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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)適度な塩ストレスによる側根形成の変化

2010-01-07 05:54:26 | 読んだ論文備忘録

Mild salinity stimulates a stress-induced morphogenic response in Arabidopsis thaliana roots
Zolla et al.  J. Exp. Bot. (2010) 61:211-224.
doi:10.1093/jxb/erp290

植物の根は局所的な土壌環境に応答してその成長パターンを変化させる。イスラエル ベングリオン大学のBarak らは、適度な塩ストレスを与えた際のシロイヌナズナの根の形態変化を調査した。シロイヌナズナの芽生えを各種NaCl濃度の培地で育成したところ、塩濃度に応じて側根数が増加し、50 mMではNaCl無添加に比べて倍近い側根が形成された。しかし100 mM NaClでは側根の形成が完全に抑制された。適度な塩ストレス(50 mM)は二次、三次の側根形成も誘導したが、一次根の伸長は著しく抑制した。塩ストレスによって誘導された側根は無ストレス下で形成された側根よりも短く、すべての側根の長さの合計で比較すると、塩ストレスによる側根数の増加は側根伸長の抑制を補ってはいないことがわかった。シロイヌナズナは低硝酸イオン条件(1 µM)から高硝酸イオン条件(1 mM)へ移すと側根数が増加することが知られている。その際に更に適度な塩ストレスを与えると一次側根の誘導数は塩ストレス単独処理と代わりはないが、二次、三次側根の形成数は増加した。高硝酸イオン条件は側根の伸長には影響せず、一次根の伸長も塩ストレス単独処理と同様に抑制されたが、側根数の増加が側根伸長の抑制を補っていた。高硝酸イオン処理の際に塩ストレスと同等の浸透圧となるようにマンニトールを添加(100 mM)したところ、一次根の伸長にはあまり影響を及ぼさず、一次側根数が減って平均側根長が短くなり全側根長は大きく減少した。よって、浸透圧ストレスは側根伸長の抑制は引き起こすが側根数の増加は起こさない。誘導される側根原基の割合は塩ストレスの有無で差はないが、塩ストレス下では側根へと発達する数が多かった。側根原基の誘導や側根伸長はオーキシンによる制御を受けていることが知られているので、オーキシンの生合成(nit1-3 )、輸送(axr4-2aux1-7 )、シグナル伝達(axr1-3tir1-1eta3/tir1-1 )に関する突然変異体での塩ストレスによる側根形成数を見たところ、aux1-7 変異体では塩ストレスによる側根形成数の増加が抑制されていた。よって、AUX1によるオーキシン輸送が塩ストレスによる側根形成に必須であり、側根原基でのオーキシン蓄積量の増加が側根の発達を促していると考えられる。オーキシンは塩ストレスによる側根伸長の抑制には関与していなかった。また、アブシジン酸(ABA)やエチレンに関する変異体を用いた解析から、ABA生合成とEIN2によるエチレンシグナル伝達が塩ストレスによる一次側根形成数の増加に関与していることが示された。

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