Nitrogen Mediates Flowering Time and Nitrogen Use Efficiency via Floral Regulators in Rice
Zhang et al. Current Biology (2021) 31:671-683.
doi:10.1016/j.cub.2020.10.095
一般的に、窒素施肥量を増やすと開花や成熟が遅延し、低窒素条件では開花は促進される。しかしながら、窒素による開花制御の分子機構は明らかとなっていない。中国 南京農業大学のXu らは、水耕栽培イネに供給する窒素を低濃度(0.25 mM LN)、正常濃度(2.5 mM NN)、高濃度(10 mM HN)の三水準に分けて短日もしくは長日条件で育成し、開花までの日数を調査した。その結果、LNとHNで育成したイネはNNで育成したイネよりも開花までの日数が日長に関係なく長くなることが判った。イネの茎頂分裂組織のRNA-seq解析から、HNで育成しているイネが生殖成長に移行した際に高い発現を示すMYBファミリー転写因子遺伝子Os08g0157600を見出し、N-mediated heading date1 (Nhd1 )と命名した。Nhd1 はシロイヌナズナのCIRCADIAN CLOCK ASSOCIATED 1 (CCA1 )やLATE ELONGATED HYPOCOTYL (LHY )との類似性が高く、葉や根での発現は周期性を示した。実生でのNhd1 の発現は窒素供給量と正の相関があり、出穂期ではNNで育成したイネでHNやLNで育成したイネよりも発現量が高くなっていた。アンモニアやグルタミン(Gln)の添加は、硝酸アンモニウム、硝酸、グルタミン酸を添加した場合よりも葉でのNhd1 の発現量が高くなった。また、グルタミンシンテターゼ(GS)の阻害剤であるL-メチオニンスルホキシミン(MSX)の添加によりNhd1 やイネのフロリゲン遺伝子であるHd3a の発現が抑制され、Glnを加えることで再活性化した。これらの結果から、GlnもしくはGlnの下流の代謝産物は日長とは独立してイネの花成を制御する窒素因子の1つであると考えられる。nhd1 変異体は花成遅延し、窒素供給による花成時期の変化が見られなくなった。また、複数の花成遺伝子の止葉での発現を見たところ、nhd1 変異体ではHd3a の発現のみが抑制されていた。Nhd1はHd3a 遺伝子のプロモーター領域に結合して発現を活性化させることが確認された。hd3a 変異体は花成遅延し、nhd1 変異体と同じように、窒素供給による花成時期の変化が見られなくなった。nhd1 変異体は野生型よりも生育期間が長いため窒素摂取量が多くなり、収量も高くなった。また、nhd1 変異体は野生型よりもシンク器官への窒素配分が促進されていた。したがって、nhd1 変異体は窒素の取込みと利用効率が高いといえる。窒素利用効率はGS/GOGATサイクルによる窒素同化とアミノ酸トランスポーターによる窒素輸送によるところが大きい。nhd1 変異体では窒素供給量に関係なくOsFd-GOGAT の発現が劇的に増加したが、OsGS1.1 とOsNADH-GOGAT の発現は窒素供給量に依存していた。窒素供給によりNhd1 の発現は上昇したが、OsFd-GOGAT の発現量とOsFd-GOGAT活性は低下した。また、Nhd1はOsFd-GOGAT 遺伝子プロモーター領域に結合することが確認された。nhd1 変異体ではアミノ酸トランスポーターをコードするOsLHT1 の発現量も増加していた。113種のジャポニカイネと127種のインディカイネについてNhd1 のプロモーター領域およびコード領域の配列を調査し、SNPに基づいた5つのハプロタイプ(Hap.A~Hap.E)が確認された。そして、Hap.A、B、CはHNでの育成で花成時期変化は見られなかったが、Hap.D、Eは花成遅延を示した。両者の間にはプロモーター領域に複数のSNPがあり、Hap.EはHap.AやHap.CよりもHNで発現量が大きく減少していた。以上の結果から、Nhd1はHda3 とOsFd-GOGAT の発現を制御することで、窒素供給に応答した花成と窒素利用効率を調節していると考えられる。
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