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論文)アルカリストレスによる根の成長阻害

2015-08-21 06:00:54 | 読んだ論文備忘録

Ethylene Inhibits Root Elongation during Alkaline Stress through AUXIN1 and Associated Changes in Auxin Accumulation
Li et al.  Plant Physiology (2015) 168:1777-1791.

doi:10.1104/pp.15.00523

アルカリストレスはシュートや根の成長阻害を引き起こす。アルカリストレスによる根の成長阻害には、オーキシン分布の変化、細胞膜プロトンATPアーゼ活性、微小管の安定性が関与しているとされている。中国 武漢大学のLu らは、シロイヌナズナの芽生えにpH 8.0もしくは9.0のアルカリストレスを与え、アルカリストレスによる主根の伸長阻害機構を解析した。根の成長阻害はアルカリ強度と相関があり、根端分裂組織や伸長領域の成長量が低下し、分化領域の細胞の長さが短くなっていた。アルカリストレスは幹細胞の活性には影響していなかったが、分裂組織の細胞分裂能力を低下させており、細胞周期に関与する遺伝子や細胞周期を制御する転写因子遺伝子の発現量を低下させていた。ストレス応答や主根の伸長阻害にエチレンが関与していることが知られていることから、エチレン受容の拮抗剤である銀イオンの処理をしたところ、アルカリストレスによる根の伸長阻害が緩和された。よって、アルカリストレスによる根の伸長阻害にはエチレンが関与していると考えられる。アルカリストレスはエチレンシグナル伝達に関与しているETR1EIN2EIN3 の発現を誘導し、エチレンレポーターであるEBS::GUS の根端部分での発現を誘導した。また、etr1 変異体、ein2 変異体、ein3 変異体は野生型植物よりもアルカリストレスによる根の成長阻害が弱くなっていた。エチレン生合成の拮抗剤であるコバルトイオンを与えるとアルカリストレスによる根の伸長阻害が抑制された。根においてエチレン生合成に関与しているACS2ACS5ACS6ACS8 の発現量はアルカリストレスによって増加し、内生エチレン量も増加した。恒常的にエチレンを過剰生産するeto1-1 変異体はアルカリストレスに対する感受性が高くなっていた。エチレンは根の分裂組織や伸長領域のオーキシン蓄積を促進し、根端のオーキシン量を増加させることが知られている。アルカリストレスはTrp生合成やTrpからのIAA生合成に関与する酵素の遺伝子の転写産物量を増加させ、内生IAA量を増加させた。また、インドールグルコシノレート生合成に関与する遺伝子の発現量も増加させた。オーキシン生合成が欠失しているwei2 変異体やwei8 変異体はアルカリストレスによる根の伸長阻害が緩和していた。したがって、アルカリストレスは、オーキシン生合成遺伝子の発現量を増加させることで増加したオーキシンによって根の伸長を抑制していると考えられる。エチレンの前駆体であるACCを処理すると根のオーキシンシグナルが増加すること、銀イオンやコバルトイオンを添加してアルカリストレスを与えるとオーキシンシグナルの増加が抑制されることから、アルカリストレスによるオーキシンシグナルの増加にはエチレン生合成やエチレンシグナルか関与していると考えられる。アルカリストレスに対する感受性の高いeto1-1 変異体にオーキシン非感受性のaxr1-3 変異を導入すると、感受性の増加が抑制された。アルカリストレスによるIAA量の増加は、etr1 変異体やein3 変異体では抑制されていた。よって、エチレンはアルカリストレス下においてオーキシン量を増加させることで根の成長阻害を引き起こしていると考えられる。根におけるオーキシンの分布や蓄積にはオーキシンの極性輸送も関与しており、アルカリストレスによる根の伸長阻害にオーキシン排出キャリアPIN2が関与していることが報告されている。根の伸長制御に関与しているオーキシン流入キャリアをコードするAUX1 の発現量はアルカリストレスによって増加した。また、aux1 変異体はアルカリストレスによる根の伸長阻害に対してやや感受性が低下していた。よって、AUX1 はアルカリストレスによる根の伸長阻害に関与していると考えられる。アルカリストレスによるAUX1 の発現量増加は、銀イオンやコバルトイオンを添加した野生型植物、etr1 変異体、ein2 変異体、ein3 変異体では抑制された。また、aux1 変異体のアルカリストレス感受性低下はeto1-1 変異を導入しても変化しなかった。したがって、アルカリストレスによるAUX1 の発現量増加にエチレンが関与していることが示唆される。以上の結果から、エチレンはAUX1 とオーキシン生合成に関与する遺伝子の発現を誘導してオーキシン蓄積量を増加させることでアルカリストレスによる根の成長阻害を引き起こしていると考えられる。

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