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論文)塩ストレスによるジャスモン酸シグナルの活性化と根の伸長阻害

2016-08-02 05:13:58 | 読んだ論文備忘録

Salt stress response triggers activation of the jasmonate signaling pathway leading to inhibition of cell elongation in Arabidopsis primary root
Valenzuela et al. Journal of Experimental Botany (2016) 67:4209-4220.

doi:10.1093/jxb/erw202

塩分は主要な非生物ストレスであり、イオンストレス、浸透圧ストレス、酸化ストレスをもたらすことで植物の成長に対して負に作用する。近年、塩ストレス応答とジャスモン酸(JA)シグナルが関連していることが報告されており、塩ストレスによってJAシグナルが活性化され根の伸長が阻害されるという仮説が成り立つが、詳細は明らかとなっていない。チリ タルカ大学のFigueroa らは、水耕栽培のシロイヌナズナに3時間の塩処理(150mM NaCl)をして、JAによって発現誘導されるJAZ 遺伝子の転写産物量変化を調査した。その結果、シロイヌナズナの9つのJAZ 遺伝子のうち、JAZ4JAZ6 以外は根において転写産物量の増加が確認された。一方、JA処理(50μM MeJA)をした際にはJAZ4 以外のJAZ 遺伝子の転写産物量が増加した。したがって、塩ストレスは根のJAシグナル経路の活性化を引き起こしていることが示唆される。塩ストレスによるJAZ 遺伝子の発現誘導は、処理1時間後には転写産物量の増加が観察され、6時間後に最大となり、その後減少した。塩ストレスは、JAシグナルの正の制御因子をコードするMYC2 の転写産物量も増加させたが、JA受容体をコードするCOI1 の発現量は変化が見られなかった。coi1-2 変異体では、塩ストレスおよびJA処理によるJAZ 遺伝子の発現誘導が対照よりも減少していた。このことから、塩ストレスによる根でのJAZ 遺伝子発現誘導にはCOI1が関与していることが示唆される。塩ストレスを介したJAシグナルの活性化が根のどの領域で起こっているかを見るために、JAZ1-GUS融合タンパク質をCaMV 35Sプロモーターで恒常的に発現させたシロイヌナズナを塩もしくはJA処理をして主根でのGUSシグナルの減少(JAZ1-GUSの分解)を見たところ、両処理とも分化領域(DZ)、伸長領域(EZ)、分裂領域(MZ)の3領域においてシグナルの減少が見られた。COI1、JAZ3、MYC2/3/4といったJAシグナル伝達に関与する因子の変異体ではJA処理をしても主根が伸長する。coi1-2 変異体、myc2/3/4 変異体は塩ストレスによって主根の成長が阻害されたが、野生型と比較すると阻害の程度は弱かった。根の各領域で伸長阻害の程度を見ると、myc2/3/4 変異体やjai3-1 変異体はEZの長さが野生型よりも長く、JA関連の変異体(aoscoi1jai3myc2/3/4 )ではEZの細胞の長さが野生型よりも長くなっていた。COI1 のヌル変異体であるcoi1-1 においても、塩処理によるEZ細胞の伸長阻害が見られることから、塩ストレスによるEZ細胞の伸長阻害にはJAシグナル依存した経路と依存していない経路が関与していると考えられる。NaClによる塩ストレスはイオンストレスと浸透圧ストレスの2つに分けることが出来る。そこで、NaCl処理、JA処理に加えて、イオンストレスとしてLiCl処理、浸透圧ストレスとしてマンニトール処理をしてEZの細胞伸長を見たところ、LiCl処理では伸長阻害が見られなかった。よって、イオンストレス自体はEZの伸長阻害は引き起こさないものと考えられる。マンニトール処理はEZの細胞の伸長阻害を起こし、この阻害はCOI1やJAZ3に依存していた。以上の結果から、塩ストレスはジャスモン酸シグナルを活性化することによって根の伸長領域の細胞伸長を阻害しており、このことが塩ストレスによる根の伸長阻害に部分的に関連していると考えられる。

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