Chloroplast retrograde signal regulates flowering
Feng et al. PNAS (2016) 113:10708-10713.
doi: 10.1073/pnas.1521599113
光は花成を制御する重要な環境要因の1つであり、光強度も重要な因子となっている。シロイヌナズナをはじめ多くの高等植物は強光に応答して栄養成長が進み、生殖成長への移行が早まるが、その機構は明らかとなっていない。中国科学院植物研究所のZhang らは、シロイヌナズナの57の野生系統を異なる光強度で育成した場合の花成時期を調査し、殆どの系統が強光条件で花成時期が早まるのに対して、Landsberg erecta (Ler )、Da(1)-12、ShakdaraといったFLC 遺伝子が機能していない系統では強光による花成促進が起こらないことを見出した。このことから、強光が誘導する花成はFLC 活性が関与していることが推測される。そこで、flc-3 機能喪失変異体の花成を調査したところ、この変異体は強光処理による花成時期の変化を示さなかった。また、flc-3 変異体でFLC 遺伝子を自身のプロモーター制御下で発現させると強光に対する応答性を示した。FLC 発現量の高いFRI-Colは、低温春化処理をしてFLC の転写を抑制した場合のみ強光応答性を示し、Col-0を強光処理をすることでFLC の転写産物量が減少した。これらのことから、強光はFLC の転写抑制を介して花成を促進していることが示唆される。葉緑体包膜に結合しているPHD型転写因子のPTM(PHD type transcription factor with transmembrane domains)は、強光シグナルを伝達して光合成やストレス応答遺伝子の発現を制御している。ptm 変異体は強光処理による花成促進が殆ど見られず、FLC 発現量の変化も僅かであった。ptm flc-3 二重変異体の花成時期はflc-3 変異体と同程度であり、強光に応答した花成時期変化は起こらなかった。これらの結果から、PTM から発せられるプラスチドのシグナルがFLC の発現を抑制して強光による花成促進をもたらしていると考えられる。主要な光合成産物の1つである糖は、強光条件で蓄積して花成制御に関与しているが、強光処理によるショ糖の蓄積やショ糖添加に対する花成応答において野生型とflc-3 変異体の間で差が見られないことから、FLC を介した強光による花成制御には糖生産の増加は関与していないと考えられる。PTMタンパク質は強光を受けるとタンパク質分子が切断され、58-kDa N末端領域(N-PTM)が核に蓄積する。N-PTMは、FLC 遺伝子プロモーター領域の転写開始点に近い39 bpの領域に結合することが各種アッセイから確認され、この結合はFLC クレイドの他の遺伝子のプロモーターでは見られないFLC 遺伝子に特異的なものであった。デュアルルシフェラーゼアッセイの結果から、N-PTMはFLC 遺伝子の特定領域に結合することで遺伝子発現を抑制することが判った。PHD-タイプの転写因子はヒストン修飾によって遺伝子発現を制御しているとされている。FLC 染色体では活性ヒストン示すH3acやH3K4me3が強光処理によって減少した。一方、抑制ヒストンを示すH3K27me3は殆ど変化しなかった。さらに、強光処理によるH3acやH3K4me3量の減少はptm 変異体では殆ど減少しなかった。強光処理によるH3ac、H3K4me3、H3K27me3の全体的な変化は、野生型もptm 変異体も明確には見られないことから、PTMは強光応答に際して一部の遺伝子のみをターゲットとしていると考えられる。これらの結果から、強光はPTMの作用によってFLC 染色体のH3acやH3K4me3の量を制御することでFCL 遺伝子をサイレンシングしていることが示唆される。PHD型転写因子はクロマチン再構成タンパク質と結合してヒストン修飾を行なうとされている。各種アッセイから、PTMは、FLC の抑制を介して花成を促進することが知られているFVEと相互作用をすることが判った。fve-3 変異体は、ptm 変異体と同様に、強光処理による花成促進が見られなかった。ptm fve-3 二重変異体はptm 単独変異体よりも花成が遅延するが、花成時期はfve-3 単独変異体と同程度であり、相加的な効果は見られなかった。PTM を恒常的に発現させると花成が促進されるが、fve-3 変異体でPTM を発現させても花成促進は起こらなかった。これらの結果から、PTM はFVE に依存して花成を制御しているものと思われる。共免疫沈降アッセイの結果、FVEはN-PTMと相互作用をし、複合体の量は光照射量が増えるにつれて増加することが判った。光照射量の増加に伴ってFVEのFLC 遺伝子プロモーター領域への結合量は増加したが、この増加はptm 変異体では見られなかった。したがって、強光下でのFLC 染色体へのFVEの蓄積にはPTMが関与していると考えられる。以上の結果から、強光による花成促進は、葉緑体から逆行シグナルとして放出されたN-PTMとFVEとの複合体がFLC 染色体を修飾してFLC の発現を抑制することでなされると考えられる。