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植物観察、読んだ論文に関しての備忘録
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論文)気孔形成を正に制御する因子

2010-01-19 23:36:14 | 読んだ論文備忘録

Stomagen positively regulates stomatal density in Arabidopsis
Sugano et al.  Nature (2010)463:241-244.

doi:10.1038/nature08682

気孔の形成に関してのこれまでの研究から、分泌タンパク質EPIDERMAL PATTERNING FACTOR(EPF1)、EPF2 とその受容体のTOO MANY MOUTHS(TMM)、およびスブチリシン様プロテアーゼのSTOMATAL DENSITY AND DISTRIBUTION 1(SDD1)による負の制御が知られている。気孔形成を正に制御するシグナルも存在するはずだが、詳細は明らかとはなっていない。京都大学の西村らは、シロイヌナズナトランスクリプトームデータベースATTED-Ⅱによるin silico スクリーニングを行ない、TMMSDD1EPF1 とともに発現する遺伝子の探索を行なった。そして、EPFファミリーに属する機能未知のタンパク質EPFL9をコードする遺伝子At4g12970を見出した。At4g12970を過剰発現させたシロイヌナズナは気孔形成する様々な器官において気孔密度が増加し、人工マイクロRNAにより遺伝子サイレンシングを起こさせた個体では気孔密度が減少した。この気孔形成活性から本遺伝子をSTOMAGEN (ストマジェン)と命名し、さらに解析を行なった。STOMAGEN は未成熟な葉、茎、花芽で主に発現しており、詳細に発現部位を観察すると葉原基では葉肉細胞で発現が見られた。よって、ストマジェンは葉肉細胞で生産されアポプラスト経由で表皮細胞へ移行し気孔形成を誘導していると考えられる。STOMAGEN 遺伝子は102アミノ酸からなるタンパク質をコードしており、生体内でアミノ末端側のシグナルペプチドが切断されて6つのシステイン残基を持つ45アミノ酸のペプチドが形成される。ストマジェン様ペプチドをコードする遺伝子は様々な植物種に分布している。植物体をストマジェン処理すると、その濃度に応じて気孔密度が高まった。よって、ストマジェンは気孔形成を誘導する分泌性の因子であると考えられる。気孔分化の最初のステップはSPEECHLESSSPCH )遺伝子のコードするbHLH型転写因子によるTMMEPF1EPF2 の発現制御が引き金となっている。spch 変異体でSTOMAGEN を過剰発現させてもストマジェン処理をしても気孔形成は誘導されないことから、ストマジェンによる気孔形成誘導はSPCH 経路を介して行なわれている。また、tmm 変異体でSTOMAGEN を過剰発現させても発現抑制させても気孔密度に変化が見られないことから、ストマジェンによる気孔形成にはTMMが必要である。したがって、ストマジェン、EPF1、EPF2の三者はTMMを介して気孔形成を制御していると考えられる。

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