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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)自発休眠とオーキシンの関係

2011-03-02 06:01:36 | 読んだ論文備忘録

Activity-dormancy transition in the cambial meristem involves stage-specific modulation of auxin response in hybrid aspen
Baba et al.  PNAS (2011) 108:3418-3423.
doi:10.1073/pnas.1011506108

温帯高緯度地域の樹木のような多年生植物では、短日条件によって分裂組織の成長停止と休眠が誘導されるが、その分子機構は明らかとなっていない。短日条件によって誘導される休眠は、長日条件に置くことで成長が再開する可逆的な他発休眠と、多発休眠状態からさらに短日条件処理が長くなることで引き起こされる低温処理を与えなければ成長を再開しない自発休眠に分類される。スウェーデン農業科学大学Bhalerao らは、雑種ヤマナラシ(Populus tremula ×P. tremuloides )を実験材料に用いて短日条件によって誘導される休眠機構の解析を行なった。雑種ヤマナラシは40日以上短日条件に置くと他発休眠に入り、56日以上になると自発休眠状態となって長日条件に戻したりオーキシン処理をしても形成層細胞の分裂が起こらなくなった。多くの植物においてオーキシン極性輸送の乱れが分裂組織活性を低下させることから、休眠へ移行する際のオーキシン極性輸送変化を調査したところ、オーキシン極性輸送は成長の停止から自発休眠に入っても維持されていることがわかった。活発に成長している間は、オーキシン極性輸送に関与するコンポーネントをコードしているPttPAX3PttPPL1 の発現が形成層のオーキシン処理によって誘導されるが、42日以上短日条件に置くと、オーキシン極性輸送は見られるが、これらの遺伝子のオーキシン処理による発現誘導が起こらなくなり、この状態は自発休眠に入っても維持された。これらの遺伝子のオーキシンによる転写制御にAUX/IAA転写因子が関与しているか、PttIAA8PttIAA1PttIAA5 遺伝子の発現を経時的に調査したところ、56日以上の短日条件に曝されて自発休眠に入るとオーキシン処理によるAUX/IAA 遺伝子の発現誘導量が低下することがわかった。短日処理によるオーキシン応答性の変化をマイクロアレイにより網羅的に解析したところ、オーキシン応答の大きな変化は短日処理28日後に起こり、607の転写産物がオーキシン応答性を失った。その後は連続的にオーキシン応答性を失う転写産物が見られ、自発休眠時にオーキシン応答性を示す転写産物は238のみとなっていた。オーキシンに応答する遺伝子のプロモーター領域にはオーキシン応答エレメントが存在していることから、短日処理によるオーキシン応答性の低下とオーキシン応答エレメントのとの関係を見たところ、オーキシン応答性を長く維持する遺伝子のプロモーター領域はオーキシン応答エレメントの数が多い傾向にあることがわかった。AUX/IAAタンパク質はオーキシン存在下でSCF複合体によりポリユビキチン化され26Sプロテアソーム系によって分解される。活発に生長する植物の抽出液はPttIAA3をユビキチン化したが、自発休眠植物由来の抽出液はユビキチン化を起こさなかった。F-boxタンパク質をコードするPttTIR1PttAXR1 のうちPttTIR1 の発現量は短日処理42日以降はそれ以前の半分に低下していたが、どちらも自発休眠時においても発現が見られた。以上の結果から、短日条件によって誘導される休眠にはオーキシン応答性の低下が関与していると考えられる。

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