体不満足』

2007-06-26 13:04:16 | 07 本の感想
乙武洋匡『五体不満足』(講談社青い鳥文庫)
★★★★☆

これも小学生の子が持ってきてくれました。
いわずと知れたベストセラー。
「スーパービート板」のところだけ仕事で既読。
全体を読んだのは初めて。

「あえて書かなかったこと」は多いと思う。
書かなかった理由を考えられるかどうかで、
個々の人々がこの本に抱く印象も変わるのではないかな。
問題があるとすれば、自分の人生の外にあることまで
断定してしまう書き方。
(やはり人格以外の問題で、人を遠ざけてしまう人々だって
 いるのだと思う)
しかし、より多くの人にあることを伝えようとすれば、
言葉の「わかりやすさ」「単純さ」は必要なわけで、
反面、それが誤解や反発を招くことになるのは避けられず……難しい。

単純に読み物として見てもおもしろく、
直接行動に結びつかないとしても、
読んだ人間の意識への働きかけという点で影響力は大。
……ああ、でもこれを読んだ子どもは、感想文に、
「乙武さんは障害があるのにすごいなあと思いました」
とか書いちゃうんだろうな。なんの疑いもなく、悪気もなく。

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81:安房直子 『ハンカチの上の花畑』

2007-06-25 16:34:54 | 07 本の感想
安房直子 『ハンカチの上の花畑』(あかね書房)
★★★★☆

なくなったはずの酒蔵に、手紙を届けにやってきた
郵便配達夫の良夫さん。
おばあさんに招き入れられ、菊酒を作る小人たちを
呼び出すことのできるつぼとハンカチを預かることに。
いくらでも菊酒を作ってもかまわないが、条件がふたつ。
お酒をつくるところは、だれにも見せちゃいけない。
菊酒で、金もうけをしようと考えちゃいけない。
菊酒のおかげで楽しい毎日をすごし、良夫さんのもとには
およめさんもやってきたが……

**************************

小学生の女の子が「おもしろいよ!」と家に持ってきて
くれたのだけど……こ、こわっ!!
完全に大人の読み方をしてしまうのだけど、
善良な夫婦が現実的な欲望に屈していくところとか、
経済的な取引という大人社会の概念を持ち出すところとか、
快楽を知って労働を放棄するところとか、
中盤はおそろしくておそろしくて。
小人の家でお茶を出されて、

「ほんの一口のんだだけで、ふたりの心の、おそれやしんぱいや、
悲しみが、霧のように消えました。……(略)……
ふたりの心は、すっかり明るくなりました。そのうえ、なんだか、
うきうきしてきたのです」

というところなんて、
「ド、ドラッグ!!」
と戦慄。シュールだよ!
ちなみに、持ってきてくれた子に「これ、怖いよ~!」と言ったら
「どこが??」とケロリと返されました。

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80:豊島ミホ 『底辺女子高生』

2007-06-25 16:06:41 | 07 本の感想
豊島ミホ 『底辺女子高生』(幻冬舎文庫)
★★★★☆

クラス替え当初に行われる「値踏み」。
その結果、クラスのヒエラルキーの「底辺」に位置づけられ、
底辺生活から脱出すべく大阪に家出。
保健室の常連になり、出席日数不足でひとりきりの卒業式。
そんな高校時代の思い出を綴ったWeb連載のエッセイ。

痛い、痛い!
そう、地味女子は生きにくいのよねー。
そしてその後どれほど華やかな生活を送ることになろうが、
「思春期に女の子としてどこに位置していたか」は
確実にその後の人生に影響を及ぼすのです(断言)。
別にものすごくいやなことがあったわけでもないのだけれど、
とにかく思春期にまつわるあれやこれやがいやでしかたなく、
「出家したい……」と口癖のように思っていた高校時代を思い出して
暗澹たる気分に……

バレーボールの話とか、よくわかります。
都合の悪いことはすぐに忘れるわたしだけれど、
その忘れたあれこれを取り出して見せ付けられた気分。
過ぎ去ったできごととして客観的に自分を見つめ、
読者を楽しませようという意識も働いているのだけれど、
「まだ傷ついてるんだからね!」という恨みがましさも出ていて、
その素直さに共感したり目をそらしたくなったり。

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79:吉野万理子 『秋の大三角』

2007-06-17 20:42:11 | 07 本の感想
吉野万理子『秋の大三角』(新潮社)
★★★☆☆

第一回新潮エンターテイメント新人賞受賞作。
ミッション系女子校に通う中学生・里沙は、
あこがれの先輩・真央から頼まれ、根岸線に出没するという
新手の痴漢「キス魔」の情報を集めることになるが、
ある日真央といっしょにいるときに「キス魔」を発見。
真央がそのオトコにキスするところを見てしまい……
という学園ファンタジー。

籐子ちゃんのレビューを読んで、怖いもの見たさで手に取ったものの、
いまいち作品世界に入り込めなかったのは
眠い中で読んだからでしょうか……。
前評判で聞いてたとおり「マリみて」っぽいんだけど、
だったら「マリみて」のほうがいいなあ。
あれはイラストの力がかなりあると思うので、
文章だけで喚起するイメージといっても想像がつかないんだけど。
(ビジュアル的には志摩子さんがいちばん好き
わたしはお姫さまな女の子が好みで、
真央先輩の魅力が全然わからなかったのも大きいかも?
後半、主人公が懸命になってるのは真央先輩ゆえなので、
そこに感情移入できないとつらい。

そんなこんなで好みの問題というのもあるのだけれど、
なんとも薄くて、淡々と読み終えてしまいました。
厚さのわりに読後なにも残らなかった。残念。
でも放棄しないで最後まで読み通せたので、それだけの筆力はあるんだろうな。

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78:関口安義 『芥川龍之介』

2007-06-13 23:32:42 | 07 本の感想
関口安義『芥川龍之介』(岩波新書)
★★★★☆

芥川龍之介の生涯と人となり、作品が執筆された背景を
追った評伝。
芥川龍之介については、国語便覧に載っているようなことと
北村薫『六の宮の姫君』で読んだことくらいしか知らなかったので、
新鮮な気持ちで読めました。

師である漱石からの励ましの手紙にはほろっときちゃうのだけど、
芥川のほうには漱石に対して、尊敬ばかりではない葛藤が
あったのだなあ。
漱石との関係、一途に文学の道へ突き進もうとする
同時代の文学者たちとの交流に、
なにやらときめきを感じてしまいます。
鴎外の影響も受けてたのね、とちょっとうれしい。

結婚前の奥さんへのラブレターは、
「ぎゃー!!」とごろごろ転がりたいほど恥ずかしいのだけど、
その恥ずかしさがどこから来てるかと言えば、
文中にやたら英語や横文字を使いたがる「西洋かぶれ」の
部分だという気がする。
これは当時のほかの文学者の作品や書簡も同様。
そして芥川最晩年の写真は、見ればみるほど館ひろしに似ている……。

追記:出口王仁三郎って「出口の現代文」の人の祖先。
   出てきておどろきました。
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77:豊島ミホ 『陽の子雨の子』

2007-06-13 12:37:35 | 07 本の感想
豊島ミホ 『陽の子雨の子』(講談社)
★★★☆☆

私立の男子中学に通う夕陽は、担任の先生の同級生だという
24歳の雪枝に出会う。
招かれて、彼女の住む古い家を訪れた夕陽に、
雪枝は思いがけないものを見せる。
それは4年前に彼女に拾われたという19歳の男で、
押入れの中で後ろ手に縛られていた。

***********************

変質者っぽい怖い女が出てきたと思ったら、
乙女チックで可愛い話。
うーん……。
前半のなにかすごいわけがありそうな、演出された
「異常さ」に対して、後半の展開は「えっ、そんなこと?」と
拍子抜けしてしまった。
いまいち説得力がなく、なんだかもやもや。
自分に才能がないことを悟りつつ、
普通でいることに甘んじられずにあがく、
そんな心理もわかるんだけど、とにかく筆が追いついていない印象。
夕陽と聡という二人の男の子の視点で話が進むのだけど、
それがうまく機能していなくて、焦点もブレてる感じ。

雰囲気は好きで、黄色いカッパを着せられたり、
気になる女の子に対するふるまいなんかも可愛いんだけどなあ。
その女の子の清らかな雰囲気もとっても好み。
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76:森絵都 『屋久島ジュウソウ』

2007-06-12 09:43:21 | 07 本の感想
森絵都 『屋久島ジュウソウ』(集英社)
★★☆☆☆

表題作の屋久島旅日記に、『小説すばる』連載の
旅エッセイの一部を収録。

森絵都さんのエッセイを読んだのは初めてなのだけど、
うーん……正直なところ、読むのがつらかった。
最後のほうは流し読み。
わたしが旅や紀行文に求めるものと、この本の内容が
合致していなかったのだと思う。
これを読んで「屋久島に行きたい!」と思うこともなく、
いったい何のために書かれたのかがさっぱりわからなかった。
「これから屋久島に行くので体験談を読みたい」
という人にはいいのかもしれないけど……。

旅というのは非常に個人的な経験なので、
紀行文を書くという作業には、読者に向けてかなりのサービス精神が
必要とされるのではないかと思います。
個人的な覚え書きや日記ならともかく、
商品としておもしろいものとなるとかなり難しい気がする。

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75:吉本隆明 『超恋愛論』

2007-06-11 10:16:05 | 07 本の感想
吉本隆明 『超恋愛論』(大和書房)
★★★★☆

吉本隆明が恋愛論……。
なにやらとても不思議な感じがするのだけれど、
巷にあふれる恋愛論とはやはり違います。

エッセイ的な部分はあまり好きじゃなかったな。
でも男性が根拠を持ってまじめに、
ロマンチックな理想を語るのは嫌いじゃありません。

第3章は論説的。
近代文学者たちの私生活や作品についての例を挙げ、
日本社会のシステムや因習とのかかわりから
描かれる恋愛を分析しているところがおもしろい。
漱石が『こころ』や『それから』でくりかえし描いている
一人の女性をめぐる三角関係というものは、
非常に日本的な恋愛の形態である、というのが筆者の主張。
日本の知識人の内向性と同性愛な要素に触れ、
当時の社会のあり方と文学の関係について言及しています。

わたしが大学時代に受けた講義で最も印象に残っているのは、
専攻とはほとんど関係ない、「名作の読み直し」でした。
宮澤賢治の『銀河鉄道の夜』で、親友だと思っているのは
ジョバンニだけで、カムパネルラはそう思ってないよ、とか、
『こころ』は恋愛の話ではなく金銭問題の話なのだ、とか。
妄想めいた論文を読むのがとってもおもしろかった。
入学したばかりの頃に、
「出世したい人、お金をもうけたい人は文学部に来るな」
というようなことを教授が言っていたのだけど、
その講義で、確かに文学って非生産的でロマンチックなのだなあ
……と思ったのでした。

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74:川上弘美 『東京日記 卵一個ぶんのお祝い。』

2007-06-08 16:55:27 | 07 本の感想
川上弘美『東京日記 卵一個ぶんのお祝い。』(平凡社)
★★★★☆

雑誌「東京人」に連載されていた、
「五分の四くらいは、ほんとう」の日記。
小説に通ずる、ふわふわ、ゆらゆらした雰囲気で、くすりと笑わせる。
川上さんは五十近いと思うのだけど
日記から浮かび上がる人物像は、(多少の演出はあるにしろ)
ちょっと不思議な、可愛い女の人という感じ。

対談相手の「某○さん」というのが何人か出てくるのだけど、
これはあの人、こっちはあの人、と考えるのが楽しかった。
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