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論文)根端分裂組織の活性を制御するペプチドホルモン

2010-08-31 21:22:03 | 読んだ論文備忘録

Secreted Peptide Signals Required for Maintenance of Root Stem Cell Niche in Arabidopsis
Matsuzaki et al.  Science (2010) 329:1065-1067.

DOI: 10.1126/science.1191132

植物においても細胞間のシグナル伝達に関与する分泌ペプチドがいくつか報告されている。ペプチドホルモンの中には、翻訳後にチロシン残基が硫酸化される修飾を受けるものがあり、この修飾はペプチドホルモンの機能にとって重要であることが知られている。名古屋大学の松林らは、シロイヌナズナのペプチドホルモン硫酸化を修飾する酵素tyrosylprotein sulfotransferase(AtTPST)の機能喪失変異体tpst-1 の表現型を解析し、変異体芽生えでは根の分裂組織の活性が低下して静止中心(QC)細胞が増加し、コルメラ層は幹細胞を含めてすべての細胞がデンプン粒を保持し、根端分裂組織のサイズが小さくなり、伸長-分化領域での細胞伸長・拡張に異常が見られることを見出した。変異体の根でのオーキシン極大の形成は野生型と同等であることから、変異体の根の異常はオーキシン分布が直接に関与してはいない。変異体の胚発生は正常であることから、この変異は胚発生後の根の発達時に影響を及ぼしている。根で発現していることが知られているチロシン硫酸化ペプチドホルモンのファイトスルフォカイン(PSK)とPSY1を変異体に与えたところ、伸長-分化領域での細胞伸長・拡張は回復したが、根端分裂組織の活性は促進されなかった。したがって、PSK、PSY1以外に根幹細胞の活性維持に関与する未知のペプチドホルモンが存在することが示唆される。そこで、シロイヌナズナゲノムから、ペプチドホルモンの条件(70-110アミノ酸で、Cys残基が少なく、分泌シグナルを有し、チロシン残基硫酸化モチーフとして機能するAsp-Tyr配列を含んでいる)を満たすポリペプチドをコードする遺伝子の探索を行ない、候補となるポリペプチドファミリーを見出した。その中の1つ、At5g60180をシロイヌナズナで過剰発現させ、アポプラストに局在するペプチドをnano-LC-MSで分析したところ、At5g60180から生成されたと思われる13アミノ酸からなるペプチドを検出した。化学合成して硫酸化したAt5g60180ペプチドをtpst-1 変異体に与えたところ、QC細胞の増加が抑制され、コルメラ幹細胞が正常な状態になり、根端分裂組織の活性も回復した。このペプチドをroot mristem growth factor 1(RGF1)と命名した。RGF1は0.1 nM以上で濃度に応じて活性を示し、完全な活性化のためにはPSK、PSY1を必要とした。また、チロシン残基の硫酸化はペプチドホルモンとして機能するために必須であった。他のRGFファミリーに属するペプチドもRGF8以外は活性を有していた。RGF1 はQCおよびコルメラ幹細胞で発現しており、RGF1ペプチドは分裂組織領域に拡散していた。個々のRGF ファミリーの機能喪失変異体は顕著な表現型の変化を示さなかったが、rgf1 rgf2 rgf3 三重変異体は根が短くなり、分裂組織の細胞数が減少していた。この変異体にRGF1を投与すると、分裂組織活性が回復した。RGF1による根端部列組織の活性制御を解明するために、分裂組織で発現している転写因子の変異体にRGF1を投与して形態変化を観察したところ、PLETHORAPLT )の機能喪失変異体plt1-4 plt2-2 ではRGF1の投与に対してほとんど効果が無いことがわかった。tpst-1 変異体ではPLTタンパク質量が減少しており、RGF1を投与することによって発現が回復した。転写産物量についてもPLT1 は野生型と同等であったが、PLT2 転写産物量は減少していた。したがって、RGFはPLT の発現を転写レベルおよび転写後レベルで制御していると考えられる。また、RGFはオーキシンシグナルとは別の経路で根端分裂組織活性に機能している。

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